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第二章
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胸を愛撫されながら、くちびるを塞がれる。口付けられて、触れ合った箇所から湿った音が響いた。
厭らしい水音が鼓膜から伝わり、体の熱がじわりじわりと上がっていく。
──もっとちゃんと、触って欲しい。
高められた体で、アシュリーがそう感じ始めるのは当たり前のことだった。
けれどヴィルヘルムの口付けは止まず、感じた言葉を口にすることはできない。
だから、アシュリーにできるのはそう願いながら自分からヴィルヘルムに口付け、舌を絡ませて誘惑することだけだった。
目を僅かに開くと、驚いたような顔をするヴィルヘルムの表情が見える。気付いてくれただろうか、と思った次の瞬間、触れ合っていたくちびるは離れ、ぬくもりも遠ざかっていった。
アシュリーが頭に疑問符を浮かべた次の瞬間、ヴィルヘルムはアシュリーのドレスの肩口に手をかけ、一気に引き下げた。残っているのは、久し振りに締め付けるように付けられたコルセットだけ。
それを目にして険しい顔をしたヴィルヘルムにアシュリーは不安になった。
──ヴィルヘルム様も、胸の大きいほうが好き……?
コルセットはドレスを着るときの淑女の嗜みだ。少しでも腰回りを細く、盛って胸を大きく見せて魅力的に見せるために付けられる。
もちろん外したあとの個人差はあるが、少なくとも今のアシュリーの胸元は作られたものだ。コルセットを外してしまえば、途端に元の慎ましやかな胸に戻ってしまう。
だからコルセットを外したら、ヴィルヘルムも自分に興味がなくなってしまうのではと不安になった。そう考え始めてしまうと、思考は悪い方へと向かうばかりだ。
だが、アシュリーの思考の進行を止めたのは、ヴィルヘルムからの予想外の言葉だった。
「……こんなに締め付けて、苦しくはないのか」
「え?」
「俺は、自然体のあなたのほうが好ましい。──外すが構わないだろうか?」
次いでそう、伺うように問いかけられる。
驚いたけれど、気付けばアシュリーは首を縦に振っていた。コルセットが外しやすいように体の位置を変えようとしたら、ヴィルヘルムの腕が伸びてきて、簡単にひっくり返されてしまう。
四つん這いになったアシュリーの腰をヴィルヘルムの大きな手のひらが掴む。もう片方の手で、背中に流れていた髪を掬われ、肩越しに前へと流された。
「ぁ……んん……っ」
露わになった首筋に、ヴィルヘルムが口付けてくる。びくりと体が揺れ、媚びるような吐息が溢れてしまい、アシュリーははっと口を押さえた。
乱されたドレスを剥ぎ取られ、締め付けていたコルセットの紐を解かれる。
締め付けがなくなり、やっと息ができると思ったのも束の間で、素肌の晒された背中に熱いくちびるが触れた。
ちゅ、ちゅ、と何度も優しいキスをされる。
くすぐったくて身動ぎをするけれど、ヴィルヘルムの手に腰をしっかりと掴まれていて動けない。
「ヴィ、ル、ヘルム……ぁ……さ、ま……っ」
名前を呼びながら、アシュリーはヴィルヘルムの様子を伺おうと、顔を背後に向けようとする。
「っひゃあ!」
何とかヴィルヘルムと視線が合う位置まで背後を振り向けたと思ったら、目が合った途端、腹部に腕が回り、一気に抱き寄せられた。
厭らしい水音が鼓膜から伝わり、体の熱がじわりじわりと上がっていく。
──もっとちゃんと、触って欲しい。
高められた体で、アシュリーがそう感じ始めるのは当たり前のことだった。
けれどヴィルヘルムの口付けは止まず、感じた言葉を口にすることはできない。
だから、アシュリーにできるのはそう願いながら自分からヴィルヘルムに口付け、舌を絡ませて誘惑することだけだった。
目を僅かに開くと、驚いたような顔をするヴィルヘルムの表情が見える。気付いてくれただろうか、と思った次の瞬間、触れ合っていたくちびるは離れ、ぬくもりも遠ざかっていった。
アシュリーが頭に疑問符を浮かべた次の瞬間、ヴィルヘルムはアシュリーのドレスの肩口に手をかけ、一気に引き下げた。残っているのは、久し振りに締め付けるように付けられたコルセットだけ。
それを目にして険しい顔をしたヴィルヘルムにアシュリーは不安になった。
──ヴィルヘルム様も、胸の大きいほうが好き……?
コルセットはドレスを着るときの淑女の嗜みだ。少しでも腰回りを細く、盛って胸を大きく見せて魅力的に見せるために付けられる。
もちろん外したあとの個人差はあるが、少なくとも今のアシュリーの胸元は作られたものだ。コルセットを外してしまえば、途端に元の慎ましやかな胸に戻ってしまう。
だからコルセットを外したら、ヴィルヘルムも自分に興味がなくなってしまうのではと不安になった。そう考え始めてしまうと、思考は悪い方へと向かうばかりだ。
だが、アシュリーの思考の進行を止めたのは、ヴィルヘルムからの予想外の言葉だった。
「……こんなに締め付けて、苦しくはないのか」
「え?」
「俺は、自然体のあなたのほうが好ましい。──外すが構わないだろうか?」
次いでそう、伺うように問いかけられる。
驚いたけれど、気付けばアシュリーは首を縦に振っていた。コルセットが外しやすいように体の位置を変えようとしたら、ヴィルヘルムの腕が伸びてきて、簡単にひっくり返されてしまう。
四つん這いになったアシュリーの腰をヴィルヘルムの大きな手のひらが掴む。もう片方の手で、背中に流れていた髪を掬われ、肩越しに前へと流された。
「ぁ……んん……っ」
露わになった首筋に、ヴィルヘルムが口付けてくる。びくりと体が揺れ、媚びるような吐息が溢れてしまい、アシュリーははっと口を押さえた。
乱されたドレスを剥ぎ取られ、締め付けていたコルセットの紐を解かれる。
締め付けがなくなり、やっと息ができると思ったのも束の間で、素肌の晒された背中に熱いくちびるが触れた。
ちゅ、ちゅ、と何度も優しいキスをされる。
くすぐったくて身動ぎをするけれど、ヴィルヘルムの手に腰をしっかりと掴まれていて動けない。
「ヴィ、ル、ヘルム……ぁ……さ、ま……っ」
名前を呼びながら、アシュリーはヴィルヘルムの様子を伺おうと、顔を背後に向けようとする。
「っひゃあ!」
何とかヴィルヘルムと視線が合う位置まで背後を振り向けたと思ったら、目が合った途端、腹部に腕が回り、一気に抱き寄せられた。
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