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41.欲心
しおりを挟む――日曜日。
珍しく昨日は連絡がなかった。今日、会う約束をしていたからだろうか?
今日は明の部活も久しぶりに休みなので2人で出かける約束をしていた。
2人だけで出かけるのはこれが初めてだ。今まで数回誘われたことがある。けれど、いつもはぐらかしてばかりいたので今回はさすがに断れなかった。
明との関係は体だけでいい、と考えていた。誠とそうであったように……体だけでいいと。でも、明は違う……
ゆっくりとでいいから自分を見てくれと言う明。
いつしか誠(あの人)を忘れることが出来るのだろうか……?
「京子」
「おはよう。待った……?」
「おはよう。俺も今来たところ」
2人はいつものように電車に乗り込むと、少し長い電車の旅、海の近くの水族館へ出発した。
「水族館なんて小学生以来かも」
「……そっか、よかった」
明の顔がぱっと明るくなる。
久しぶりに見る顔だ。懐かしさすら感じる表情だった。最近は、寂しげな表情しか思い出せない。自分がそうさせていると分かっていながらもどうすることも出来ずに罪悪感ばかりが募っていた。
(今日は来てよかった)
いつも明に癒してもらってばかりで何も返せてない自分だけど、今日は返せるかもしれない。
電車の中では久しぶりに話が弾んだ。
まるで入学当初の自分たちに戻ったかのように楽しい時間だった。
水族館に付いてからも楽しい時間は続いた。明にリードされながら手を繋いでゆっくり館内を回った。まるで恋人同士のように……
振り向くと優しい微笑みで返してくれる明。
いつも傍にいてくれて、安心感を与えてくれる人。
温かい人……
心が休まる……そんな人だ。
*
そして、館内のレストランで昼食を取ろうと席に着いた時の事だった。
明が椅子を引いてくれる。
「……ありがとう」
――その瞬間、私の中でフラッシュバックしたかのように過去の情景が蘇ったのだ。
『――どうぞ、僕のお姫様』
スラリと伸びた身長。
緩くウエーブのかかった黒くて艶のある髪。
長い睫毛。
凛とした顔立ちに不似合な寂しげな瞳……
肌からは上質な香りがした……
美しい……誠様(あの人)……
いつも私が生徒会長室に行くと椅子を引いてくれた――あの情景……
忘れられない、心が捕われて離れない誠(あの人)との一瞬一瞬。
「~~~~」
「? どうした京子?」
「………う、うん。なんでもない…の」
胸が締め付けられそうになる。
ドクドクと脈が上がる。
心が乱される。
――ああ、誠(あの人)の顔……
――誠(あの人)の表情……
――誠(あの人)の髪、肩、胸、手……全て。
――…………。
誠(あの人)とはこうして外でデートすらした事もなかったのに。
どうして! どうして! こんなにも乱されるのか!?
抱き合う事しか出来なかった人なのに……どうして!?
「…………」
明を楽しませるつもりが、結局、いつもと同じように口数が少なくなってしまう自分。
明にまた心配かけてしまった。
「…………」
「…………」
もうデートはいいから、いつものように優しく抱いて欲しい。
心の中では淫らなことを思い、明に甘える自分が再び顔を出し始める。
帰り道、手を繋ぐだけでは足らずに、明の腕に身体を密着させた。
「明……」
体を摩って上目づかいに接吻をねだる。
「…………京子」
照れているのだろうか? 赤い顔……
「……」
「……?」
明に抱き締められる。
そっと触れられて、いつもよりも優しく感じた。
「好きだ……お前のためなら何でもできる」
宝物を扱う……みたいに感じた。
「……」
「好きだ」
もう一度、耳元で囁かれて……私は目を閉じた。
「……」
優しく抱き締められている感触から……何かじんわりとした温かい感情が伝わって来る。
そして同時に、切なくてどうしようもない苦しい感情も伝わって来た。
静寂が訪れる。
そして、唇と唇が少し触れるだけの優しい接吻キス。
「じゃ……また明日」
一瞬、頭を撫でて、微笑む明。
「……」
そして、走り去って行った。
「~~!」
――なんで?
――どうして?
――なんでいつもみたいに触れないの!?
――どうしていつもみたいに抱かないのよ!?
「~~~~っ」
切なくて、優しくて、苦くて甘い……感情。
そんな感情が私の中を巡った。
「~~~~っ」
涙が流れた。
ポロリポロリと溢れて来た。
「……ふ」
――ああ、そうだ……私が欲しかったもの。私が求めていたもの……
――体だけじゃない……心と体の繋がり……両方だ!
「~~っ」
明は両方私に与えてくれようとしているのに……なのに、私は……!
私が欲しいのは……
私が欲しい相手は……
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