魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅲ 帝魔戦争

8節 戦後譚 ①

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「くっ……はあ、はあ……ケホッ」

 彼の気配が完全に消えると、テミスは漸く座り込む。咳き込んだ口を押さえた手を見ると、そこには血が。激闘の負担は極めて重く、喀血するほど。

「この程度で限界とは……鍛錬が足りなかったか、不甲斐無い……な」
「テミス、大丈夫か⁉︎ ……グフッ」
「いけません、お父様! 父上の方が重傷です!」

 片や王家の装備の反動と、剣戟や殴打で衝撃を受け続け全身が軋み、片や腹に穴が空いている。満身創痍という言葉が相応しい。加えてテミスは、圧倒的強者と初めて対峙するプレッシャー、愛する国を民を傷つけられた怒り、そしてアイザックという者の裏切りによる絶望など、精神的にも大きな負担が掛かっていた。

「動けるか、テミス」
「はい、大丈夫です、父上。それより、衛兵たちと城下の様子を……!」

 何とか立ち上がったテミスは、扉の近くで倒れている衛兵に駆け寄る。というより、倒れ込むように近づく。

「大丈夫ですか⁉︎」
「ひめ、さま……」

「よかった、生きて……直ぐに応急処置をします!」
「い……え。私より、市民たちを……」

「………分かりました。絶対に、死なないで!」

 結界には回復作用もある。生命維持には十分だと信じて、いうことを聞かぬ体を引き摺りながら、剣を杖に外へと向かった。


「なんて酷い……」

 帝城から眼下に広がる景色、見渡す限りの建物が崩壊していた。道は割れ、黒煙が上り、見るも無惨な光景だった。美しきメラレアの街並みは、最早見る影もない。

「ひ、姫様!」

 呆然と立ち尽くしていると、横から声がかけられる。四十代後半の、堅物そうな男だ。軍服はボロボロで、所々血が滲んでおり、決死の覚悟で戦ったであろうことが窺える。

「軍師殿⁉︎ ご無事でしたか、よかった……」
「ええ、辛うじて。ですが、軍は完全に崩壊してしまいました……。私の、責任です」

 自身よりよほど勇猛に戦ったであろう姫の前で、彼は頭を垂れる。

「いえ、誰も悪くはありません。悪いのは全て魔王国なのですから」
「おい、指揮官長!」

 テミスに遅れ、魔術杖をつきながら、ノロノロとイヴァンが現れる。

「イヴァン様! ッ⁉︎ そのお怪我は⁉︎」

 帝国の最重要人物、イヴァン皇帝。その腹に空いた穴を見て、彼は固まる。

「魔術で止血はした……ワシのことはよい。王国の兵達と合流し、被害の確認と周辺の警戒を早急に行なえ! 貴様を裁くのは、後処理が終わったあとじゃ!」

「はっ! 承知致しました‼︎」
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