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Ⅳ 魔王の娘
10節 魔晶石採掘 ③
しおりを挟む洞穴を一気に駆け上がり、そのまま飛び出す。そして切り立った崖の岩を、ヤギのようにピョンピョンと身軽に飛び移り山を下っていく。
さっきは山の中腹だったが、今度は麓の方を探してみるつもりだ。ある程度降りると、あるものが目に留まる。
「おっ、こっちの方が多いな」
標高は、下から三分の一くらい。さっきのはまだ洞窟内にポツポツ点在していたが、この辺りは山肌にびっしりと生えている。
「龍脈に近い根元の方が、そりゃ多くなるでしょ」
「確かにそうだな……純度はあんまり変わらないっぽいけど」
「それは、どこでもそんなに変わんないわよ。空気や水なんて、どこにでもあるでしょ?」
「そうなんだ……さて、調査調査~」
適当な洞穴に入ろうとして__
「くっせ!」
「ん? どうしたの?」
「腐卵臭、硫化水素だ! 火山ガスに含まれる有毒ガス。ここ危ないな、封鎖しよう」
剣を取り出し、入り口にキケンと彫る。
「腐った卵? そんな匂い、しないけど……まあ、獣人化してるアンタの方が鼻はいいんでしょう、信じるわ。はい、次行きましょ、次」
「そうだね。でも、還元剤としての利用価値があるからな、今度捕集しよう。しかし、なんで火山性のガスがこんな所に?」
次の洞穴は大丈夫そうだ。しかも、だいぶ広い。
「……ていうか、降りないの?」
「……ちょっと甘えたい気分なの」
キュッとしがみついてくる。そんなこと言われたら、断ろうなどとは微塵も思えない。しかも頼られて、ちょっと興奮してきた。しかし、ここで図に乗るとやらかすのが自分。深呼吸して、気を引く為に変な行動しないよう気をつけよう。
「なあ、口笛吹ける?」
「うまくはないけどね……ヒュー、ヒュー、ピョッ!」
「ぷっ、あっははははは!」
気の抜けた音がして、吹き出してしまう。
「ううう……このバカ! 言ったじゃん! あんまり上手くないって!」
「あははは、ごめんごめん」
ベシベシと肩を叩かれる。初めて会った時のような強さでもないので、それすらも可愛らしい。
「今度はちゃんとやるから! ……ピューー……どう? できたでしょ!」
「…………うん、暫く進んだ所に大きな空洞、その先は細くなり、分岐あり。上下に分かれてる。上はそこから左右に分かれて、その先はわからん。下は行き止まりっぽいな。崩落の危険性もなさそうだ。いけるな」
目を瞑ったまま、何かに集中する素振りを見せていたエイジは、スラスラと洞窟の構造を言い当てる。そして開かれたその目の色は、変わっていなかった。
「えっ? なんで分かるの?」
「音の反射だよ。洞窟に住む蝙蝠は目が見えないが、ぶつかることなく飛行できる。その理由は、超音波を飛ばして、その反射から周囲の状態を把握するから。反響定位こと、エコーロケーション。別名アクティブソナーともいう。海でもイルカなどが魚群探知のために使ったりするな。オレは獣人化の恩恵で、耳がめっちゃ良くなった。それに、振動を感じるだけだったら、頭の第二の耳のほうがいい。超音波さえ察知できる。だからそこに意識を集中すれば、何となく分かるのさ」
「ふうん、すごい便利ね。なんで獣人になんかなったんだろうと思ったら、ちゃんと訳があったんだ」
「ああ。五感の強化、それから第五の手足となる尻尾。これが欲しかったのさ」
「なんだ、ただ可愛がられたいのかと思った」
「んなわけないだろ⁉︎」
「ホントかしら」
レイエルピナはエイジの腕に収まったまま、ニヤニヤとその顔を見上げる。その追求に対し、エイジは目を逸らすくらいしかできなかった。実のところ、少なからず意識していた節はあるのだ。特にテミスに撫でられていた時などは顕著だろう。
「……さあ、調査開始だ」
空洞を抜けて、細道を下の分岐に曲がり、下ったところで違和感に気づく。
「あれ? なんかおかしいと思ったら……ここ、魔晶石が全く生えてないぞ」
「あー、ほんとだ。ねえ、降ろしていいから、調べてみてよ。光源はわたしが持つわ」
「ありがとう、助かるよ」
レイエルピナを降ろして、壁を調べてみる。匂いはしない。叩いても、空洞もなさそうだ。
「んー……何があるかなっと、せぇ‼︎」
突然エイジは、行き止まりの壁を、戦鎚で全力で殴った。
「うわぁ⁉︎ ビックリしたじゃない! そういうことするなら事前に一声かけてくれない⁉︎」
「あー、ごめんごめん」
レイエルピナに詫びつつ、カケラを拾い上げてみる。
「ちょっと照らしてくれ」
手元を照らしてもらい、調べてみる。
「……っ! まさか、これって……」
「どうかしたの?」
「赤鉄鉱、つまり鉄鉱石だ。鉄の原料」
「鉄か……確かに大事ね。他のもあるかしら?」
「調べてみるか。離れて。魔術で爆破する」
壁に地属性と火属性の合わせ技の魔術陣を設置。指向性を奥に与える。同心円にしてしまうと崩壊する恐れがあるからだ。十分離れて__
「ドッカーン!」
「……テンション高いわね。いきなりどうしたのよ」
「さて、調べてみるか!」
再び奥に戻り、いくつかのカケラを拾い上げ、調べてみる。
「待って、これ、ボーキサイトか? これはマンガン……待って待って待って!」
「なに? またなんかあるの? そろそろアンタが突然興奮するのには慣れてきたけど、出来ればやめてほしいわ。びっくりするもの。で、何を見つけたの?」
「銅に銀に亜鉛にスズにクロムにニッケルに鉛……あらゆる工業に使われる鉱石がある‼︎ ヤバイぞ……地球にこんな鉱山はなかった! と、断言はできないが、少なくとも知る限りでは無かったはずだ。素晴らしい! 霊峰と言われるだけはある!」
「そう。わたしにはいまいちわからないけど、アンタがそれだけ興奮するってことは、すごいってことなんでしょ。まあ、そこに関しては任せるわ」
いくつかの鉱石をサンプルとして確保すると、入り口まで戻る。そして再びそこに戻れるよう、分かりやすい印を残しておいた。
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