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第二章
(01)
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舞踏会当日。終業の鐘が鳴るのと同時にアシュリーは待ちかまえていたローウェルに腕を引かれ、半ば強制的に図書館から連れ出された。
腕を引かれ、頭からフードの付いたマントを着せられる。そして馬車に押し込まれて連れて行かれたのは、ローウェルの生家であるカルヴァート公爵邸だった。
ローウェルは事情を把握できず呆けていたアシュリーを使用人に預け、「じゃあまたね」と言って廊下の先に消えてしまう。
はっと我に返るがすでに遅く、アシュリーは使用人たちの手によって浴室に押し込まれ、ぴかぴかに磨き上げられていた。「ご指示ですので」と言われ、髪をブロンドに染め上げられたことには驚いた。まさかここまでするなんて思わなかったのだ。
香油を塗り込められた肌からは、甘い香りがする。
下着ももちろん新品で、手触りの良い高そうなものだ。──高そうではなく、恐らく高いのだろう。だが拒否できるような雰囲気ではなく、アシュリーは渋々その下着を身に付けた。
──最後にしっかりとコルセットを締めたのって、いつだったっけ……
思わずそう回顧してしまうぐらいに、ぎゅうとコルセットを締められる。仕事中は座ったり立ったりの動作が多いので、コルセットは付けていても緩めに付けている。
久しぶりの感覚に、うぐ、と女らしくない声が出た。
コルセットをきつく締めたお陰で、零れ出そうな胸の出来上がりだ。その上から、薄紫をベースとして、白いレースがあしらわれたドレスを着せられた。
そして鏡台の前に移動し、今度は化粧と髪型だ。普段は申し訳程度にする化粧も、本格的に施される。その前に目の色を変えるためのレンズを渡されて、色を変える。それだけで印象は変わるのに、施された化粧ときちんと結われた髪に、別人かと思うぐらいの変わりようだった。
首元はリボンをイメージしたというチョーカーが彩る。そっと差し出されたヒールの高いパンプスにつま先を入れて、留め具で固定する。
改めて鏡の前でそんな自分の姿を見て、まったくの別人と言われても疑いようのない変わりようにアシュリーは目を丸くした。
本来の色であるブラウンからブロンドに染められた髪は光を反射してきらきらと輝いている。普段は動きやすいように引っ詰めているだけだが、今はきちんと結われて髪飾りで華やかに見える。
瞳の色も灰色がかった碧眼から、カラーレンズを入れて深い紫色に変えている。
今のアシュリーは装飾の少ない動きやすいドレスに白衣を羽織っているのではなく、実用性など無視した夜会用のドレスに身を包んでいた。首元の大きく開いたドレスは、どこか心許ない。
公爵家の用意したものなのだから、間違いなく上級貴族御用達の店のものなのだろう。着心地は良い。良い生地すぎて、逆に落ち着かないぐらいだった。
腕を引かれ、頭からフードの付いたマントを着せられる。そして馬車に押し込まれて連れて行かれたのは、ローウェルの生家であるカルヴァート公爵邸だった。
ローウェルは事情を把握できず呆けていたアシュリーを使用人に預け、「じゃあまたね」と言って廊下の先に消えてしまう。
はっと我に返るがすでに遅く、アシュリーは使用人たちの手によって浴室に押し込まれ、ぴかぴかに磨き上げられていた。「ご指示ですので」と言われ、髪をブロンドに染め上げられたことには驚いた。まさかここまでするなんて思わなかったのだ。
香油を塗り込められた肌からは、甘い香りがする。
下着ももちろん新品で、手触りの良い高そうなものだ。──高そうではなく、恐らく高いのだろう。だが拒否できるような雰囲気ではなく、アシュリーは渋々その下着を身に付けた。
──最後にしっかりとコルセットを締めたのって、いつだったっけ……
思わずそう回顧してしまうぐらいに、ぎゅうとコルセットを締められる。仕事中は座ったり立ったりの動作が多いので、コルセットは付けていても緩めに付けている。
久しぶりの感覚に、うぐ、と女らしくない声が出た。
コルセットをきつく締めたお陰で、零れ出そうな胸の出来上がりだ。その上から、薄紫をベースとして、白いレースがあしらわれたドレスを着せられた。
そして鏡台の前に移動し、今度は化粧と髪型だ。普段は申し訳程度にする化粧も、本格的に施される。その前に目の色を変えるためのレンズを渡されて、色を変える。それだけで印象は変わるのに、施された化粧ときちんと結われた髪に、別人かと思うぐらいの変わりようだった。
首元はリボンをイメージしたというチョーカーが彩る。そっと差し出されたヒールの高いパンプスにつま先を入れて、留め具で固定する。
改めて鏡の前でそんな自分の姿を見て、まったくの別人と言われても疑いようのない変わりようにアシュリーは目を丸くした。
本来の色であるブラウンからブロンドに染められた髪は光を反射してきらきらと輝いている。普段は動きやすいように引っ詰めているだけだが、今はきちんと結われて髪飾りで華やかに見える。
瞳の色も灰色がかった碧眼から、カラーレンズを入れて深い紫色に変えている。
今のアシュリーは装飾の少ない動きやすいドレスに白衣を羽織っているのではなく、実用性など無視した夜会用のドレスに身を包んでいた。首元の大きく開いたドレスは、どこか心許ない。
公爵家の用意したものなのだから、間違いなく上級貴族御用達の店のものなのだろう。着心地は良い。良い生地すぎて、逆に落ち着かないぐらいだった。
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