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Ⅳ 魔王の娘
10節 魔晶石採掘 ④
しおりを挟む「ふんふふーん。来てよかったぜ、大豊作だ」
鉱石を眺め、手元の紙にメモをサラサラと書いている。彼にしては珍しく、鼻歌まで歌っていた。
「随分上機嫌ね。さっきまで外出たくないって駄々捏ねてたのが嘘みたい」
「……あー、すまないな。みっともない姿を見せた」
「そういうのはお父様に言いなさいよね、まったく」
そんなふうにエイジを冷やかすレイエルピナも、彼の手元に興味津々。気づけばその紙には文字がびっしり書き込まれていた。文字は細かく等間隔に連ねられているが、汚い。彼の性格がよくわかる書き方だった。
「で、アンタはなんでそんなに興奮してるわけ?」
「…………オレは魔王国の宰相だ。この国の発展を願い、導いている」
「ええ、そうね」
「そんなオレは、次の段階として大きな改革を想定していた」
「知ってるわ。アンタと仲のいい人たちはみんな口を揃えてそう言うし」
「そのある種革命において、オレにはある懸念点があった」
「それって?」
「資源だ。エネルギー、素材。技術や知識に関してはどうにかなるが、モノがなければ始まらないからな」
「つまり、魔晶石やその功績が、その、アンタの欲しがってた資源ってことなのね」
「その通りだ」
「ふーん」
エイジは気分よく話し、レイエルピナも適度な相槌を返す。
「あ、そうそう。思ったんだけど」
「何かな?」
「アンタさ、話し方が周りくどいのよね。最初に結論から言ってくれた方がわかりやすいわ」
「……善処するよ」
自覚はあるが、その喋り方が好きというか癖なので。意識はしているものの、なかなかに直らなかったり。
「わたしも人との会話って苦手だと思ってたんだけど、アンタも実は大概よね」
「うっ……」
思い当たる節はかなりある。というか、こんなコミュ力もデリカシーもないような人間と、何故こうもこの世界の人々は温かく接してくれるのか不思議でならないほどだ。
「で、書き終わったの?」
「ああ」
「そ。じゃ、帰りましょ」
「待て待て……なんでそんなやけに帰りたがる」
「だって。わたし、こう見えてもインドア派なの」
「奇遇だな、オレもだ」
「そう、意外……でもないわね」
出立する直前までの、あの醜態を見る限り、あれが地なのだなと思い至る。今までのバイタリティは、たまたま熱意と責任感が強く出ていただけなのやも。
「あと、寒いし、空気薄くて苦しいし。アンタはそうでもないみたいだけどね」
「……ああ、そういえばそうか。すまない、気づかないばかりに配慮ができず」
「わたし、気は強いけど、ホムンクルスだから生理的には脆いのよ。ちゃんと守って欲しいものね」
「……え?」
守って欲しい、だなんて。一体どういった心境の変化だろう。一方のレイエルピナは、自分の発言の意味する重さが理解できていないのか、何の気ない様子。
「一度わたしのことを救った以上、最期まで責任持つこと。いいわね」
「そんなペットみたいな……」
エイジはそんな風に言っちゃいるが、プロポーズにしか聞こえなくて内心ドキドキである。
「ま、とにかく。アンタがいないと帰れない以上、満足するまで付き合うわよ」
すると、レイエルピナは両手をエイジに向けて広げる。
「んっ」
「えっ……?」
その意図が分からず、エイジは戸惑う。そうこうしていくうちに、レイエルピナの顔がみるみる赤く染まっていく。
「……もういい」
遂には不貞腐れて、そっぽを向いてしまった。
「? うん。じゃあ、そろそろ移動しようか……ああ、抱っこ待ちだったのか」
「違うから! 別に甘えたいんじゃなくてそっちの方が効率がいいだけだから⁉︎ 勘違いしてほしくないわね!」
デレデレなのかツンデレなのかよく分からない態度だ。それでもエイジが抱き上げようとすると素直に体を預けてくるものだから、より分からない。
それ以来、エイジはまた山を駆け回る。数十分ほど縦横無尽に巡れども、そう簡単には洞窟も見つからない。あったとしても、小さいものが大多数。動物や植物もほとんどない殺風景なのも相まって、二人は徐々に飽きてきていた。そろそろ愚痴を言おう、あるいはもう切り上げよう、そう思った頃だった。彼はいきなり足を止める。
「……どうしたの?」
「なんか、あそこから異様な気配がする」
エイジは山を見上げる。レイエルピナもその視線を追うと、やや大きめの洞穴があった。
「あ、ホントだ。穴があるわね。この辺りは……中腹くらいかしら」
取り敢えず、とばかりに二人はその穴の前まで足を運ぶ。
「うっ……この穴の周りだけやたら寒いわね」
「……魔力の匂いがする」
「そういう感覚があるってことは……魔晶石、じゃなさそうね」
「ああ。固有の魔力だ。にしても、何だか馴染みがあるような」
レイエルピナを下ろすと、二人手を繋ぎ進んでゆく。やはり内部は明らかに涼しく、結露しているのか湿っていて、滑りやすく危険だ。
「異様なのは魔力だけじゃないな、この洞窟は」
「どういうこと?」
「何というか……天然物じゃないように感じる。気のせいかもしれないが」
今まで潜ってきた洞窟に比べると、妙に壁が滑らかだったり、意図的に崩されたような痕跡があるように見えた。勿論、そういう知識があるわけでもないので、単なる思い込みの可能性もあるが。
「あら、もう行き止まり」
数十メートル進むと、かなり大きめの空洞が現れた。半径十メートル、高さもそのくらいの半球状だ。その中程まで進むと、外からの光が辛うじて差し込む程度の明るさ、とはならなかった。中に光を放つものがあったからだ。
「わぁ、なんかこれ、綺麗ね」
淡い光を放つ、薄紫色の水晶のようなものが、中央を中心に散らばっていた。それはどうやら、今までの魔晶石とは少し違うようで。
「つめっ、た! 何よこれ、氷⁉︎」
「この中が寒いのは、それのせいってことか」
「なんで溶けてないのかしら。涼しいとは言っても、この気温じゃ水は凍らないわよ」
「魔力でできているからじゃないか?」
「あ、そうか。確かに魔力ね、これ」
先ほど外で感じた異様な気配は、この氷の魔力だったのだろう。
「それに、山の中腹で気温が低いから溶けにくい。洞窟の中なら尚更温度も変わりにくいだろう。まあ、だとしても残っているのはおかしいけど。もしかして比較的新しいものだったりするのか?」
「何にしても、自然発生とは考えられないわ。こんなの見たことも聞いたこともない」
「誰かが残したもの。と考えれば、あの感覚にも説明がつくか」
更に言えば、エイジにはこの氷には見覚えがあった。魔力も知っている気がする。と、なると__
「まさか……」
「ん? 何か分かったの?」
「ああいや……別に、そういうわけじゃないんだが」
咄嗟にはぐらかす。言わない方が良さそうな気がした。
「そう。で、これどうする? 持って帰ろうかしら」
「いや、持ち帰っている途中に溶けてしまうんじゃないか?」
「そっか……綺麗だし飾りたかったんだけどなぁ」
レイエルピナじゃ名残惜しそうに、持っていたアメジストのような氷を放り捨てた。
「わたしとしては、結構気になる発見だったんだけど。アンタにとっては、そうでもないのかしら」
「ん~、どうだろ」
「?」
エイジの煮え切らない態度が気になるのか、ひょこっと顔を覗き込んでくる。その愛らしい様子を見ていると、考えていたことが吹き飛んで、どうでもいいことのように思えてきた。
「まあ、気になることではあるけれど。役に立つかというと、そういうわけじゃないからな」
「そういうことね。ま、霊峰って言われてるくらいだし、幻獣とかみたいな、この氷を生み出した存在がいてもおかしくないわ。わたし個人としては調べてみたいけど、アンタがいいっていうなら今日はナシか」
その発見の後も二人は、次々と洞穴を調べ上げていく。その結果、地脈の上にある洞穴には魔晶石が、無いところには多種大量の鉱石があることを発見した。
魔王国の者も、その遠さと険しさから、基本的にこの山に来ることはあまりなく。魔晶石も出来る限り使わないで、城地下の龍脈から魔力を吸い上げる。もしくは、自身の魔力を使うことで補っていたから、それほどの量は必要ないそうだ。だが、いつどれほど必要になるかわからない上、調査もしておきたいとのことなので、エイジはレイエルピナが引くくらい念入りに調べた。
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