魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
192 / 235
Ⅴ ソロモン革命

4節 着手 ②

しおりを挟む

 さて今は、夕方の六時ごろ。真夏であるため、まだいくらか明るいものの、暗いことに変わりはない。しかし……それは魔族にとっては好都合。夜こそ彼らの力は増す。

 つまり、真昼間のスピーチなんぞ、本当は辛くて堪らない者も多いのだが、それでもあれだけ集まったということは、魔王のカリスマはその程度では覆らないということであろう。

 転移魔術陣で転移した者は、早くも採掘係や、炉での錬金係など仕事分けが為されていた。とはいえまずは、設備を建てるところから始まるわけだが。

 仕事分けは簡単、各部署の名簿に番号を書けばいいだけである。分けられた者は、管轄の場所に応じた色のカードが渡され、それをプレートにつけることになる。

 そうして今、荷馬隊も到着し、魔力を持たない労働者達が到着した。エイジも仮眠より目覚めた頃である。

「さーて君たち、仕分けには慣れたかな? では、さっきより効率的にできるはずだよね? がんばろう。とはいえだ、疲れた者は無理せず休めよ。無理する方が効率悪くなるからね」
「ブーメランです」
「貴方もゆっくり休んでくださいまし」
「……分かっているさ」

 そんな、秘書に釘を刺されたエイジは、仮設本部へと呼ばれていた。

 現場監督にはエリゴスをはじめ、ノクトやレイヴンら幹部達、さらには魔王城中の使用人やエリート達までもが駆り出され、直々に指揮をとっている。一般市民達にとっては雲の上の存在である幹部達。そんな彼らが直属の上司とあれば、モチベーションも上がるに違いない。

 そんな指揮を執る彼らのための前線基地が、イベントなどでよく見かける集会用テントのような、この革天幕の本部である。

「用件は何かい」
「エイジ、労働者用の住居はどうした」

 問うたのはレイヴン。初日の現場担当はエリゴスとノクトであり、エレンも荷馬隊の指揮を採っている。

「ああ、仮設住宅ね。ワンルーム 25㎡ × 6 部屋の二階建て。設計図はあるはずだけど」

 ワンルームと言ってもトイレと風呂さえなければ、キッチンも無い。非常に簡素な寝るためだけの部屋。

「まだ建っていないようじゃないか。このままじゃ労働者は野宿だぞ」
「うん、そうだね」
「そうだねって、お前……そうか、彼らに建てさせるのか。通りで多くの者を割り振るわけだ」

 額に手を当て肩を竦めるレイヴン。よく見る仕草だ。

「それで、我が秘書達よ。設備建設係の指示をしているのは、誰だい?」
「お前、把握してなかったのかよ」

「さっきまで寝てて」
「……仕方ないとはいえ、まったくだ」

 前日や午前も仕事をしていて、倒れたこともあるエイジに、強くは出られない。

「現場監督をしているのはゴグ氏で……その補佐がテミス様ですね」
「なに⁉︎ テミスが現場だと⁉︎」

「……行かれますか?」
「案内頼む」

 テミスは長年の敵国の皇女。乱暴されていないだろうか。そう心配しているエイジのことを察し、シルヴァは案内を始める。

「おいエイジ! せめて住居の話を!」
「大丈夫ですわ、レイヴン様」

「なんで⁉︎」
「エイジ様が向かった先は、住宅の設営を手掛ける生産部門の重鎮二人がいる場所。そしてテミス様はエイジ様に、エイジ様はテミス様に、それぞれ想いを寄せていますわ。そんな大好きな彼女のために、どうしてエイジ様が張り切らないと考えられますの?」

「そういうことか……そう言われればそうかもだ。だが、何故そうアイツのことが分かる」
「わたくしは彼の秘書ですわ。それに……女の勘を、舐めてはいけませんことよ」

しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...