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Ⅴ ソロモン革命
4節 着手 ②
しおりを挟むさて今は、夕方の六時ごろ。真夏であるため、まだいくらか明るいものの、暗いことに変わりはない。しかし……それは魔族にとっては好都合。夜こそ彼らの力は増す。
つまり、真昼間のスピーチなんぞ、本当は辛くて堪らない者も多いのだが、それでもあれだけ集まったということは、魔王のカリスマはその程度では覆らないということであろう。
転移魔術陣で転移した者は、早くも採掘係や、炉での錬金係など仕事分けが為されていた。とはいえまずは、設備を建てるところから始まるわけだが。
仕事分けは簡単、各部署の名簿に番号を書けばいいだけである。分けられた者は、管轄の場所に応じた色のカードが渡され、それをプレートにつけることになる。
そうして今、荷馬隊も到着し、魔力を持たない労働者達が到着した。エイジも仮眠より目覚めた頃である。
「さーて君たち、仕分けには慣れたかな? では、さっきより効率的にできるはずだよね? がんばろう。とはいえだ、疲れた者は無理せず休めよ。無理する方が効率悪くなるからね」
「ブーメランです」
「貴方もゆっくり休んでくださいまし」
「……分かっているさ」
そんな、秘書に釘を刺されたエイジは、仮設本部へと呼ばれていた。
現場監督にはエリゴスをはじめ、ノクトやレイヴンら幹部達、さらには魔王城中の使用人やエリート達までもが駆り出され、直々に指揮をとっている。一般市民達にとっては雲の上の存在である幹部達。そんな彼らが直属の上司とあれば、モチベーションも上がるに違いない。
そんな指揮を執る彼らのための前線基地が、イベントなどでよく見かける集会用テントのような、この革天幕の本部である。
「用件は何かい」
「エイジ、労働者用の住居はどうした」
問うたのはレイヴン。初日の現場担当はエリゴスとノクトであり、エレンも荷馬隊の指揮を採っている。
「ああ、仮設住宅ね。ワンルーム 25㎡ × 6 部屋の二階建て。設計図はあるはずだけど」
ワンルームと言ってもトイレと風呂さえなければ、キッチンも無い。非常に簡素な寝るためだけの部屋。
「まだ建っていないようじゃないか。このままじゃ労働者は野宿だぞ」
「うん、そうだね」
「そうだねって、お前……そうか、彼らに建てさせるのか。通りで多くの者を割り振るわけだ」
額に手を当て肩を竦めるレイヴン。よく見る仕草だ。
「それで、我が秘書達よ。設備建設係の指示をしているのは、誰だい?」
「お前、把握してなかったのかよ」
「さっきまで寝てて」
「……仕方ないとはいえ、まったくだ」
前日や午前も仕事をしていて、倒れたこともあるエイジに、強くは出られない。
「現場監督をしているのはゴグ氏で……その補佐がテミス様ですね」
「なに⁉︎ テミスが現場だと⁉︎」
「……行かれますか?」
「案内頼む」
テミスは長年の敵国の皇女。乱暴されていないだろうか。そう心配しているエイジのことを察し、シルヴァは案内を始める。
「おいエイジ! せめて住居の話を!」
「大丈夫ですわ、レイヴン様」
「なんで⁉︎」
「エイジ様が向かった先は、住宅の設営を手掛ける生産部門の重鎮二人がいる場所。そしてテミス様はエイジ様に、エイジ様はテミス様に、それぞれ想いを寄せていますわ。そんな大好きな彼女のために、どうしてエイジ様が張り切らないと考えられますの?」
「そういうことか……そう言われればそうかもだ。だが、何故そうアイツのことが分かる」
「わたくしは彼の秘書ですわ。それに……女の勘を、舐めてはいけませんことよ」
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