魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅳ 魔王の娘

幕間 休養 〜お仕事こわい〜 ②

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 そこに救世主、もとい攪乱者、或いは新たなるライバルが現る……!

「おはよー! エイジくん、目が覚めたんだね。あー、でも今昼だよね~……こんにちはの方が良かったかな?」

 ノ ク ト だ

「あー‼︎」

 エイジの周りを見て、いつものニヤリ顔を経て、今回は歓喜したように満面の笑み。

「そうかそうかぁ、そこまで進展したかぁ! うんうん、僕は嬉しい‼︎」
「ち、違うわよ! そんな関係じゃ__」
「そうそう。恋人なんかじゃねえさ。誤解すんなや」

 エイジの言葉に、また一瞬空気が張り詰める。

「えー、そうかな~?」
「そうだ」

「んー、もったいないなぁ。手出したりしないの? キミのこと大好きな女の子に囲まれてさ。結構好みにも合ってるんじゃない?」
「魅力を感じていない、と言えば嘘になるだろうな。だが、恋人を作ろうという気にはなれない」

 前半の言葉で嬉しくなったものの、後半でピシャリと遮られ、女性陣はショックを受けた様子。

「なんで?」

 その理由が気になるのか、あまり興味のないフリをしながらも、興味津々に耳を欹(そばだ)てている。

「オレは女にかまけている暇はないからだ」

 答える彼の表情は、女の子に囲まれているにも拘らず、真剣あるいは不機嫌そうなもの。声が低く雰囲気も堅い、仕事モードの顔だった。

「一つ、オレは多忙だ。よって、女に現を抜かしている余裕などない。二つ、オレは為政者だ。思わせぶりな行動をしたらコロッと落ちる、ハニートラップに弱いだなどと思われては困るんだ。三つ、恋人など作れば、それが弱みとなる。オレに制約を与えるための脅しの道具に利用されるであろうことは目に見えてるだろう。お互いに迷惑を掛け合うだけの存在など御免被る」

 論理的に感じるような理屈を、至極落ち着いた様子で並べ立てる。その理論武装に、女の子たちの方は説き伏せられそうになっていたが__

「ふうん。けど、それ建前でしょ? この状況じゃあ、説得力ないって。それでも無理矢理追い出したりしないで、そういうスキンシップを許容しているあたり、満更でもないんだろうなっていうのはわかるよん?」

 指摘された彼は、酷く苦々しい表情だった。言動と態度が一致していないことから図星を突かれたのが、随分と応えたようだ。

「というわけで、みんな! 全然付け入る隙はあるってこ__」
「で、ノクト、何の用だ。わざわざ揶揄いに来ただけじゃあないだろうな」
「ん~……っと、お見舞いだよ」

 何かを紹介するかのように、掌を上に向けて手を出す。何も無いが……突如そこにシュッと花瓶が現れる!

「お前……もう使いこなしたのか」

 まさかの能力使用に、その場の皆が驚いた。

「昨日、みんなにこっそり渡してたんでしょ?」
「……よりによって、一番最初に気付くのがお前だとはな」
「あれ、そうだったの? いっがーい」

 エイジのサプライズにすぐ気付く。

「いやでも、この能力使うの難しいねえ。鎌を取り出すのと、だいたいおんなじ感覚だからなんとかなってるけど、それでも仕事がてら一晩中練習しなきゃだったし」

「そりゃ、大本はオレだからな。オレ自身は大したことない。むしろ、最初使えるようになるまで随分掛かった」
「いやー、でもこれ頭使うし、戦闘で使うの大変だよ。よく使えるよねー、すごいと思う」

 褒めちぎり、卑屈気味謙遜をすぐさまフォロー。

「……そうか。で、その花は?」

 折れるまでしっかり押す。目安は恥ずかしがって逃げるまで。これが攻略法。

「これかい?」

 ノクトは花瓶を両手でしっかり持つと、ベッド近くのテーブルに置く。その花瓶には、淡い紫の花を中心に、色とりどりの花が生けてあった。

「この花の香りは、リラックス効果があるんだ。それに、見栄えもいいだろう? これで少しは気分も安らぐかなと思ってさ」

 気の利いた贈り物だ。

「さてと。じゃあ、今日のメインだ。女の子たちには悪いけど……エイジくん、ここに寝転がってくれるかい?」

 パッチンと良い音の指鳴らしと共に現れたのはマット。

「うつ伏せでね。上も脱いでくれ」

 エイジは言われた通り、大人しく従う。上半身裸になると、そこに視線が集まった。

「……気づいてるぞ、ムッツリども」
「さて、じゃあ始めよっか」

 続けてアロマを焚き始める。その香りは、さっきの花々と同じ。

「あー、お客さん、凝ってますねえ」
「くっ……あぁっ」

 オイルを垂らし、マッサージを始める。

「よく……精油やら、マッサージオイルやらあったな」
「帝国から接収した医学書にっ、書いてあってねっ! 作ってみたんだよ。効果があるのなら、なんでも取り入れるのが医者だと思うんだ」

 首、肩、腰と、座りっぱなしだと負担のかかりやすいところを重点的にほぐしていく。

「さてと、じゃあマッサージと並行して、これもやっていこうかなっ!」

 ノクトの手が、暖色の淡い光に包まれる。じんわりと温かく、血行が良くなったような感覚がする。

「エイジくんは、普段は全然魔力を使わずに溜め込んだり、ある時はいきなり大放出しているでしょ? この極端な差は、幻魔器に負担がかかるんだ。そのせいで、魔力の巡りが悪くなっちゃう。だから、今ほぐしているんだよ。これ、ほんとはベリアル様の方が上手いけどね」

 自らの魔力経路に、他人に干渉されるのはむず痒いが、それ以上に気持ちいい。

「あ、やべえ……これ寝るわ」
「どうぞごゆっくり~」

 それからほどなく、エイジは眠りに落ちた。

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