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番外編

【本編終了後】飲み過ぎには、ご注意を

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結婚(本編終了)後。酔っ払い(香穂)に試される(カイルの)理性。
※キスだけの描写になりますが、閲覧の際は背後にご注意ください。


 散りばめられたような星が輝く夜空に、半分ほどに欠けた月が浮かんでいる。
 その月明かりが入り込む夫婦の部屋には、唾液が絡まり合う淫靡な水音が響いていた。
 重なるくちびるは、先ほどまで飲んでいたワインの味がする。拙く舌を絡めてくるその口付けが愛おしくて、カイルは目を細めながら香穂の頭をそっと撫でた。
 遠目から見ると黒に見える焦げ茶色の瞳は、今は伏せられている。けれど時折伺うようにこちらを見つめてくるその中に蕩けた色があるのを、カイルは知っていた。

「ん……」

 何度目かわからない、触れるだけの口付けが落ちてくる。甘えるように身を寄せられて、カイルは片腕で香穂の腰を優しく抱いた。
 誘うように舌を出してやれば、香穂の舌がちろちろと舐めてくる。それからまたくちびる同士が触れたかと思うと、唾液が混ざり合い、淫らな口付けに変わる。
 気持ちよさそうな甘い声が零れるたびに心は満たされ、同時に体の芯に熱が灯っていく。ぎし、と体を預けているソファーが音を立てた。

「カイルさ……ん」

 口付けの合間に呼ばれる名前は舌足らずで、それがまた可愛い。
 理性は確実に擦り切れてきているが、それでもいつでも逆転できる位置を変えないままでいるのは、もう少し求めてきてくれる彼女の姿を見ていたいからだ。
 皆無とは言わないが、香穂が自分から迫ってくれることは少ない。ならその貴重な一回は、目に焼き付けておきたい。

「カホ」

 自身の髪の色とは真逆の真っ黒い髪を指先に絡めながら、カイルは上から見下ろしてくる香穂の名前を呼んだ。

「ワイン、美味しかった?」
「ん」

 とろりとした瞳を僅かに開けてカイルを見つめながら、香穂は頬を緩ませて頷く。
 テーブルの上にはラベルの貼ったワインボトルとふたつのグラスが残っている。ボトルの中には先ほどまで透明な白ワインが満たされていたはずだが、すでに空になっていた。
 カイルにとってはそれほどではないが、ワインをあまり飲まない人間からすると、この銘柄の白ワインはアルコール度数が高いらしい。恐らく贈り物だと言ってボトルを持ってきてくれたローザは知らなかっただろうし、カイルも香穂がこの状況になるまでは、すっかり忘れていた。
 そして半分くらいを開けて、香穂がうつらうつらとし始めたときに切り上げようとも考えたのだ。だがつい出来心が働いて、彼女が酔ってしまったらどうなるのか興味が湧いてしまった。
 そして量的にはカイルの方が多く飲みながらも、香穂は見事に酔い。
 気付いたらカイルは彼女に押し倒されて、今に至る。
 ──まさかこんな可愛い面をまだ隠し持っていたとは思わなかったけれど。
 代わりに、そろそろ本当に理性が危うい。
 眠るときは、誰でも無防備になる。それは格好ももちろんそうだ。帰ってきて上着しか脱いでいないカイルはともかくとして、薄い寝間着だけの香穂の体が擦り寄せられたら、あっという間に理性の糸なんて千切れてしまう。
 豊かとは言えないが、すでに柔らかいふくらみがシャツ越しに胸元に当たっている。お風呂上がりで、ソープの匂いとともに香る、香穂の甘い匂い。そして先ほどからの言動。
 きっと些細なきっかけで、辛うじて保っている理性は吹き飛ぶ。そうなったら、一度や二度では離してやれないのは目に見えていた。──だけれど。

「カーイルさん」

 カイルの胸元に体を寄せたまま、香穂はにこにことご機嫌な笑みを浮かべて上目遣いで顔を覗き込む。

「だいすき」

 そう言って、啄むようにくちびるを寄せた。
 ──その瞬間、カイルは自分の理性の糸が切れる音を、確かに聞いた。

「……っんん?!」

 上半身を起こして、香穂の体を腕の中に閉じ込める。滑らかな黒髪を撫でていたもう片方の手で彼女の後頭部を押さえ、逃げ場を完全になくしてしまう。
 そしてその柔らかなくちびるに、食らいつくように口付けた。

「俺も、愛してるよ、カホ」

 そう言って妖しく、艶やかな笑みを浮かべて。
 カイルは香穂の着ている寝間着の結び目に、手を掛けた。


初出:2018/07/23-11/05 web拍手
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