【R18】恋情

貴水

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17.闇

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 新校舎2階の奥、東南角部屋に生徒会長室がある。隣は生徒会室。続いて情報処理施設。同階の南西角部屋に図書室だ。その一室、生徒会長室に二人は来ていた。

 建設して2年という新しい建物らしく、汚れていないクロス。ワックスで輝いた茶色い床。新しい机と椅子。生徒会長室とはいえ、私立学校を感じさせる黒革ソファとテーブルも高級感を漂わせ部屋に自然に馴染んでいた。奥行きがあり入口のドアから南面の窓までは何メートルあるだろうかと思わせる。その窓の前に、ドアとは対で誠の使っているだろう机が置いてあった。生徒会長らしい大きく幅が広い机だ。机の上には黒いノートパソコン。この机に座る誠の凛々しい姿が想像できた。

 「おいで」と言われついてきた生徒会長室。生徒会役員のみ許された領域。その部屋に足を踏み入れたことだけでも緊張することなのに、誠の部屋とも同様である生徒会長室に誠と二人きりでいるのだ。京子の胸の鼓動はどくどくと今でもはち切れんばかりの勢いだった。

 その時、京子の背後でガチャリと音が聞こえた。誠が鍵を掛けたのだ。まるで二人の関係を決定づけるかのように、その音は危めいて聞こえて来るのだった……。



「どうしたの?」

「……」

「怖くなったかい?」

 京子を見て、誠はクスリと優しく微笑む。

 京子は入口で突っ立ったままピクリともしない。

「……京子?」

 誠が後ろから再び問いかける。その時、初めて動きを見せた。

「……私の……名前……」

 振り向いて誠の顔を見入る。

「……私の名前、知っていらしたんですか?」

「……?」

「……誠…様」

「……君は、僕が名前も知らない子を抱いたと思っていたの?」

「えっ……?」

 どういうことだろう? 京子は思わず戸惑う。

「いいよ。……ごめん。あの後、君に冷たくしたのは僕の方だ。そう思われても仕方がない」

 そう言うと、優しく穏やかに京子の左頬に手を添えた。

「京子。安売りしてはいけないよ……。もっと自分を大事にするべきだ。……僕が言うのもおかしいけれど……」

 真っ直ぐ京子を見つめて言う。

 じわりと京子の目に熱いものが込み上げる。

「京子?」

「すみません。嬉しくて……」

 自分の手の指先で涙を拭き取る……。

「……誠様が……私の事を知って、いらした……から……」

 ポロリポロリと涙がまた流れた。その動作を、誠はじっと見守った。

「ずっと誠様の瞳に映りたかった。誠様あなたの瞳に映りたかったんです!」

「好きで、好きで、好きで好きで! 誠様に近づきたくて、近づきたくて……! いつも、いつも、いつも! 誠様は、私とは違う……遠い人で……!」

 ボロボロと涙が零れ落ちる。まるで滝のように止まることを知らない。それでも京子の感情は止まらない。

「いつもあの図書室の、あの場所で外を見ている誠様をずっと見てました。誠様の寂しげな瞳が気になって……。いつも何を見ているのか気になって……。っ……」

「…………」

 フッと、誠の表情が和らぐ。すると、両手で顔を覆っている京子の身体を引き寄せた。

 優しく抱き締める……。

「……君は……僕の前では、いつも泣いているね……」

 涙で前が見えない。けれども誠の身体の感触が、体温が、匂いが……、声が……、京子にこれは現実だと伝える。

「…………。でもね……。僕は……。人として欠けているのだろうか……。好きだと言われても……わからない。信じられないんだ」

 どこを見ているのかわからない表情で、遠くを見て誠は言った。

 思わず否定される。

 京子の涙が止まった。

「……」

 誠は、涙が止まった京子の顔から両手を解放し、まだ目元に残っている雫をぺろりと舐めとる。

(あっ……)

 二人は見つめ合った。

「僕のどこが好きなの……? ……容姿?」

 そう言うと、また、あの寂しげな瞳で京子を見つめた。 

「全部……です。……でも、特に目が、誠様の瞳がいつも気になって離れないんです!」

 大好きな人の傍らの中、胸の鼓動が高まる一方の中、言わなければいけない! そんな感情に捕らわれながら必死に答えた。

「……そう……」

 

 暗い……。闇の瞳……。

 彼の心に自分の想いは届くのだろうか……?


「君の欲しいものはあげられないだろう……。だけど身体ならあげられる。……身体は正直だからね……」

 耳元で囁く……。

 続けて、ぴちゃぴちゃと耳を愛撫する音が聴こえた。

(誠……さま……)

 京子は目を閉じた。

 いつか自分の想いが伝わる日を願って……――――。



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