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Ⅲ 帝魔戦争
5節 決戦前夜 ③
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興奮が爆発したノクトをエイジが何とか宥めると、レイヴンが立ち上がって翼を広げる。漆黒の羽は、まるで烏のようだ。
「俺は堕天使の子だ。つまり、天使から堕ちたのではなく、生まれつき堕天している。また、堕天使には階級があってだな。両親の階級が高めだったからというのもあるが、俺は堕天使の階級分け六段階のうち、一番上の六段だった。ちなみに天使は九段階あるそうだ」
「優秀なんだな。……だった?」
「ああ、今のオレは階級を持たない。ベリアルと共にいるには、そのような肩書きは無用どころか邪魔だったからな。……話を戻そう。堕天使は格が上がるほど翼の数が多く、輪はより荘厳に模様や形が変化していく。俺の最大羽数は三対だが、歴代最高は五対らしい」
また、彼のエンジェルヘイローは、くすんだ色であることは他と差はないが、王冠のような突起がついており、その上に一回り小さな輪っかがあるというもの。確かに、言われてみれば神々しくも感じられる。
「ほーん。堕天使達はどこに住んでるんだ? お前以外見かけないが」
「魔界だ。魂が集う冥府より、やや浅いところにある。そこに悪魔などの中、上級魔族達と共に住んでいる。堕天使は落とされたから魔界にいるが、もともと悪魔達とは敵対していたこともあって仲が悪い。堕天使は悪魔などと同一視されるが、実際は全く違う。保守派の過激派がそんなことを聞けば怒り狂うだろうな。だから、俺みたいに高い地位を捨てて、敵対しているはずの魔王の下に入るような奇特な者はそうそういない」
「その魔界ってどうやって行けばいいんだ?」
「各地に入り口がある。魂、あるいは、あちら側からこちら側への移動は容易いが、逆はそうもいかない。あちら側から侵入を許可されなければ、権能級の障壁によって阻まれる。それでも無理にでも行きたいならば、神の力がなければなら無いだろうよ。俺では許可されんし、ベリアルに連れて行ってもらおうにも、お前達には余裕がないだろうよ。だから、今しばらくは諦めた方がいい。それに、特に面白いものももうないだろう。多くの神が姿を消し、大神もそれぞれの治める世界の奥に引き籠っている今、その影響力は小さいからな」
ファンタジーな話が繰り広げられ、エイジは完全に食いついている。レイヴン的にもそのような反応は嬉しいのか、いつになく饒舌だった。
「じゃあ別の質問。堕天使って、どうすると堕ちるんだ?」
「天界を統べる神々への叛逆や、魔族と関わりを持つこと。それから罪を犯す、すなわち罪悪感を抱くことだ」
「ふーん……ところで、魂って何?」
すると、今までスラスラ答えていた彼の口が止まった。そして、彼はノクトの方をチラリと見る。
「んー、エネルギーを持つ情報体、って感じ? えーっと、どう説明しようかな」
「……いや、なんとなくわかった。エネルギー、すなわち魔力とは電力であり、情報とはメモリー量か。内部電源を持ったメモリーってとこかね。そこにプログラムが組み込まれているなら、死霊などが意思を持っているのも頷ける」
「言ってることわけわかんないけど……まあ、分かってることだけ教えるよ。魔力量が多いほど、もしくは情報量が多いほど、魂ってのは強いっていうか、格が高い。情報量ってのは、生前の記憶とか感情だよ。そういった強い魂はなかなか磨耗しにくいから、自他問わず死体に取り憑いてアンデッドになったり、自我や記憶を保ったまま新しい命に転生したり、生前のうちに魔術で保護されたりしていると魂のまま留まり続けたりする」
「転生っていうのは?」
「死神から引き継いだ記憶なんだけど、冥界もしくは天界の最果てでは、魂が集まるところがあるんだって。そこに行き着くと坩堝に溶け込んで、個が消滅する。そこのエネルギーから魂が再び生み出されて新たに宿るとかなんとか。そこまで行けなければ溶け消えちゃうね」
「それとは別に、神ほどともなれば、自らの魔力で体を再構成し再臨することも可能だぞ」
そこにベリアルが口を挟む。彼も話したくなっているのだろうということを察したレイヴンは、話を切り上げにかかる。
「最後に、俺の歳はざっと百五十だ。そのうち六十年近くはベリアルと連れ添っている。これが、おおよその俺の生い立ち。あんま面白みは無かったろうが」
「では、次は私だな」
気づけば誰より飲んでいたレイヴンが、ただ淡々と話し終えると、今度はベリアルが話し出す。
「ノクトに一部バラされてしまったからな、もう話してしまおう。私はベリアル・ゴエティア。およそ260歳である。魔界の魔族を統治する魔王が一柱」
「自己紹介みたいですね、今更の」
あ、やってしまった……と思うも既に遅い。ベリアルが気まずくなってしまっているではないか。
「……げふん、続けるぞ。本来魔王とはこのように魔界のみのものであり、この人間界には存在しないのである。さて問題だ。魔王は何柱いると思うか」
「72」
「なぜ分かる⁉︎」
ピアリと当たったようだ、ベリアルは驚く。だがエイジには、思い当たるものがあった。
「私の元いた世界にも、72柱の悪魔という伝承がありましてね。といっても、実在するわけではないのですが」
「なるほど、そいつは興味深い」
顎に手を当て、目を光らせ聴く姿勢に入る。
「でも、今は魔王様の話すターンですよ」
「ふむ、それもそうか。であれば、魔界や神話についてであれば、お前も楽しめるか」
「いいえ。私はベリアルの生い立ち……そう、魔界での暮らしから、どうして国を興そうとしたのか、そしてそれはどのような歩みだったか、というのをを聴きたい。そのような話は確かに興味深いけど、この世界における神様の影響力ってもう小さいんでしょう? あとで神話の書籍があれば読んでみたいけど、今は後回しで」
「ほう、そうか! よしよし、ではそれは、およそ240年前のことだ……」
そんなこんなで、夜は更けていくのだった。
「俺は堕天使の子だ。つまり、天使から堕ちたのではなく、生まれつき堕天している。また、堕天使には階級があってだな。両親の階級が高めだったからというのもあるが、俺は堕天使の階級分け六段階のうち、一番上の六段だった。ちなみに天使は九段階あるそうだ」
「優秀なんだな。……だった?」
「ああ、今のオレは階級を持たない。ベリアルと共にいるには、そのような肩書きは無用どころか邪魔だったからな。……話を戻そう。堕天使は格が上がるほど翼の数が多く、輪はより荘厳に模様や形が変化していく。俺の最大羽数は三対だが、歴代最高は五対らしい」
また、彼のエンジェルヘイローは、くすんだ色であることは他と差はないが、王冠のような突起がついており、その上に一回り小さな輪っかがあるというもの。確かに、言われてみれば神々しくも感じられる。
「ほーん。堕天使達はどこに住んでるんだ? お前以外見かけないが」
「魔界だ。魂が集う冥府より、やや浅いところにある。そこに悪魔などの中、上級魔族達と共に住んでいる。堕天使は落とされたから魔界にいるが、もともと悪魔達とは敵対していたこともあって仲が悪い。堕天使は悪魔などと同一視されるが、実際は全く違う。保守派の過激派がそんなことを聞けば怒り狂うだろうな。だから、俺みたいに高い地位を捨てて、敵対しているはずの魔王の下に入るような奇特な者はそうそういない」
「その魔界ってどうやって行けばいいんだ?」
「各地に入り口がある。魂、あるいは、あちら側からこちら側への移動は容易いが、逆はそうもいかない。あちら側から侵入を許可されなければ、権能級の障壁によって阻まれる。それでも無理にでも行きたいならば、神の力がなければなら無いだろうよ。俺では許可されんし、ベリアルに連れて行ってもらおうにも、お前達には余裕がないだろうよ。だから、今しばらくは諦めた方がいい。それに、特に面白いものももうないだろう。多くの神が姿を消し、大神もそれぞれの治める世界の奥に引き籠っている今、その影響力は小さいからな」
ファンタジーな話が繰り広げられ、エイジは完全に食いついている。レイヴン的にもそのような反応は嬉しいのか、いつになく饒舌だった。
「じゃあ別の質問。堕天使って、どうすると堕ちるんだ?」
「天界を統べる神々への叛逆や、魔族と関わりを持つこと。それから罪を犯す、すなわち罪悪感を抱くことだ」
「ふーん……ところで、魂って何?」
すると、今までスラスラ答えていた彼の口が止まった。そして、彼はノクトの方をチラリと見る。
「んー、エネルギーを持つ情報体、って感じ? えーっと、どう説明しようかな」
「……いや、なんとなくわかった。エネルギー、すなわち魔力とは電力であり、情報とはメモリー量か。内部電源を持ったメモリーってとこかね。そこにプログラムが組み込まれているなら、死霊などが意思を持っているのも頷ける」
「言ってることわけわかんないけど……まあ、分かってることだけ教えるよ。魔力量が多いほど、もしくは情報量が多いほど、魂ってのは強いっていうか、格が高い。情報量ってのは、生前の記憶とか感情だよ。そういった強い魂はなかなか磨耗しにくいから、自他問わず死体に取り憑いてアンデッドになったり、自我や記憶を保ったまま新しい命に転生したり、生前のうちに魔術で保護されたりしていると魂のまま留まり続けたりする」
「転生っていうのは?」
「死神から引き継いだ記憶なんだけど、冥界もしくは天界の最果てでは、魂が集まるところがあるんだって。そこに行き着くと坩堝に溶け込んで、個が消滅する。そこのエネルギーから魂が再び生み出されて新たに宿るとかなんとか。そこまで行けなければ溶け消えちゃうね」
「それとは別に、神ほどともなれば、自らの魔力で体を再構成し再臨することも可能だぞ」
そこにベリアルが口を挟む。彼も話したくなっているのだろうということを察したレイヴンは、話を切り上げにかかる。
「最後に、俺の歳はざっと百五十だ。そのうち六十年近くはベリアルと連れ添っている。これが、おおよその俺の生い立ち。あんま面白みは無かったろうが」
「では、次は私だな」
気づけば誰より飲んでいたレイヴンが、ただ淡々と話し終えると、今度はベリアルが話し出す。
「ノクトに一部バラされてしまったからな、もう話してしまおう。私はベリアル・ゴエティア。およそ260歳である。魔界の魔族を統治する魔王が一柱」
「自己紹介みたいですね、今更の」
あ、やってしまった……と思うも既に遅い。ベリアルが気まずくなってしまっているではないか。
「……げふん、続けるぞ。本来魔王とはこのように魔界のみのものであり、この人間界には存在しないのである。さて問題だ。魔王は何柱いると思うか」
「72」
「なぜ分かる⁉︎」
ピアリと当たったようだ、ベリアルは驚く。だがエイジには、思い当たるものがあった。
「私の元いた世界にも、72柱の悪魔という伝承がありましてね。といっても、実在するわけではないのですが」
「なるほど、そいつは興味深い」
顎に手を当て、目を光らせ聴く姿勢に入る。
「でも、今は魔王様の話すターンですよ」
「ふむ、それもそうか。であれば、魔界や神話についてであれば、お前も楽しめるか」
「いいえ。私はベリアルの生い立ち……そう、魔界での暮らしから、どうして国を興そうとしたのか、そしてそれはどのような歩みだったか、というのをを聴きたい。そのような話は確かに興味深いけど、この世界における神様の影響力ってもう小さいんでしょう? あとで神話の書籍があれば読んでみたいけど、今は後回しで」
「ほう、そうか! よしよし、ではそれは、およそ240年前のことだ……」
そんなこんなで、夜は更けていくのだった。
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