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第四章 戦花の魔女

第102話 ただいま

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 私が十六歳になった頃。

「魔法石、直りましたよ」

「おお! ありがとう。君、すごいね」

「いえ。これくらい、どうってことないです」

 目の前で笑みを浮かべる若い男性。その手には、先ほど私が修理したばかりの魔法石。

 今、私が滞在している国。多くの町からなるそこは、子供が大通りで商売をしていても何も言われない。他人に無関心な人が多いからだろうか。それとも、寛容な人が多いからだろうか。なんにせよ、私にとってはありがたい国だった。

「そういえば、君、最近よくここで見かけるようになったけど、引っ越してきたの?」

 男性が、財布からお金を取り出しながら私にそう尋ねる。

「えっと。まあ、そうですね」

 私は、曖昧な表情を作りながらそう答えた。私がここにいる理由。それを、見ず知らずの人に告げてしまうほど、私はたいそうな人間ではない。

「そっか。どのあたりに住んでるの?」

「秘密です」

 私の言葉に、男性はなおも住んでいる場所を聞き出そうとした。だが、私がそれを誤魔化し続けていると、最後には、「ふむ……」と小さな声を漏らし、その場を去っていった。今のがナンパというやつなのだろうか。私にはよく分からないが。

「『どのあたりに住んでるの』……ね」

 無意識に呟く私。ゆっくりと顔を上に向けると、視線の先には、朱に染まる空。

「……帰ろう」

 立ち上がり、荷物をバッグにしまい込む。魔法でほうきを取り出し、それに乗って上空へ。その時、通りを歩いていた何人かが、こちらに視線を向けるのが分かった。

「…………」

 私は、その視線から逃げるように、ほうきを前進させる。地上よりも冷たい空気に身をゆだねながら町の外へ。しばらくして見えてきたのは、巨大な森。通称、『迷いの森』。入った者は一生出ることができないという大げさな噂話が流され、誰も入ることのない場所。

 森の上を飛んでいると、開けた広い土地が目に入る。そこにポツンと建つ一軒の家。その玄関前に降り立ち、ノックもなしに扉を開ける。何とも言えない不快な香り。しんと静まり返った室内。家具は、魔法で作ったテーブルと椅子のみ。床の上には、ゴミや埃。

「ただいま」

 自然と口から出る言葉。返ってくるのはただの静寂。
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