魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
217 / 236
Ⅴ ソロモン革命

7節 ソロモン鉄道 ④

しおりを挟む
 退室後、威圧感を放つシルヴァの後ろをおどおどと付いて行くエイジ。しかし、彼女が部屋の扉を開けると、姿勢を正す。部下に情けない姿を見せるわけにはいかない。

「やあ諸君、久しぶりだ。暫く留守にして悪かったな。ところで、変わりなく仕事に励んでいるかな?」

 やはり、事務所がやや久しぶりに感じる。それにしても、大半が現場に行っているためだろう、何処か淋しい。

「お久しぶりでございます、宰相殿!」
「お疲れ様でございます!」

 その中の全員が、立ち上がって敬礼をしてくる。

「ああ、いいよ。それより手を止めないで」

 部屋の奥に進み、自分の机につく。と同時に、超大量の書類が積み上げられる。

「えっ、シルヴァ、これって……」

 目線を上げると、そこにはとても冷ややかな目が。

「はっ、ははっ、ははは………」

 もう乾いた笑いしか出ない

「チックショー! やってやらぁ!」

 ヤケクソになりながら万年筆を手に、絶望的な物量へと立ち向かった。


「はい、ノルマの三割終わりました。ご苦労様です」
「はあ~~、疲れたー……」

 三時間以上ぶっ通しでやったのに全然減らない書類の山。絶望的だ。しかし……こういう仕事をするときはコーヒー、若しくはエナジードリンクが欲しくなる。

「はい、これで急を要する書類と、宰相の承認が必要な書類は終わりました。ですので……」

 ぼけっとしているエイジの目の前で、部下たちが次々と書類の山を手分けして持っていってしまう。

「あなたの仕事はこれでおしまいです。お疲れ様でした」
「えっ……もう終わりでいいの?」
「はい。残りは各部署や、私どもにお任せくださいませ」

 どうやら、あの書類の大半は飾りだったようだ。騙されて参ったなぁ、などと思いながらシルヴァの顔を見やる。が、そこには少しの温かみもない真顔があった。

「ああ、そうなのか……だったらここまで早くやる必要なかったような……? まあいいや、ともかくこの空いた時間をどう過ごすかね………」
「休めばよろしいかと」

 声に抑揚が無い。感情が読めない。不機嫌なのはわかるが、その様子すら隠している。恐ろしや。

「それでは失礼します。戸締まりお忘れなきよう」

 そして結局喜怒哀楽を示すことなく、シルヴァは出て行ってしまった。他の者たちの姿もない。

「そういえば、そんな時間か…」

 昼はマリナとおしゃべり、夕方は報告を聞いて、仕事を終えた時間は夜だ。

「じゃ、帰って休むか。しかし……シルヴァ……」

 今日は終始よそよそしかった。いや、最初だけ少し見せていだが、途中からあえて感情を隠すような素振りを。しかし、なぜそんな態度を取ったのか__

「心当たりが……あり過ぎる……」

 修行が終わり次第早くフォローしなければ。そうしてまた、なんとなくで対応を後回しにしつつ、次のことに備えるのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...