魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅴ ソロモン革命

3節 中央集権 ③

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「それで? 工場ってどう建てんのよ」
「それは私のセリフです! 人の仕事とらないでください!」

「まあ、落ち着いて……工場は基本金属製にする予定だ。危険だからな、頑丈にしないといけない。てな訳で真っ先にすべきは採掘と加工。鉄・アルミ・亜鉛を主にな。鉄骨とガルバリウム鋼板、トタンあたりを、と……」

 机を取り出し、紙を敷いて、設計図らしきものを描き始める。端には建材等の詳細を書き込む。

「さーて、どっちにしようかな……一つの建物の中で部屋を分けるか、別棟を建築するか………………うん、こっちは土地が余ってるから別棟を建てて、首都側では一つにまとめるとしよう。そのモデルは……やっぱ八幡製鉄所と富岡製糸場だよな、日本人として。なあ、建設は完全に任せちゃって大丈夫かな?」

「おうとも。設計図やら描き上げてくれるのであれば、こちらで建てよう。そうでもせねば、其方の負担が大変なことになるからの。ただ、中に入れる機材の方は、任せることになるが」

「あいよ。溶鉱炉や紡績機、金型なんかはお任せを。魔晶石関連は魔導院の仕事だし」

 相談をしつつ、更に工場の設計図を描き進める。それだけでなく、メガネで調べ物をしつつ高炉や紡績機の構造や、鋳造金型の製造法についてなど筆を走らせる。

 しかし__

「クッソ……この下手くそがァ‼︎」

 慣れぬ描画に、検索しすぎによる頭痛。描き進めつつも、苛立ちは募り__

「だあ! 来い、全知の書‼︎」

 振り切れた。彼はその左掌を上に向ける。その声に呼応するように、その手の中に本が現れる。

「溶鉱炉、構造、画像、検索!」

 エイジが声高に唱えると、本がひとりでに開く。その面を皆が興味深げに覗き込む中、動きがあった。パラパラと数頁左に巻き戻る。

「該当画像発見、モノクロ指定、範囲片面全体、念写開始!」

 オーダーを受けると、白きページの各所からじわりと黒いシミのようなものが浮かび上がる。点は線に、そして線はいつしか何らかの図形を顕す。

「ほらよ、高炉だ。材質は耐火煉瓦。耐火煉瓦の材料はシャモット。それらの作り方や配合は、企業秘密を抜き取って、そこの紙に書いといた。コンベアは人力、あるいは魔道具を大量に用意すること。熱源や送風も魔導具等で代用するように。生半可な出力では全く足りないことを承知しておけよ」

 高炉の設計図が描かれた紙を破り取ると、机に置く。

「コピーし終わったら返してくれ。こいつの紙は千枚まで、有限だからな。絶対失くすなよ⁉︎ 回収して戻せば再利用できるんだ。ついでだ、転炉と紡績機、力織機もやってやる。金型はいらないだろ」

 再び何ごとか唱えると、転炉とミュール紡績機の図を写した紙を破り取る。

「あとは、八幡製鉄所と富岡製糸場の施設案内を__」
「何よそれ⁉︎ そんなんあるんだったら最初から使いなさいよ! わたしが描く必要ないじゃない!」

 レイエルピナが、ウガーッと掴みかかってくる。確かに、こんなものがあれば格段に楽だろう。だがエイジとて、使いたくない理由くらいある。

「能力とは、出し惜しみするもの。それに全体のイメージは出せても、パーツの詳細まで調べていては容量が足りなくなる。はいこれ、機関車の仕組みと写真」

 裏まで使って三枚の紙を消費、機関車の仕組みの画像と、側面正面そして機関室内部等の写真を手渡す。

「……こういうイメージあるだけで、ずいぶん違うわよ。ていうか、やけにリアルね」
「そいつは写真ってやつだ。まあいずれ教えることになるだろうし、今は置いといてくれ。手一杯だ」

 目を光らせ、じっくりと興味深げに資料を見るレイエルピナ。その横顔を確認すると、どこか満足したようにエイジはふらりと傾き__

「エイジ様⁉︎」

 倒れかけた体を、瞬時にシルヴァが支える。

「どうかなさいましたか⁉︎ エイジ様!」

 眉を顰め、その顔は辛そうだ。

「やべぇ……能力使い過ぎて頭痛い……」
「まったく、あなたというヒトは……! ダッキ!」
「は~い、分かりましたわぁ」

 もう片方の肩にダッキが入り、二人に運ばれる形でエイジは退場していった。

「はぁ……バカね、アイツ」

 隅に運ばれ、シルヴァの取り出した毛布に包まれたエイジを横目で呆れたように見ながら呟く。

「でも、無茶を要求したのはレイエルピナさんですよね」
「……確かにわたしのせいだけどさ、張り切りすぎなのよ。いっぺんにやることはないでしょ。ていうか、今日のアンタ白々しいわね」

「仕事中なので。それに、さっきすっごく不機嫌そうに咎められたんですけど」
「それは……アイツの前で仲良さそうにしてたら、キャラ崩れたと思われるじゃない!」

「手遅れなんじゃ__」
「だって、その方が構ってもらえるし……」
「……!」

「それに……わたしの特等席だったんだもん……」
「!」

 ぽつりぽつりと本音を零したレイエルピナに、テミスは目を丸くする。 

「……さっきは、機嫌が悪かったからって、当たってごめん……」
「きゃーっ! レイちゃーん!」
「うわぁ⁉︎」

 テミスが急にレイエルピナに飛びかかり、抱きつく。

「私もムキになっちゃってごめーん!」
「分かった、分かったから! 気にしないから離れてよ。見られてるし……」

 テミスは若干涙目になりながらも嬉しそうで、強く抱きしめる。一方のレイエルピナは、一方のレイエルピナは、困惑しつつももがいて、なんとか脱出。そして逃げるように、レイエルピナは渡された紙を持ってフォラスの下へ。

「フォラス、この機関車の資料、研究室に持っていってくれる?」
「え、ええ。承知いたしました、姫様……」

「エリゴス、もう採掘始めちゃっていいと思うわ。それとテミス、工場の設計図の続き、描くわよ」
「お、おう……? 承知しましたぞ、レイエルピナ様」

 突然指示を出し始めたレイエルピナに、皆は面食らいながらも従う。

「やっぱり負担が重かったんじゃない……少しくらい自分を顧みなさいよ、バカ」

 エイジが運ばれていった先を見ながら、心配そうに呟く。その姿を見たテミスからの好感度は、また上がっていた。

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