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Ⅳ 魔王の娘
6節 宰相単位 ④
しおりを挟むかなり単位も出揃ってきて、次は何にしようか、と考えていると__
「ご主人様! ああ、やっと見つけました。ご主人様の部屋にこんなものが!」
エイジのメイド達が、各々何かを抱えてやってきた。
「ん? それは……槍に杖、か」
彼女達が持ってきたのは武器だ。それにやや遅れて、メディアが現れる。先程の休憩時、フッと姿を消していたのだが。
「……これ、貴方の部屋に」
「それ、手紙か? って、なんでアンタ、オレの部屋に……」
「たまたま…通りかかったら…メイド達が…騒がしかった……私は…これを持つように…言われただけ」
訝しげな視線を向けつつも、手渡された手紙を開封し読んでみる。
【 エイジくんへ
あの時は隠していたことなのだが、実は私は君のファンでね。君の部屋に、いろんな支援物資を置いておいたよ。それらは推しへの投げ銭だと思ってくれたまえ。有効に活用してくれると、私も嬉しい。
ps.一メートル定規だけでここまでできるとは思っていませんでした。驚嘆しています。なので、特別な物資を追加しておきました。
____(名前明かせなくてごめんね)より ♡】
「……はあ。アイツは一体何なんだ……」
胡散臭いにも程がある。
「その武器、見せてくれ」
「はい、どうぞ」
その内容はさておいて。投げ銭だという武器を触ってみる。その瞬間にわかった。
「何だこれ……上物の武器じゃないか!」
槍はB、杖はB+クラス相当の武器である。これほど高級な武器は、なかなかお目にかかれないレア物だ。
「私たちでは運べなかった武器も、まだ部屋にいくつかあります」
「なんだと……」
これはエイジにとって、とても喜ばしい物資だった。というのも、現在エイジのメインウェポンはアロンダイトだが、それ以外に強力な武器がなかったのである。
アロンダイト以外の、サブウェポンとして使用しているものは、大概特殊な能力を持たない量産型、使い潰しの武器だけだった。今までも、剣で戦いにくいと思っていても、それ以外の武器では有効打を与えられなかった。
何より、射出するだけでなく、手に取ってさまざまな武器種を扱う彼にとって、ある程度強力な武器は、多ければ多いほど良いのだ。
しかも、贈り物はそれだけではなかった。
「エイジ様。これって、貴方様ならわかりますか?」
ダッキが持ってきた物。それが所謂、特別な物資だった。
「なっ、こっ、これは……銃じゃないか! ポリマーのハンドガンだと⁉︎」
「しかも、いろんな形状の物が、まだまだありましたわ」
「一体何なんだあいつ⁉︎ 大サービスにも程があるぞ! 弾も入ってるとは……」
夢での会話を思い出す。まさかとは思うが、あの時例えで言ってたような物……そう、強力な武器に銃。更に、もしかすると、ストップウォッチさえも__
そう思い至ると、もうウズウズが抑え切れない。今自分の部屋は、宝の山なのではなかろうか。そう考えると、気になって仕方がない。ある程度単位は作り、目標は達成した。早く自室に戻りたい。
「一時中断! 悪いがやりたいことができた! 単位については分かったでしょ⁉︎ この紙をもとに、とにかく計器を大量生産しといてくれ! じゃあ!」
遂に堪え切れなくなって、メイドらが持ってきたものを抱えて、エイジは部屋に全力で戻っていってしまった。
取り残された者達は、ただ困惑するばかりであった。今日はずっとエイジがはしゃいでいたが、その理由が分からなかった。オマケに、全てをほっぽり出して自室に戻ってしまった。その身勝手な行動の数々に、彼らは振り回されっぱなし。
「自身の興味を優先にして、俺らを放るなど。アイツもまだまだ未熟だな」
「よいではないか。私からすると、若々しく、楽しそうなエイジは可愛らしいのだから」
「やれやれ、魔王様は宰相に甘すぎですよ。ところでフォラス、俺は全く理解できなかったが、貴殿は如何か」
フォラスを見やると、エイジが残した紙片を穴の空くほどにじっと見ている。ニヤけた様子でブツブツと呟き、眼鏡がギラギラ輝いている。
「キッヒヒ! わたくしも興奮してまいりましたァ! オーダーは、計器の大量生産でしたねぇ……望むところですよォ! この私が作り出した計器で! この世のあらゆるモノを片っ端から調べて調べて測り尽くしてやるゥ!」
エイジに負けず劣らずの様子である。宰相の残した計器や資料の回収を命じると、彼は奇声を上げながら研究所の奥へと消えていった。
「……嬉しそうで何よりだ」
ドン引きしたレイヴンは、それしか言葉が出てこなかった。
「……ノクト…いい?」
「ん~? どうしました、メディアさん」
この軽薄そうな青年も、その薄皮一枚隔てた裏では、得られた情報でハッスルしているのだが、それは噯にも出さない。
「相談がある…」
「ふうん、珍しいですねえ。何についてでしょう?」
「彼……エイジについて」
瞬間、顔色が変わる。普段細められているその糸目、今ばかりは開かれ、暗紅色の怪しい輝きが覗く。
「詳しく」
「耳…貸して」
不思議そうにしながらも、ノクトは屈み、小柄な魔女の口元に耳を寄せる。その口より放たれるか細い声、その声を聞くノクトの顔は、滅多にないことに、驚きに固まる。
「な…んで、そんなことを!」
再び告げられる内容に、纏う空気はシリアスなものへと変わる。
「彼のため、か……では、なぜ僕に?」
その理由を聞くと、ノクトの顔は渋くなる。
「つまり、僕に……やれと言うんだね」
姿勢を直したノクトの確認に、女魔術師は小さく頷く。
「……僕にだって、魔王国幹部としての矜持はある」
毅然と言い放つノクトに、望みは絶たれたかとメディアは落胆。
「そう……なら一人で。このことは…たごん__」
「けど、彼のためだと言うのなら。それを少しくらい、曲げることは厭わないさ」
ハッと見上げたメディアの目には、穏やかに微笑むノクトの顔が映る。
「喜んで、協力するよ」
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