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Ⅳ 魔王の娘
9節 能力開帳 ②
しおりを挟む「そうだったのね。ありがと、力貸してくれて。でも、わたし……気になってきたわ、アンタのこと、その能力のこと」
「レイエルピナちゃん……!」
感激したように言うのはノクト。当初の険悪な空気からは考えられない程に、彼女らの仲が良くなったことに感極まったらしい。
「やめてよ、恥ずかしいじゃない!」
頬をほんのり染めてむくれる。まだ少しあどけなさの残る顔が可愛らしい。
「勘違いしないでよね! わたしは、アンタが気になってるんじゃなくって、その能力に興味があるだけよ!」
おまけに、ツンデレのテンプレ台詞まで言われてしまった。が、東野エイジはというとさほどの反応は示さずに、顎に手を当てて考えごとをしている様子。
「能力について教えてほしい、ねえ……悪いけど、言えないってのが答え」
「なによ、ケチ」
「手札というのは、隠すものだ。おいそれと明かすようなものじゃあない。特に切り札ならば、ね。とはいえ、さっきも言った通り、オレにもわかっていない部分が多いんだ。信用していないわけではないので悪しからず」
「じゃあ、どうやって手に入れたわけ? 聞いたわ、アンタはあっちでは特別な存在ではなかったって」
「この世界に来る時に授けられた。力を与えた存在に関しては言えないし、なにより、やっぱり全然知らないんだ。ウソじゃない、本当だ」
エイジは怪訝そうなレイエルピナに、目をじっと見つめられる。しかし、真意は見透かせなかったか、諦めたようだ。
「そ。……ナイナイ尽くしでよく今まで生きてこられたこと」
「そりゃ、魔王様や彼ら幹部のおかげでね。いやはや、よくぞ恵まれた環境を引き当てられたものだ」
感謝された彼らは、満更でもない様子。
「じゃあ、この質問の答えはわかるかしら。その封印能力はアンタの力。なら、なんでわたしの神の力を抑えられるのよ。同じアンタの超能力だけに適用されるのが筋に感じるんだけど」
「さあ、わからない。オレとて、種族の力を抑制できるのは、やってみたらできた程度の認識だからな。けど、なぜ抑えられると思ったかっていうのは話せる。オレがねだったモノの中には、魔力もあった。その魔力にも適用されているから、特殊能力以外にも使えるかなと。あくまで私見だが」
「ねだった⁉︎ なら何で知らないことがあるのよ」
「それは、その力の出どころがわからないから。それと、オレの要求してたものとはちょっと違うらしいんだよね」
エイジとレイエルピナ、今この会議室は完全に二人の空気になっている。口が挟みにくい。ので、会話の内容に傾聴する。どちらにせよ、この会話で彼のことをよく知れるのだから。
「魔力だけじゃない。オレはこの身に、魔族やら様々な種族の力を宿している。この世界に来てから、フォラスに頼んで付加してもらった。その能力にも適用されたんだ。これも、やってみたらできた程度の認識だけどね。ある種の賭けだった」
「そうなんですよ。彼、移植直後にも能力を制御してしまったので、身体への負荷や、種族同士の拒否反応といった経過観察のデータが採れなかったんです!」
折角のサンプルが、大した結果を残させてくれなかったことが不満らしい。ベリアルの下だから抑えられているとはいえ、フォラスにはマッドの素質があるようだ。
「今は制限能力でそれぞれ抑えているから、分かりにくいかもしれないが、実はかなりのキメラなんだぞ。ちなみに制限能力を使うことで、戦闘中に種族の解放率弄って弱点を調節して、特効を軽減できたりもする」
特効とは。エイジも気になったことがある。そこで訊いてみて、得られたのが以下の答え。
各種族の魔力の根底には、遺伝子のように共通の特性がある。また、魔力は身体に影響を与えることは、肉体強度や髪の色などから明らかである。つまり悪魔であれば、悪魔としてある程度定まった魔力特性を持ち、その魔力が身体に作用することで、悪魔たる形質変化をもたらすのだ。
特効は、その種族としての魔力に格別に反応する性質のことである。魔力に侵され変質した身体に、並外れた影響を与える。これが特別効果、特効である。
「その種族であることによる恩恵だけを受けて、悪い影響は全てシャットアウト。なかなか便利っだろう?」
「……なるほど。たまにアンタの魔力が、すっごく気持ち悪くなるのは、そういうことだったのね」
「えっ、キモイの⁉︎」
「異質すぎて気になっただけよ。いくつもの魔族の力を持つやつなんているわけないし。普通はね。慣れた今はそれほどだけど」
よくよく考えればそうだよな、と気づく。キモイと思われていたことに傷付くが、恩恵がそれを補って余りあるので仕方ない。
「で、それってどのくらいあるの? 戦闘中に見た限りだと、悪魔とか竜やら堕天使やらはあるみたいだけど」
「ならば、その力の一端をお見せしよう。はあっ!」
マントを脱ぎ捨て、頭と尻に少し力を込める。すると__
「はい、これは猫科の獣人の力だ」
猫耳と猫尻尾が生える。毛色は髪の毛と同じアッシュグレー。
「この他にも、インキュバスやエルフやヴァンパイアやら。ところで、これってどうなのかなぁ……多分、似合ってないとおも__」
「ね、ネコミミなんてあざとすぎですわ!」
「…………にゃーん」
「「「ふわぁあぁぁ‼︎」」」
エイジが猫の手をして鳴くと、ダッキが悶絶していた。と思いきや、もう数人の声が聞こえたような。
「はわわ……あ、あの、触ってもいいですか?」
テミスが手をワキワキさせながら、ちょっとだらしない顔で迫ってくる。その後ろでは、シルヴァとモルガンが顔を押さえ崩れ落ちていた。果たして、痛さに目も当てられないのか、それとも可愛さに悶えているのか。
「猫好きだったのか?」
「はい! 一挙両得です!」
「まあ、その気持ちもわかる。オレも猫大好きだし。で、触ってもいいが……尻尾は脊髄と直結していて敏感なんだ。あまり強く握るなよ? それと尻尾とはいえオレの一部だ。五本目の手足とも言える。尻尾は所感だが腕の八割くらいの力がある。竜ともなると足の1.5倍くらい力があったりするが……ともかく、尻尾だけで体を支えられるくらい力が強い。いきなり強く握るとビックリして吹っ飛ばすかもしれないから、触る時は気をつけるように」
握手をするように、目の前に伸ばす。テミスが尻尾を優しく丁寧に、少しおっかなびっくりだが触ってきたので、伸ばして尻尾を腕に巻き付けたり、軽く顔をペシペシして遊んでやる。幸せそうだ。
「さらにこの能力、ただ可愛いだけじゃあない」
「へえ、アンタ自分で自分のこと可愛いとか思ってたんだ」
「……実は尻尾は0.5~1.5倍に伸縮可能なうえ、猫耳にも超音波を聞き取れる程度の聴覚がある。まあ、鼓膜がないから、主にただの振動を感じ取る用だな」
自分の無意識な自意識過剰っぷりを恥じながらも、暫くの沈黙を挟んだのちなんとかスルーして話を続ける。
「私はカワイイと思います!」
「同感ですわ!」
「同意します!」
そして飛んできたフォロー(しかもどうやら相当本気っぽい)に赤面しつつ、話の主導権を握ろうと頑張った。
「……この形態では、獣としての本能や直感、聴覚や嗅覚などの五感が強化されるんだよ。だから……この部屋に潜んでいる者の気配も感じ取れる! 今やっと気づいたけどね‼︎ おい、出てきやがれ‼︎ そこにいるのはわかっている! もし出てこないなら……こちらから行くぞ‼︎」
テミスの腕から尻尾を離し、その場から飛び上がると、天井装飾の裏に潜んでいた者を、尻尾で引っ掴み投げ落とす。
「グハァッ!」
落ちてきた者は、どうやらただの人間のようだ。黒ずくめで、目以外が露出されていない。まるで忍者のようだ。
突然の展開に酷く驚く者、気付いてはいなかったが驚かなかった者、わかっていたように何の反応も示さないどころか気付くの遅いと呆れてすらいる者。やはり幹部らの反応はまちまち。
「クッ!」
ところでその男、どうやら相当訓練されているらしい。すぐに起き上がり、体勢を立て直した。しかし、みすみす見逃すエイジではない。
「ふん」
真ん前に降り立ち、尻尾で頬を二回往復ビンタ。それから眉間を尻尾の先で突く。
「ガッ!」
突きを受けた者はよろける。そしてそこを__
「はっ!」
裏回し蹴りの如く、尻尾で薙ぎ払う。胴体に直撃し、奴は壁に叩きつけられた。ダメージを受けダウンした者の首を尻尾で締め付け、顔の高さまで持ち上げる。
「おい、アンタ何者だ」
「ウ……グッ……アアッ…」
「何者かと聞いている」
「貴様に、話す、事は、無い……!」
「そうか、何も言う気はない、か。ならば死ね」
尻尾で首をさらに強く締め上げる。
「かぁッ……ひっ、姫様……」
引っかかる言葉を最後に、そいつはそのまま気絶した。本気のレイエルピナさえ止められる力、それは人間の敵うものではなかった。そしてそれには、幹部でさえ慄いているようだ。また触ってくれるかと、エイジは心配である。
「っと! ちがうちがう。今、気になることを言ったな。姫様って。テミス姫様、こいつが誰か知ってるか?」
問うが、返事がこない。
「どうした。言いたくないか?」
「いえ、思い出していました。彼は…………帝国皇室直属の、諜報部隊の隊長です」
「なんだと⁉︎ 帝国のスパイって……こんなところまで来た事は尊敬するが……なんてこった、この城の警備はどうなってやがる⁉︎ ガバガバかよ!」
敵の刺客の侵入を本拠地に許してしまうとか、どうかと思う。自分が魔族でなかったら、そして暗殺されようとしていたらと思うと恐ろしい。
「チッ、フォラス! 館内放送の整備状況は⁉︎」
「はっ、はい、機器を転用するだけですので、ほぼ完成しています。これを。親機です」
「ありがとう。『アー、アー、テステス。こちら館内放送、宰相だ。初使用がこんなとか嫌なんだけど……城内に不審者の侵入を確認した。入口を封鎖し、城を覆う結界を張って内側から脱出できないようにしたのち、城内の全員で探知魔術等を使用し全員探し出せ!』」
魔族語を話して、伝達を行う。どうにも自動翻訳は肉声でなければならないらしく、通話越しでは作用しない。よって、言語の知識を一度完全にインストールして話す必要があった。
と、ここで一度言葉を区切ると、今度は帝国語で話し始めた。
「『オイ、侵入者ども! お前達の隊長は捕縛された。大人しく投降すれば穏便に扱うが、出てこなければ……そうだな、テミス姫がどうなっても知らんぞ。自ら出てこないようなら、お前らを拷問しよう。拷問にかけても何の情報も引き出せないのは分かっているから、ただ痛めつけるだけだ。それが嫌ならとっととでてこい。以上!』……はぁ、こんなことがあるとはね。城の警備を見直さなくては。さてと、いつから居たのかな?」
千里眼、過去視を発動する。スパイがここに侵入したのは__
「なんだ、たった数分前か……よかったぁ、オレにしては運がいいぞ! てことは重大なことは、ほとんど聞かれてないとみていいな。ふぅ、記憶いじったりする必要がなくて良かった。この気絶で少し忘れてくれると、もっと嬉しいんだけどね」
「まあ、大事なこと話そうとしたら止めたけどな」
「だったら早く言えよ‼︎ てか、この城の防備どうなってるわけ⁉︎ あまりにもセキュリティ管理がなって無さすぎるんですけど!」
「……何も言えぬな。これは、建て替えなどを検討する必要があるか……」
気づいているからと呑気に構えていたようであるが、彼の言葉にそうだと思い直し、面目なさげな幹部たちであった。
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