179 / 236
Ⅴ ソロモン革命
1節 布石 ①
しおりを挟む「わかったわかった、落ち着け」
予想通り爆ぜたエイジを、慣れた様子で鎮めるベリアル。流石にエイジも、新顔が引き気味なことを見て、咳払いして落ち着く。
「時間は与えたはずだ。順を追って説明してくれ」
「承知しております。すみません、少し昂ってしまいました。では、革命について説明します。が、その前に……布石を打ちます」
その聞き慣れぬ言い回しに、眉を顰める面々。
「布石とな?」
「ええ、事前準備です。あることをしておかないと、少し手間でしてね」
「ほう、どういったものかな? 聞かせてみせよ」
ベリアルは手を組んで前のめりに。他の者たちも今一度集中し直す。
「新たに部署を二つ、増設します。それは、開発部門と、生産部門です」
「ほう……その意義は?」
「先の戦争で、あることを確信したのです。順に説明します」
開発、生産。二つの単語を皆が飲み込むまで、一息置く。
「まず開発部門ですが、その名の通り、様々なものを開発してもらいます。新技術、それを応用した日用品などの道具であったり、設備であったり、あるいは兵器であったり……。今まではそれらを、魔導院が一手に引き受けていました。しかし、先の戦争において、魔導院は魔導の追究のみを旨とするにもかかわらず、設備や兵器の開発のみならず製作など、明らかに負担がかかり過ぎていました。本来の役目を果たせぬほどに。その負担を分散させるため、開発部門の新設提案に踏み切りました」
ほう、と関心を持った様子。特にフォラスは喜ばしそうである。
「次点、生産部門です。これも前述の開発部門と同じく、先の戦争において気付いたことでありますが。兵站部門は、本来は物流機能こそが役目にもかかわらず、武器や物資の調達や生産、加工なども手掛けることになり。結果どこよりも疲弊してしまう結果となりました。そのため、加工や生産に特化した部門を新設しようという運びに。ちなみに、調達部門の新設も検討しましたが、これは兵站や調査、そしてこれから改革にて作るもので、より運搬が楽になりますので、それほどの必要性を見出しませんでした」
「うむ。それは確かに重要な話だ」
あのタフで知られるエリゴスが、あの時ばかりは悲鳴を上げていた。となれば、この提案を彼が呑まぬはずもない。
「なるほど。部門新設の提案、確かに耳に入れた。で、その統括は誰がするのだね? 幹部は全員埋まっているが」
「そうですねえ。まだ決まっていませんが、その前にまず__」
「なら、わたしが開発部門やるわ」
「君がか⁉︎」
興味なさげにぼーっと聞いているのかな、と思っていたら、予想外のところから返事が来て、たまげる。
「あら、そんなに意外? わたしじゃ悪かった?」
「あ、いや、そういう訳では……でも何故?」
魔王の娘ともなれば、立場は幹部以上。七光ではあるかもしれないが。
「わたしの趣味は破壊だから。兵器には興味があるわ。それに、この部署がこの国の最先端なんでしょ? 楽しそうだもの」
兵器だけじゃないんだぞ、と言おうと思ったが、それも承知なようで安心。
「では、頼んでいいね?」
「任せなさい。やってやるわ!」
能力がどれほどかはともかく、やる気はあるようだ。最近は色々な部署の仕事を見ているらしく、仕事への理解も進んだ頃合いだろう。フォローは必要だろうが、ここは任せてみよう。
「なら、後は簡単だ。生産部門には、ゴグ氏を統括としよう」
「オラカ!」
「で、す、が……その補佐に、テミス姫に入ってもらおうかな」
「えっ……私ですか⁉︎」
まさかの指名に、驚くのは彼女だけに非らず。
「私で……いいのですか?」
「ああ。君には、間違いなく能力があると見ているからね。君こそ、いいか?」
「は、はい! 不肖テミス、全身全霊で取り組みます!」
「ははは、気が早いな。まだ設立されてないよ?」
「あっ……」
はりきりの空回りに恥じらうテミス。
__うん、かわいい__
「設立されてないって……どういうことよ?」
「だってまだオレの提案、承認されてないよ?」
「「「あっ……」」」
今やっと皆も気づいたらしい。まだ提案段階で、承認されていなかったことに。
「反対意見などでなさそうな雰囲気だったもので、つい」
「そうか。では、宰相の提案を承に__」
「お待ち下さい」
宰相の待ったの声に、疑問の魔王。
「部門を新設する為に、幹部総員で議決します。承認か、反対か。2/3の賛成で以って可決とします。」
「なぜ、今になってそんな格式張ったことをするのだ?」
「今までは改革が急を要したので飛ばしましたが、この頃は安定してきましたからね。是非を問い、より良い政策を決める為に必要なことです。私だって間違えることはあるでしょうからね。なにより、宰相の独裁を防ぐための抑止として必要な行為です。幹部ら提案の都度、発議するようにしていただきたい。議決は魔王様にとっていただきます」
そんなこと、必要あるか? と、困り顔であるが、これが必要無いと断定できるほど愚かな者は、この議席にはいない。
「承知した。では我が魔王国の幹部たちよ、兵器開発部門と生産部門、二つの部署を新設することについて、是非を問う‼︎」
「承認します」
「賛成よ」
「肯定スル」
「認めよう」
「承認」
「……異議なし」
「オッケー」
「ミトメマス」
「……では、満場一致により可決とする!」
予想通りの結果ではあるけれど。やはり必要な行為であるのは違いない。
「可決されましたか。では、本日をもってゴグ殿の前線維持任務を解除。生産部門部長として魔王城に勤務していただきます。前線の維持は、以前申し上げた理由より、現状の戦力で十分だと想定しておりますので」
「ウム、ガンバル!」
初対面の時は、まだ様々な種族に慣れていなかったためか、嫌悪感を覚えていたのだが。慣れてくると、ゴグは聡明な方であり、純朴な性格、なによりこの城に来てから清潔にするようになったので、エイジもさほど忌避感は感じなくなった。
「では、先ほど指名した通りのメンバーに各部門を統括していただきます。とはいえ、ゴグ氏はデスクワークをしたことがないでしょうし、レイエルピナは人の上に立ち率いた経験がない、テミスは魔族に不慣れであると思いますので……開発の主導は基本、現代武器やアイデアなどが豊富にある私が担当しますが、それだけでは足りない。これから暫くは戦争するつもりもありませんので、レイヴン、ノクト、エリゴスさん、フォラスさんには、彼女らの補佐に入ってもらいます。よろしいですか?」
「仕方ないな……まあ、俺も不安ではあったから賛成だ」
「負担を減らされる分だと考えれば、そのくらいならばよいだろう」
新リーダーへの心配、そして初期投資だと考えれば、この程度の負担など気にならないそう。
「さて、これが布石、ということは、これからが本番だな?」
「ええ、そうです。新設したこの二つの部門、これらこそが最も多忙、かつ今回の革命とも呼べるような改革の根幹を成すものである! というわけでお姫様方とゴグ、お覚悟を。それと皆も、少し糖分を摂るなりして頭を休めて。こっから……とんでもないことが始まるから、ネ‼︎」
軽い気持ちで統括やる、なんて言ってしまったことを、レイエルピナは今更後悔し始めた。だが、もう遅い。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?
高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
最初から最後まで
相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします!
☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。
登場人物
☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。
♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる