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Ⅴ ソロモン革命
9節 異文化導入 ①
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開通式後翌日、いつもの部屋にて。
「では覚悟はいいですね? 始めますよ」
黒板と、貝殻を加工して作ったチョークを出す。黒板を作るのはちょっと苦労した。
今何をしようとしているか。それはこの前約束した、日本語を教えるという話だ。だが、幹部たちは思ったより暇なのだろうか、全員がいる。
「覚悟だなんて、大袈裟ね。それほどでもないでしょ? パパッと覚えてやるわ!」
「言ったね? あとで後悔しても遅いぞ」
レイエルピナは、ホムンクルスへの知識の移植のおかげで前提知識があったとはいえ、帝国語、王国語が堪能である。語学には自信があるのだろう。
「早速始めよう。まず、文字を覚えてもらおうか」
濁音込みの、平仮名を五十音順に書き、翻訳機能を切って発声していく。
「発音は、音節が少ないからわかりやすいと思うよ。ふむ、平仮名は覚えたね? じゃあ、次は片仮名を覚えようか」
「えっ、これだけじゃないの⁉︎」
「平仮名の別の形だよ。発音や並びとか同じだからわかるんじゃないかな」
隣に片仮名を対応するように書き込む。
「では、今度は単語を覚えていこうか」
簡単な名詞と動詞を教えていく。それから形容詞と形容動詞、そして副詞。文法を交えながら、ここはゆっくり教えていく。しかし……
「多い! 分かりやすいが……情報量が!」
始めて数十分。早くも音を上げてしまったのは、言い出しっぺのベリアル。だが、大半の者が頭を押さえて唸るなどして、彼と同じ反応をしているようにも見える。
「この言語……どこかで見たような……」
比較的覚えの早いダッキは、何やら馴染みがあるそうで。
「…………」
凄まじい集中力を発揮し、一言も喋らぬシルヴァ。
「……ちょっと調子乗ってたかも」
遂に弱気になるレイエルピナ。
「まあ、一つの言語を一朝一夕で覚えられても困るわけだが……何せ千年以上の歴史があるのでね」
「あっ……!」
プライドを露わにしたエイジの真横で、テミスが何かに気付いたような反応をする。
「どうしたテミス」
「ふっふっふ……妙案を思いついてしまいました。思いついてしまった自分が恐ろしいですね」
貞淑な彼女にしては珍しく、したり顔である。
「それは一体、何なのだテミス姫?」
「仕方ありません、奥の手です……エイジの能力、『全ての言語に対する知識の理解』発動‼︎」
「なっ…あっ、ちょっ……セコい‼︎」
「思いついた者勝ちです」
「ッ……その手がありましたか」
「わたしもやーろおっと」
「……一応止めておくよ、オススメはしないから」
テミスの案を受けて、ここにいる者たちはエイジとのリンクで得た能力を使う。が、しかし。
「うっ……あっ…」
「頭、が……」
「そら見たことか。ズルするからそういうことになるんだ」
膨大な語彙を一度に頭に入れ込んだために、情報が処理しきれず頭痛を引き起こす。エイジも魔族語や帝国語をインストールした際に同じような症状になったために、楽だと分かっていながら勧めかねていた。
「知ってたなら……早く言いなさいよ……」
この時点ではまだ魔族語だ。しかし、どことなく日本語風の訛りを感じる。
「そんでもって、君らの場合、適応されるのは話し言葉に限定される。そのうえで、君らの知らない概念に関してはインストールされない。母国語の訛りは訓練しないといつまでも残ってしまう。万能ではないことは理解したまえ。……さて、しばらくは頭痛で集中できないだろう、お勉強はここまでにしよう」
能力を使ったのは彼らの意志だ。それに、以降スムーズになるのは間違いない。手元に辞書もあるし、心強い。
「勉強は終わりって……何をなさるのですか」
「ゲームだよ。娯楽や、その他文化をね……」
部屋の端っこに置いていた箱を持って来ては、その中身を机にあける。
「それ、教材じゃなかったのかよ……」
「そうだよ。教材はアレに入れたし、いつでも出せる。んで、こっちは自作よ。オセロことリバーシに、トランプやUNO、将棋なんかもな。自作で拙いけど、遊んでみるかい? ルール教えるよ。麻雀に囲碁や人生ゲームもあれば尚よかったけど、難しいのと複雑なのとで……またマリナに貰おうかな? いやいや、くだらなすぎる……おっと、独り言が長くなってしまい申し訳ない。じゃんけんやダイスなどについても教えるから、さ、やろやろ」
「では覚悟はいいですね? 始めますよ」
黒板と、貝殻を加工して作ったチョークを出す。黒板を作るのはちょっと苦労した。
今何をしようとしているか。それはこの前約束した、日本語を教えるという話だ。だが、幹部たちは思ったより暇なのだろうか、全員がいる。
「覚悟だなんて、大袈裟ね。それほどでもないでしょ? パパッと覚えてやるわ!」
「言ったね? あとで後悔しても遅いぞ」
レイエルピナは、ホムンクルスへの知識の移植のおかげで前提知識があったとはいえ、帝国語、王国語が堪能である。語学には自信があるのだろう。
「早速始めよう。まず、文字を覚えてもらおうか」
濁音込みの、平仮名を五十音順に書き、翻訳機能を切って発声していく。
「発音は、音節が少ないからわかりやすいと思うよ。ふむ、平仮名は覚えたね? じゃあ、次は片仮名を覚えようか」
「えっ、これだけじゃないの⁉︎」
「平仮名の別の形だよ。発音や並びとか同じだからわかるんじゃないかな」
隣に片仮名を対応するように書き込む。
「では、今度は単語を覚えていこうか」
簡単な名詞と動詞を教えていく。それから形容詞と形容動詞、そして副詞。文法を交えながら、ここはゆっくり教えていく。しかし……
「多い! 分かりやすいが……情報量が!」
始めて数十分。早くも音を上げてしまったのは、言い出しっぺのベリアル。だが、大半の者が頭を押さえて唸るなどして、彼と同じ反応をしているようにも見える。
「この言語……どこかで見たような……」
比較的覚えの早いダッキは、何やら馴染みがあるそうで。
「…………」
凄まじい集中力を発揮し、一言も喋らぬシルヴァ。
「……ちょっと調子乗ってたかも」
遂に弱気になるレイエルピナ。
「まあ、一つの言語を一朝一夕で覚えられても困るわけだが……何せ千年以上の歴史があるのでね」
「あっ……!」
プライドを露わにしたエイジの真横で、テミスが何かに気付いたような反応をする。
「どうしたテミス」
「ふっふっふ……妙案を思いついてしまいました。思いついてしまった自分が恐ろしいですね」
貞淑な彼女にしては珍しく、したり顔である。
「それは一体、何なのだテミス姫?」
「仕方ありません、奥の手です……エイジの能力、『全ての言語に対する知識の理解』発動‼︎」
「なっ…あっ、ちょっ……セコい‼︎」
「思いついた者勝ちです」
「ッ……その手がありましたか」
「わたしもやーろおっと」
「……一応止めておくよ、オススメはしないから」
テミスの案を受けて、ここにいる者たちはエイジとのリンクで得た能力を使う。が、しかし。
「うっ……あっ…」
「頭、が……」
「そら見たことか。ズルするからそういうことになるんだ」
膨大な語彙を一度に頭に入れ込んだために、情報が処理しきれず頭痛を引き起こす。エイジも魔族語や帝国語をインストールした際に同じような症状になったために、楽だと分かっていながら勧めかねていた。
「知ってたなら……早く言いなさいよ……」
この時点ではまだ魔族語だ。しかし、どことなく日本語風の訛りを感じる。
「そんでもって、君らの場合、適応されるのは話し言葉に限定される。そのうえで、君らの知らない概念に関してはインストールされない。母国語の訛りは訓練しないといつまでも残ってしまう。万能ではないことは理解したまえ。……さて、しばらくは頭痛で集中できないだろう、お勉強はここまでにしよう」
能力を使ったのは彼らの意志だ。それに、以降スムーズになるのは間違いない。手元に辞書もあるし、心強い。
「勉強は終わりって……何をなさるのですか」
「ゲームだよ。娯楽や、その他文化をね……」
部屋の端っこに置いていた箱を持って来ては、その中身を机にあける。
「それ、教材じゃなかったのかよ……」
「そうだよ。教材はアレに入れたし、いつでも出せる。んで、こっちは自作よ。オセロことリバーシに、トランプやUNO、将棋なんかもな。自作で拙いけど、遊んでみるかい? ルール教えるよ。麻雀に囲碁や人生ゲームもあれば尚よかったけど、難しいのと複雑なのとで……またマリナに貰おうかな? いやいや、くだらなすぎる……おっと、独り言が長くなってしまい申し訳ない。じゃんけんやダイスなどについても教えるから、さ、やろやろ」
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