魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅲ 帝魔戦争

7節 戦場の逢瀬 ②

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「ペタリペタリと……あとは介にゅ__あっつ⁉︎ まさか攻性防壁とはね……」

 バチリという音と共に、何かが焼ける音がする。音がしただけで、彼は無傷だが。

「防御強化しとこっと。…………よし、成功。あとは……うらァ!」

 アロンダイトでブン殴ると、ガラスの割れるような音がして、正面の防壁が破れた。

「ん? あーりゃ、全部は割れないと……こりゃブロックごとに術式異なってる感じ? 帝国のくせに洒落たことを……」

 しかし、壊れたのは正面の一部だった。他の大半は未だ残っている。

「まあいい。コイツは参考にさせてもらおう。魔王国の技術で以って! もっと高性能なモン作ってやるよ!」

 負け惜しみにそう吠えると、通信機を取り。

「シルヴァ、すまんが正面しか破壊できなかった。オレの影に入って侵入してくれ。そうそう、結界を維持してそうな装置があったらついでに壊しといて。では、いくぞ」

 防壁を堂々と破壊したエイジが正面から悠々と入ると、異変と敵影を目視した兵たちが警戒態勢に入る。それを確認しつつ彼は通信機を取る。

「狙撃ポイントの位置と到達時間は?」
『エイジ様から見て左後ろの見張り塔、到着し制圧しました』

「えっ、もう⁉︎ 仕事速すぎない?」
『恐縮です。では、次の指示を』

 エイジが驚いているうちも、淡々と指示を乞うている。予想以上にも程がある、暫し言葉が出なかった。

「その場から狙撃して、他の見張り塔も落とせ。終了次第、正面左奥の塔へ移動。そこからオレの攻撃に合わせて射撃。半数片付いたら降りてきて。そしたらオレと合流して、波状攻撃にて殲滅。以上、疑問は?」
『ありません。了解です』

 返事を聞くと、エイジは魔力弾を作り、目の前の噴水にぶつけて爆破する。噴き上がる水を大きく跳び越え、敵の眼前に着地。

「残念なお知らせです。君たちは、もうおしまいだ!」

__今だぜシルヴァ__

 演出も相まって、敵はエイジを注視しているため、見張り塔を落とされていることに気づけない。近衛先鋒が踏み込み、エイジが迎撃体勢をとった頃には、塔は全て制圧されていた。

『目標地点に到着しました』
「よし、じゃあ、始めようか!」

 エイジは敵に囲まれつつも、それら攻撃を軽く往なし、シルヴァの報告を受けると全方位水平に一斉に武器を放つ。先鋒が倒されると、衛兵らは盾兵を前に槍衾を張る密集防御陣形を採った。こうなると、正面から切り崩すには少し厄介。だが__

「頼むぞう」
「射る!」

 正面に防御が集中したところに、横からの狙撃が脆弱な箇所を的確に撃ち抜いていく。今度は狙撃で注意が逸れたところに、空いた箇所にエイジが前衛を飛び越えて着地、全方位攻撃で食い破る。そうして、みるみるうちに敵の数は減っていく。

「そろそろこっち来て」

 連絡すると左側の塔から影が落ちて来た。それを確認すると左の兵士に魔術を撃ち込み、道を拓いて二人は合流する。

「いい仕事だった」
「お褒めに預かり光栄です」

 シルヴァは彼のやや後ろに立ち、弓を引き直す。

「中距離戦いくよ!」
「問題ありません」

 エイジは再び武器を呼び出し、魔術を織り交ぜながら前方のみに集中して撃つ。その派手な攻撃の隙を縫って、シルヴァが正確に相手の隙を狙い撃ちしていく。この二人の前に、敵は全く接近できずに倒れていく。

「シルヴァ、後ろ頼む」
「承知!」

 シルヴァは背後と側方から迫る敵に対応すべく後ろを向く。エイジは正面を向いたまま、射出をより精密に細やかくする。

「はっ!」

 彼女は弦を消すと、持ち手を両手で握り、上弦で眼前の者を斬る。すぐさま弓を返し、下弦で右からの攻撃を受け止め、蹴り飛ばし、左手持ちに切り替え手首を回すように上弦で袈裟斬り。

「エイジ様には指一本触れさせません」

 弦を再び張ると、自身は逸れつつ弦で後方からの斬撃を受け止め、回転させて上弦で斬り、弓持ちに直る。先程とは上下逆持ちだ。

「この距離なら!」

 スタビライザーもサイトも逆だが、二十メートルの距離、外すことなく三人撃ち抜き、ゆっくりと順手に戻す。

「片付きました」
「ご苦労。こっちも殲滅完了と」

 急所は外したため死者は少ないながら、全ての兵士が戦闘不能となった。あの狙撃の腕とこの戦い方、シルヴァは戦士というより暗殺者であろう。

「さて、正面の守りは突破したし、オレは中に入るよ。……にしても、案外戦えるじゃないか」
「条件が良かっただけです。ところで、以降私はどうすればよろしいでしょうか」

 謙遜するシルヴァを頼もしく思いつつ、エイジは階上の城門を見やる。

「そうだね。途中まで同行してくれ。玉座にはオレ一人で入るから、その間に罠張ったり不意打ちしたりで城内の兵を撹乱し、邪魔を減らしてくれ。それと……決して無理はしないよう。キリよく感じたり、危なくなったら外へ脱出して」
「貴方を置いてはいけません!」

「近接戦闘苦手なんだろう? それに、条件の悪い屋内だよ」
「…………承知、しました」

 命には不服であるが、筋が通っている以上、感情で反論できるほどシルヴァはワガママにはなれなかった。

「何かあったら連絡取るように。では、行こう」
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