魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅴ ソロモン革命

7節 ソロモン鉄道 ④

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 退室後、威圧感を放つシルヴァの後ろをおどおどと付いて行くエイジ。しかし、彼女が部屋の扉を開けると、姿勢を正す。部下に情けない姿を見せるわけにはいかない。

「やあ諸君、久しぶりだ。暫く留守にして悪かったな。ところで、変わりなく仕事に励んでいるかな?」

 やはり、事務所がやや久しぶりに感じる。それにしても、大半が現場に行っているためだろう、何処か淋しい。

「お久しぶりでございます、宰相殿!」
「お疲れ様でございます!」

 その中の全員が、立ち上がって敬礼をしてくる。

「ああ、いいよ。それより手を止めないで」

 部屋の奥に進み、自分の机につく。と同時に、超大量の書類が積み上げられる。

「えっ、シルヴァ、これって……」

 目線を上げると、そこにはとても冷ややかな目が。

「はっ、ははっ、ははは………」

 もう乾いた笑いしか出ない

「チックショー! やってやらぁ!」

 ヤケクソになりながら万年筆を手に、絶望的な物量へと立ち向かった。


「はい、ノルマの三割終わりました。ご苦労様です」
「はあ~~、疲れたー……」

 三時間以上ぶっ通しでやったのに全然減らない書類の山。絶望的だ。しかし……こういう仕事をするときはコーヒー、若しくはエナジードリンクが欲しくなる。

「はい、これで急を要する書類と、宰相の承認が必要な書類は終わりました。ですので……」

 ぼけっとしているエイジの目の前で、部下たちが次々と書類の山を手分けして持っていってしまう。

「あなたの仕事はこれでおしまいです。お疲れ様でした」
「えっ……もう終わりでいいの?」
「はい。残りは各部署や、私どもにお任せくださいませ」

 どうやら、あの書類の大半は飾りだったようだ。騙されて参ったなぁ、などと思いながらシルヴァの顔を見やる。が、そこには少しの温かみもない真顔があった。

「ああ、そうなのか……だったらここまで早くやる必要なかったような……? まあいいや、ともかくこの空いた時間をどう過ごすかね………」
「休めばよろしいかと」

 声に抑揚が無い。感情が読めない。不機嫌なのはわかるが、その様子すら隠している。恐ろしや。

「それでは失礼します。戸締まりお忘れなきよう」

 そして結局喜怒哀楽を示すことなく、シルヴァは出て行ってしまった。他の者たちの姿もない。

「そういえば、そんな時間か…」

 昼はマリナとおしゃべり、夕方は報告を聞いて、仕事を終えた時間は夜だ。

「じゃ、帰って休むか。しかし……シルヴァ……」

 今日は終始よそよそしかった。いや、最初だけ少し見せていだが、途中からあえて感情を隠すような素振りを。しかし、なぜそんな態度を取ったのか__

「心当たりが……あり過ぎる……」

 修行が終わり次第早くフォローしなければ。そうしてまた、なんとなくで対応を後回しにしつつ、次のことに備えるのだった。


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