大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

第三章 旅の魔女

第64話 ……今、パパって言いかけませんでした？

　女性は改めて説明を始めました。

　女性の正体。それは、国を出て旅をする魔女。その旅の目的は、魔女としての力を高めることのようです。

「私のパ……師匠が言ったんです。お前は、魔女としての力はあるが、二つ名をもらえるほどではないって。だから、力を高めるために旅をしてこいって」

　……今、パパって言いかけませんでした？

　どうやら、旅人さんには、まだ師匠のような二つ名はないそうです。そもそも、二つ名なんて、周りの人が勝手につけるもの。だから、二つ名があるかないかなんて、重要なことだとは思えないのですが。まあ、考え方は人それぞれですよね。

「それで昨日、向こうの町で、『森の魔女』の噂を聞いたんです。二つ名がある魔女の方ってなかなか会えないじゃないですか。だから、勝負してもらおうと思いまして」

　町に流れている『森の魔女』の噂。誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。

　……そういえば、この噂を広めたのって誰なんだろう。

「いや、私があなたと勝負しなきゃならない理由が分からないんだけど」

「だって、力を高めるには実践が一番ですよね」

「それは……まあ……でも……」

　うーんと腕組みをして考えこむ師匠。師匠が何を考えているのか、僕には何となく分かりました。

　あ、師匠、めんどくさがってる。

　師匠は、基本、自分に利益がないようなことに対しては消極的です。だからこそ、旅人さんの申し出を断る可能性はかなり高いでしょう。さて、そうと分かれば、僕は傍観するだけですかね。

　ですが、次の瞬間。師匠の口が、三日月のような形へと変貌しました。ニッコリと笑みを浮かべた師匠の顔は、まるで人を誘惑する悪魔そのもの。

「いいよ。その勝負受けてあげる。ただし……」

　嫌な予感！

「弟子君がね」

　やっぱり！