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Ⅲ 帝魔戦争
小外伝 前編 拠点制圧戦 ②
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翌日、残り七日。夜中のうちに、このくらいの規模には幾らの兵力、という基準を大まかに定めた。また侵攻の経験から、どのくらいの距離からどれ程の速度で接近するのが良いかと考え、感覚を掴んだベリアル。そんな彼により指揮が執られた進撃は、大きな戦果を挙げた。村人は皆早々に逃げ、接敵することはほぼなく。準備を整える時間も絶妙に与えなかったことで、使えそうな物もいくらか残っていた。その調子で、大きな失敗もなく、この日だけで三つの村も制圧した。これで折り返しだ。
そして次の日。更に慣れたことで勢いづいたベリアル軍は、別行動を行い、なんと四つもの村々を占領することが可能となっていた。攻める集落の規模は大きくなっていっているにも拘らず、だ。残すは僅かとなった。
ここで、残り五日となった。宰相曰く、翌日からは漸次物資や兵士を輸送し始めるとのこと。そうでないと間に合わないという。一応、大半を受け入れられる程には制圧し終えたが、まだ全てではない。ベリアルはこの日で、この任務にケリをつけるつもりだ。
制圧していない村は、残り二つだ。そのうちの小さい方(といっても最初の方に陥した村の倍近い規模だ)の集落に向かったが__
「待て! 全軍進行やめ! ……様子がおかしい」
ベリアルは静止をかけると、自分運搬専用の御輿風馬車の上で立ち上がり、魔王アイ望遠モードで様子を窺う。そして何かに気づき、再び腰を下ろす。
「全軍、全速前進だ」
指揮の下、全力行軍したベリアル軍は目的地に辿り着き、兵士たちは様子を見るが__
「……誰もいない」
誰かが漏らす。そうだ、この村には既に人の影はなかった。しかも、物資も持てる限り持って行ったようで、めぼしいものはもう無い。
「恐らくであるが、既にこの村は他の集落が我々の襲撃に遭っていることを聞き、先んじて避難したのだろう。多分、いや間違いなく、最後に残った大きな集落にな。……では皆の者、一度引き返し態勢を整えるぞ。最後の戦いは、今までとは比べ物にならないほど激しくなるだろうからな」
最後に制圧する村は、他の村と比べても人口が四倍、広さも五倍以上は軽くある。さらに他の村から逃げてきた村人達が避難している可能性もある、というよりほぼ確定。斥候の報告より、規模に対して明らかに人が多いのだ。
対して魔王側は、拠点の維持に既に半分の人手を割いている。つまり敵の戦力は増え、こちらの戦力は減っている。真っ向から戦えば瞬殺なのは変わりないが、人が増えた分抵抗が激しくなる恐れがある。そうすると敵側の死者が多く出るうえ、村を破壊し、使えなくなってしまうかもしれない。
帝都に一番近く、最も豊かな村だからこそ、出来る限り損害を最小限にしたい。かといって自らが出向くと、帝国に最大の警戒をさせることになる。
まあ考えすぎても仕方ないとして、軍を整え出立するのだった。
最後の村、その姿がはっきりと見えるほど接近し、様子を伺う。するとどうやら、村中が警戒、いや、それを超え恐慌状態になっているようだ。全ての人が慌ただしく動き、村の前にバリケードが建設されており、兵士達(とも呼べないほど練度が低い。自警団か)が集まって来た。これは下手につつくと無駄に時間がかかってしまう。
「こんな時、アイツがいれば……」
呟いてから気付いた。知らず知らずのうちに、だいぶ彼に依存してしまっているようだ。
「いや、この程度ならば自分でなんとかしなくてはな。この程度もできないのかと失望されたくはない」
__そういえば、随分長いこと戦いから離れていたものだ。戦闘はレイヴンやエリゴス、ゴグなどに任せ、内政は彼が来て本格的にやるようになるまでは、らしいこともしていなかったな。それこそ、魔王の姿が人々から忘れられているだろうほどに……__
「ん、待てよ?」
もしかしたら、我が姿形を人々は忘れているかもしれない。それどころか、名前すら出ていないかもしれない。であれば__
「皆の者! 我が先陣を切る! 続けぇ‼︎」
全速力で全軍突撃する。バリケード30mほど前で馬車から飛び降り、走る。そしてバリケードに到達し__
「フンヌッ!!」
得物の大剣を大振りの横薙ぎで叩きつけ、一撃で粉砕。タックルで残骸にトドメを刺し、村人達の前に躍り出る。呆気にとられている村人達を見下ろし、彼らの前で大剣をゆっくりと大上段に構えて__
「オオァッ!」
地面にただ全力で叩きつける。かなり力を込めたら、少し地響きがした。魔術を用いずこれ程全力で剣を振るうのは久方ぶり。そしてどうやらこの威嚇で、敵は完全に戦意を喪失したようだ。腰を抜かして後退り、立てた者から全力で逃げ出していく。
「全ての村人をこの村から追い出せ! 戦えない者達には、逃げる猶予を与えよ! 抵抗する者達は適当にあしらって戦意を削げ! 手を焼くならば捕縛せよ!」
こうして、ベリアルは呆気なく全ての村を制圧した。このことを知らせるための伝令を城に向かわせ、部下に手に入れた物資の整理と確認をさせる。見張りをする部隊の編成も忘れない。翌日から三日間ほどに渡って、城の戦力が数回に分けてこちらに向かってくるはずだ。それまで村を防衛することもまた、彼の任務だ。
そして次の日。更に慣れたことで勢いづいたベリアル軍は、別行動を行い、なんと四つもの村々を占領することが可能となっていた。攻める集落の規模は大きくなっていっているにも拘らず、だ。残すは僅かとなった。
ここで、残り五日となった。宰相曰く、翌日からは漸次物資や兵士を輸送し始めるとのこと。そうでないと間に合わないという。一応、大半を受け入れられる程には制圧し終えたが、まだ全てではない。ベリアルはこの日で、この任務にケリをつけるつもりだ。
制圧していない村は、残り二つだ。そのうちの小さい方(といっても最初の方に陥した村の倍近い規模だ)の集落に向かったが__
「待て! 全軍進行やめ! ……様子がおかしい」
ベリアルは静止をかけると、自分運搬専用の御輿風馬車の上で立ち上がり、魔王アイ望遠モードで様子を窺う。そして何かに気づき、再び腰を下ろす。
「全軍、全速前進だ」
指揮の下、全力行軍したベリアル軍は目的地に辿り着き、兵士たちは様子を見るが__
「……誰もいない」
誰かが漏らす。そうだ、この村には既に人の影はなかった。しかも、物資も持てる限り持って行ったようで、めぼしいものはもう無い。
「恐らくであるが、既にこの村は他の集落が我々の襲撃に遭っていることを聞き、先んじて避難したのだろう。多分、いや間違いなく、最後に残った大きな集落にな。……では皆の者、一度引き返し態勢を整えるぞ。最後の戦いは、今までとは比べ物にならないほど激しくなるだろうからな」
最後に制圧する村は、他の村と比べても人口が四倍、広さも五倍以上は軽くある。さらに他の村から逃げてきた村人達が避難している可能性もある、というよりほぼ確定。斥候の報告より、規模に対して明らかに人が多いのだ。
対して魔王側は、拠点の維持に既に半分の人手を割いている。つまり敵の戦力は増え、こちらの戦力は減っている。真っ向から戦えば瞬殺なのは変わりないが、人が増えた分抵抗が激しくなる恐れがある。そうすると敵側の死者が多く出るうえ、村を破壊し、使えなくなってしまうかもしれない。
帝都に一番近く、最も豊かな村だからこそ、出来る限り損害を最小限にしたい。かといって自らが出向くと、帝国に最大の警戒をさせることになる。
まあ考えすぎても仕方ないとして、軍を整え出立するのだった。
最後の村、その姿がはっきりと見えるほど接近し、様子を伺う。するとどうやら、村中が警戒、いや、それを超え恐慌状態になっているようだ。全ての人が慌ただしく動き、村の前にバリケードが建設されており、兵士達(とも呼べないほど練度が低い。自警団か)が集まって来た。これは下手につつくと無駄に時間がかかってしまう。
「こんな時、アイツがいれば……」
呟いてから気付いた。知らず知らずのうちに、だいぶ彼に依存してしまっているようだ。
「いや、この程度ならば自分でなんとかしなくてはな。この程度もできないのかと失望されたくはない」
__そういえば、随分長いこと戦いから離れていたものだ。戦闘はレイヴンやエリゴス、ゴグなどに任せ、内政は彼が来て本格的にやるようになるまでは、らしいこともしていなかったな。それこそ、魔王の姿が人々から忘れられているだろうほどに……__
「ん、待てよ?」
もしかしたら、我が姿形を人々は忘れているかもしれない。それどころか、名前すら出ていないかもしれない。であれば__
「皆の者! 我が先陣を切る! 続けぇ‼︎」
全速力で全軍突撃する。バリケード30mほど前で馬車から飛び降り、走る。そしてバリケードに到達し__
「フンヌッ!!」
得物の大剣を大振りの横薙ぎで叩きつけ、一撃で粉砕。タックルで残骸にトドメを刺し、村人達の前に躍り出る。呆気にとられている村人達を見下ろし、彼らの前で大剣をゆっくりと大上段に構えて__
「オオァッ!」
地面にただ全力で叩きつける。かなり力を込めたら、少し地響きがした。魔術を用いずこれ程全力で剣を振るうのは久方ぶり。そしてどうやらこの威嚇で、敵は完全に戦意を喪失したようだ。腰を抜かして後退り、立てた者から全力で逃げ出していく。
「全ての村人をこの村から追い出せ! 戦えない者達には、逃げる猶予を与えよ! 抵抗する者達は適当にあしらって戦意を削げ! 手を焼くならば捕縛せよ!」
こうして、ベリアルは呆気なく全ての村を制圧した。このことを知らせるための伝令を城に向かわせ、部下に手に入れた物資の整理と確認をさせる。見張りをする部隊の編成も忘れない。翌日から三日間ほどに渡って、城の戦力が数回に分けてこちらに向かってくるはずだ。それまで村を防衛することもまた、彼の任務だ。
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