魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
192 / 236
Ⅴ ソロモン革命

4節 着手 ②

しおりを挟む

 さて今は、夕方の六時ごろ。真夏であるため、まだいくらか明るいものの、暗いことに変わりはない。しかし……それは魔族にとっては好都合。夜こそ彼らの力は増す。

 つまり、真昼間のスピーチなんぞ、本当は辛くて堪らない者も多いのだが、それでもあれだけ集まったということは、魔王のカリスマはその程度では覆らないということであろう。

 転移魔術陣で転移した者は、早くも採掘係や、炉での錬金係など仕事分けが為されていた。とはいえまずは、設備を建てるところから始まるわけだが。

 仕事分けは簡単、各部署の名簿に番号を書けばいいだけである。分けられた者は、管轄の場所に応じた色のカードが渡され、それをプレートにつけることになる。

 そうして今、荷馬隊も到着し、魔力を持たない労働者達が到着した。エイジも仮眠より目覚めた頃である。

「さーて君たち、仕分けには慣れたかな? では、さっきより効率的にできるはずだよね? がんばろう。とはいえだ、疲れた者は無理せず休めよ。無理する方が効率悪くなるからね」
「ブーメランです」
「貴方もゆっくり休んでくださいまし」
「……分かっているさ」

 そんな、秘書に釘を刺されたエイジは、仮設本部へと呼ばれていた。

 現場監督にはエリゴスをはじめ、ノクトやレイヴンら幹部達、さらには魔王城中の使用人やエリート達までもが駆り出され、直々に指揮をとっている。一般市民達にとっては雲の上の存在である幹部達。そんな彼らが直属の上司とあれば、モチベーションも上がるに違いない。

 そんな指揮を執る彼らのための前線基地が、イベントなどでよく見かける集会用テントのような、この革天幕の本部である。

「用件は何かい」
「エイジ、労働者用の住居はどうした」

 問うたのはレイヴン。初日の現場担当はエリゴスとノクトであり、エレンも荷馬隊の指揮を採っている。

「ああ、仮設住宅ね。ワンルーム 25㎡ × 6 部屋の二階建て。設計図はあるはずだけど」

 ワンルームと言ってもトイレと風呂さえなければ、キッチンも無い。非常に簡素な寝るためだけの部屋。

「まだ建っていないようじゃないか。このままじゃ労働者は野宿だぞ」
「うん、そうだね」
「そうだねって、お前……そうか、彼らに建てさせるのか。通りで多くの者を割り振るわけだ」

 額に手を当て肩を竦めるレイヴン。よく見る仕草だ。

「それで、我が秘書達よ。設備建設係の指示をしているのは、誰だい?」
「お前、把握してなかったのかよ」

「さっきまで寝てて」
「……仕方ないとはいえ、まったくだ」

 前日や午前も仕事をしていて、倒れたこともあるエイジに、強くは出られない。

「現場監督をしているのはゴグ氏で……その補佐がテミス様ですね」
「なに⁉︎ テミスが現場だと⁉︎」

「……行かれますか?」
「案内頼む」

 テミスは長年の敵国の皇女。乱暴されていないだろうか。そう心配しているエイジのことを察し、シルヴァは案内を始める。

「おいエイジ! せめて住居の話を!」
「大丈夫ですわ、レイヴン様」

「なんで⁉︎」
「エイジ様が向かった先は、住宅の設営を手掛ける生産部門の重鎮二人がいる場所。そしてテミス様はエイジ様に、エイジ様はテミス様に、それぞれ想いを寄せていますわ。そんな大好きな彼女のために、どうしてエイジ様が張り切らないと考えられますの?」

「そういうことか……そう言われればそうかもだ。だが、何故そうアイツのことが分かる」
「わたくしは彼の秘書ですわ。それに……女の勘を、舐めてはいけませんことよ」

しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...