魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅳ 魔王の娘

9節 能力開帳 ①

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 女性陣に遅れること数分。彼女らとは違い、廊下を走ることなく、扉を静かに開けて男性幹部らも集った。されどやはり、まずは宰相に声をかけるのだった。エイジは、社交辞令だとしても、愛されているようで嬉しかった。

 さて、これにて魔王と幹部全員、宰相とその秘書、レイエルピナ、そしてテミスが集まった。

「それでは、緊急の会合を始めよう。といってもだ、これは国の方針を決めるような公式で重大なものではないから、肩の力を抜いてよいぞ。で、どうなったのだエイジよ。レイエルピナと共に寝たのだ。関係は深まったのだろう?」

 初っ端の爆弾。エイジの周囲だけ空気が何十度も下がったように凍りつく。

「え……あ、いや、何も無いですよ? 確かに、関係は改善されましたが、そのようなことは特に」

 凍傷になりそうだ。早くなんとかして欲しい。

「む、そうなのか?」

 エイジは視線に凍えているが、嘘は吐いていない。自分の想像していたようなことはなかったらしく、ベリアルは自身の過ぎた考えが恥ずかしかった。

「ベリアル様、まずはエイジくんの体調を気遣ってあげた方がよかったんじゃないですか」

 ノクトにすら咎められて、自身が想像以上に浮ついていたことに気付き、羞恥でいっぱいだった。許されるのなら蹲ってしまいたかった。

「ああいや、もう皆、彼の無事な姿は見ているからいいかなと……」
「で、関係が改善したとは、一体どうゆうことですの?」

「……私は、レイエルピナから直接聞きました。彼女の過去に何があったか、そして今彼女の身体でなにが起きているかを」
「レイエルピナの神霊のことだな。ああ、知っていたとも。残りの命が僅かに迫っていたことも、な」

 ベリアルは至極落ち着いた調子であるが、レイエルピナは身を震わす。

「お父様⁉︎ やはり……気づいていらっしゃいましたか」
「ああ。我が愛娘のことだからな。だが、それも過去の話だろう? 体から不自然さが消えている」

「流石の慧眼ですね、我が主。王としてだけでなく、父としても素晴らしいお方だ。以前の言葉、撤回し謝罪します」
「いや、あの時の私は、確かに眼が曇っていた。目を覚まさせてくれたのは貴公、そしてテミス姫だ」

 テミスにも目を向け、感謝する。責める言葉をも受け止める、器の違いを思い知らされた。

「まあ、この話はもうよい。それよりも、レイエルピナと何があったか、教えてくれ」
「承知しました」

 一息おく。大事な話だ。

「まず前提知識として、私の能力の話です。前に話した時には、いなかった人も増えていますからね。まず一つは、亜空間からの物体の召喚」

 右肩上に穴を開け、そこから剣を取り出す。

「二つ目に、物体の変形能力」

 取り出した剣を波状のぐにゃぐにゃにして、放り捨てる。

「三つ目、全ての言語に対する自動翻訳。話し言葉、書き言葉のどちらにも対応している。オレが誰とでも会話できるのは、この能力のおかげだ」

 試しに機能を切って日本語で話しかけると、全員ぽかんとしていた。日本語で作文しても、やはり誰も内容を理解できていない。再発動。

「四つ目が、過去現在未来を見通す千里眼」

 右指で眼を指す。

「は?」
「だよねぇ、そーだよねぇ。怖いでしょ。まあ、安心できるかはわからないけど、制限もあるから」

 そのぶっ飛んだチートっぷりに、レイエルピナは唖然としていた。

「まず過去視は、過去その場で起きたことが見れる。つまり、場所による。自分の現在地周辺のみで、遡りにも限界がある。類似能力はサイコメトリー。解放率上昇で遡り限界が伸びるんだ。現在視は自分から一定範囲の現在が見える。ちなみにこの現在視は、ベリアル様曰く、魔力耐性がある者なら知覚し、干渉して阻害できるらしいよ。解放率で範囲拡大。未来視は、狙った発動は数秒から数分。狙った通りの発動はほぼ不可能なんだけど……たまに眼が痛くなって、未来予知が可能だ。解放率次第で数時間とか先までは見れるかも。偶発的な予知は数ヶ月先まで見えることもある」

「それでも強力に変わりないじゃない! ……っていうか、お父様と食堂で話していた時に感じた視線は……」
「悪い、オレだ」

 不機嫌そうである。しかし、それだけで責めることはなかった。

「あ、でも千里眼使ってるな、っていうのは分かりますよ!」
「ん? どういうことだ、テミス?」

「だって、眼の色が変わりますもん」
「へぁ⁉︎」

 驚きのあまり、声が漏れ、目を押さえる。

「あ、そうか。自分じゃ分かりませんよね? 右眼が金に、左眼が銀に変わるんです」
「そ、そう? なら試しに使ってみるから、見てくれ」

 暫く現在視を自分に向ける。自分自身で目の色が変わっていることを確認すると、解除する。

「やっぱり、変わってましたよ」
「本当だったな……知らんかったわ」

 自分では気付けなかった新たな発見。なんだか少し気恥ずかしい。

「ああ、でもそれ以外でも変わるわよね。ほら、わたしとキスしたときにも__」

「「「「キス!!?」」」」
「あ……やっべ」

 つい口が滑って発したレイエルピナの衝撃発言に激震走る。ある者は喜びにやけ、ある者は殺意を発した。

「「「「キスってどういうこと⁉︎」」」」

「何も無かったなんて嘘じゃあないかぁ~。よくないぞっ」
「わ、わかった。説明するよ……。その前に五つ目。これら強力な能力を、自分の意思で封印し、制限する能力。現在は最高でも45%までが十分に扱える限界だね」
「あの強さで……まだ半分も……」

 数度聞かされていただろうが、本人の口から改めて言われると、そのポテンシャルへの畏れが増す。

「そして最後。六つ目に、自身の能力の譲渡・付加だ。これ、どういう意味かわかります?」
「……そうか! レイエルピナに、お前の制御能力を譲渡したということか!」
「ピンポーン! 大正解です。制限能力で、彼女の神としての力を封印しました」

 譲渡の能力。その言葉を聞き、皆の目が変わる。無理もない、彼の魔法のような能力が、自分も扱えるかもしれないのだから。

「さて、ここでキスの話に繋がるわけだ。この譲渡能力には発動の条件がある」

 その力を狙う者たちは、傾注する。

「そのトリガーは……対象との接触だ。接触の深度によって、分けられる能力とその出力が変わる。例えば、肩に手を置く、というほんの軽い接触をレベル1としよう。次に手を繋ぐとレベル2、ハグがレベル3。そしてキスが、レベル4に該当する。最高レベルの5は……性交だね」

 想像以上にデリケートな内容だった。男性組、無念そうである。

「それだけじゃない。恐らくは精神……親密度によってはレベル2つ分までは加算の可能性がある、かも。逆に仲悪いとマイナス」

 男性組も少し光明が。

「あとは、相性もあるかもしれないな。オレとの関係や、能力の適正とか」
「そう……わたしとあんなことする必要があったのは、制限能力がレベル4だった、ということね」

「その通り。このようにしっかりした理由があったわけだ。決して、良いムードになったからしたくなったとか、キスしたいからでっちあげたというわけでもないから安心してくれ」

 その意図を理解したか、周囲の冷たい敵意が晴れていく。ただ、浮かない顔の者もいるけれど。

「そう……所詮条件のため、か」
「どうかしました?」
「なんでもないわよバーカ!」

 バカ呼ばわりされるが、そんな謂れがわからぬエイジは困惑。乙女心は複雑なんだよ。

「でも、意外だったなぁ。精神面でマイナス補正掛かって失敗するかと思ったのに……」
「は、はぁ⁉︎ そ、それ、どういう意味よ! まるでわたしが、アンタのこと好きになったみたいじゃないのよ!」
「なぜそこまで焦る……プラマイゼロのニュートラルなんだから、嫌いが無関心になったぐらいだろう」

 でも、それはそれでなんか嫌だった。こんな感情を持っていたとしても、それほどだったのかと。

「……ところでそれって、相手がどのくらい心を許しているかわかるものなの?」
「いや、全然。渡してみないことにはな」
「そう。なら、まだ確定したわけじゃないのね」

 すると、レイエルピナは何故か安堵したようにほっと息を吐いていた。先程からの挙動不審ぶりに、エイジはずっと不思議そう。まあ、キスなんてことを初めてしてしまったのと、長いこと苦しめられてきた頸木が突然消えてしまったら多少は仕方ないか、と流すことに。

「譲渡能力……いいわねェ。エイジの能力……使えたら便利そうよね~」

 機を伺う面々の中で、真っ先に斬り込んだのはモルガン。どんな答えが返るか期待が高まる中、エイジは真顔になると……口元を緩める。

「おや、この能力は既に使用したことがあるんだが。ダッキ、テミス。心当たりは?」

 問われた二人は考え、そしてテミスが先に至る。

「あ、翻訳能力!」

 与えられたのも最近で、記憶に新しいからだろう。すぐに分かったようだ。

「ああ……なぜ、わたくしが魔族語分かるのだろうと思ったら……そういうことでしたのね」

「ああ。レベル1で言語能力が、2で召喚と魔力、3は譲渡能力、4で制限と変形、5は現時点ではないかな。千里眼は、渡せない。能力というより肉体準拠なんだろうな。そんで、レベルが上がるごとに、それ以下のレベルで共有できる能力は出力が上がる。これが今のところ明かせる全て。この力は、オレ自身も知らないところが多くてね。なにせ、極めるには時間が足りなさ過ぎたんだ」

 肩を竦める。手をひらひら振って、お手上げ。

「まあともかく、この能力のおかげでレイエルピナさんは神の力を封印、制御することができるようになりましたとさ。さらに、彼女がこの制御能力を使って神の力をうまく扱えるようになれば、ホムンクルスとしての脆弱性を補い、活動限界を超える可能性もあるかと」

 これがこの報告の結論。この結果に、ベリアルとノクトは特に満足そうであった。

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