魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
157 / 235
Ⅳ 魔王の娘

7節 活動限界 ⑤

しおりを挟む

「情報院への伝達は終わったな。ふむ、二つの部署が固まっていたのか? それは好都合」
「うん。これ、秘書ズの下へ。さて君たち、移動してもらうよ~。この部屋にヒトはいなくていいからね~」

 宰相と、その側近二名も消え、淋しくなった部屋で。ノクトとベリアルは、エイジのいなくなった穴を埋めるように、次々と指示を下していた。

 そして人が掃け、部屋は二人だけとなる。用の無くなり閑散とした部屋を後にしようと、ノクトが扉に手をかけた。

「さて、ではノクト。そろそろ話してもらおうか」

 呼び止められ、彼の動きが止まった。内心、肝が冷える。

「はい? なんでしょ~」
「何を隠している」
「ッ!」

 息が詰まる。

「ア、ハハ…ハ……やっぱりベリアル様には敵わないなぁ」

 言い逃れはできそうにない。なにより最初から、見抜かれたなら包み隠さず話すつもりだった。

「エイジくんは過労。そう言いましたね」
「ああ。それが?」
「実は……誤診なんです」

 ノクトの告白に驚き……はしないが、不思議ではある。

「ほう? どういうことだ。意図的に間違えたと?」
「…………エイジくんが倒れた原因は、僕の呪いです。呪術で、彼を昏倒させたんです」

「何故そんなことを」
「彼のためだ。身を削って働き続ける彼を見ていることが耐えられなくなった。だから……!」

 誰かの為に、そしてこれほど地の感情を見せるノクトは稀有であり、やはり彼も人の子かと親しみを催す。

「僕を独房に入れてください。提案したのは別の方ですが、実行したのは僕だ。そして、宰相に危害を加え、その業務を妨害して国家の混乱を招いた。その罪は重い……」

「彼のため。なのだろう? だったら今することは、そんなことではないはずだ。彼のいない穴を埋めてでこそ彼のため、償いである」

 威厳がありつつ、それでいて責める様子もない寛容な言葉。こんな自分でさえ忠誠を誓う、主君の姿がそこにあった。

「寛大なる処置に感謝を。陛下」
「やめてくれ。お前に陛下なんて言われると、むず痒くてたまらんわ。では、仕事だ仕事。奴が新しいことを始めるには、今溜まっているものを清算する必要があるからな」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

ウィリアム・アーガイルの憂心 ~脇役貴族は生き残りたい~

エノキスルメ
ファンタジー
国王が崩御した! 大国の崩壊が始まった! 王族たちは次の王位を巡って争い始め、王家に隙ありと見た各地の大貴族たちは独立に乗り出す。 彼ら歴史の主役たちが各々の思惑を抱えて蠢く一方で――脇役である中小の貴族たちも、時代に翻弄されざるを得ない。 アーガイル伯爵家も、そんな翻弄される貴族家のひとつ。 家格は中の上程度。日和見を許されるほどには弱くないが、情勢の主導権を握れるほどには強くない。ある意味では最も危うくて損な立場。 「死にたくないよぉ~。穏やかに幸せに暮らしたいだけなのにぃ~」 ちょっと臆病で悲観的な若き当主ウィリアム・アーガイルは、嘆き、狼狽え、たまに半泣きになりながら、それでも生き残るためにがんばる。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させていただいてます。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

処理中です...