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Ⅳ 魔王の娘
7節 活動限界 ③
しおりを挟む「大変です! エイジ様が‼︎」
情報処理室。という名目でモルガンとメディアの貸切になっている図書室に、伝令の声が響く。
その内容を聞き入れた瞬間、五名の顔色が変わった。
「エ…エイジくんが、どうしたって……⁉︎」
咄嗟に訊くのはモルガン。嫌な予感がしていたのか、青ざめている。
「宰相閣下が、倒れました」
「はぁ⁉︎」
「なんですって!」
秘書二人は、先程彼の下を離れたばかりである。さっきまでなんともなかったはずなのに、離れた途端に。その時、側にいてあげられなかった。その後悔が心を覆い尽くす。
「どういうことです……倒れたって!」
「え…いえ……その……」
凄まじい気迫で伝令に詰め寄るシルヴァ。哀れな彼は慄き、声が出せない。
「シルヴァさん……! 彼を責めたって、意味がありませんわ! さてアナタ、倒れたってどういうことか、説明しておくんなし!」
シルヴァを嗜めるダッキだが、彼女の声も震えている。
「そ、その……ノクト様曰く! 過労とのことです!」
「か…」
「ろ」
「う⁉︎」
シルヴァ、ダッキ、モルガン。彼女ら三人は、その言葉がストンと腑に落ちる。遂に……遂にことが起こってしまったか、と。
「そう……ノクト、やってくれたのね……」
ただ一人は、違う反応を示していたが。
「過労って……一昨日は、大丈夫そうだったのに……!」
テミス、その思考は三日前の夜に飛ぶ。一夜を共にした時、彼は元気だった。それは空元気だったのだと、そして自分の我儘が、彼の心的負担を増やしたのでは、と思い至る。
彼が語ってくれた武勇伝。しかし、その時気づくべきだった。異世界人、プレッシャー、多忙……彼も弱音を吐いてはくれなかったが、自分も結局あれだけ言っておきながら、寄り添えてはいなかった。
「ごめんなさい、エイジ。私は……ッ!」
彼は優しいから、自分の我儘を受け止めてくれた。けれど何も返せなかった自分。やるせなくて、泪が溢れる。他の女性は伝令に詰め寄っていて、それを見られなかったのは幸いだった。
「それで、彼は今⁉︎ 私が看病に__」
「その必要はありません」
焦るシルヴァを、落ち着きを取り戻した伝令が止める。
「何故です⁉︎」
「彼は既に、自室に搬送済みです。また、ノクト様曰く、安静にしていれば回復するはずだ、とのことです。それに、今はレイエルピナ様がお傍にいるということで__」
「「「はい⁉︎ レイエルピナ⁉︎」」」
思いもよらぬ名前に、間抜けた声が響く。
「任命した人はどんな神経を⁉︎ 信用出来ません、ここは私が__」
「命じたのはベリアル様です」
「……ッ!」
誰よりも、レイエルピナとエイジを知っているベリアルが命じた。とあれば、反対もできない。どこか力なく、シルヴァは椅子に腰を下ろす。
「倒れた宰相閣下の代わりは、ベリアル様とノクト様が引き継ぐとのことです。報告は以上です、失礼しました!」
用件を伝えた伝令は、足早に部屋を後にする。取り残された者達は黙り込み、重苦しい静寂に包まれた。
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