魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅱ 魔王国の改革

11節 外交 〜妖精編 ③

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「報告です! ウッド、ダーク双方のエルフが会合への参加へ同意しました!」

 翌日の昼前、玉座で竜騎士が報告を行なっていた。

「おお、お前の予想通りか。流石だ」
「いえ、この会合では武力があり、消耗が少ない我々真王国が有利。故に、こちらが脅せば彼らは靡かざるを得ない。それに、会合に来るからといっても、協定を彼らが受け入れるとは限りません。結局は当日次第です。私の予想だと、少し荒れそうですが」

 資料を持ち込み報告しようとしていた宰相も、たまたま居合わせていた。

「ほう、お前がそう言うならそうなりそうだな。千里眼か?」
「いいえ、未来視は一切使っていません。ただの勘です。まあ、私の的中率は三割だから期待しないで欲しいですけど」

「意外と低いな⁉︎ だがまあ、そんなことはいい。では、遣いを出して彼らに日時と場所について伝えよう。竜騎兵!」
「はっ。行って参ります」

 一礼すると、騎士達は退室した。

「会合の日時と場所、私聞かされてないんですけど?」
「ああ、そうだった。エルフ達との会合は、彼らの国境付近のある森の中に机や椅子等を持ちこみ、屋外で行う。時間はちょうど正午だ。話し合うのは各国の王と、大臣か宰相、そして軍団長だ。あとは護衛だな。こちらからは私とお前、レイヴンが話し合いに参加する。護衛にはエリゴスとエレンを周辺で待機させる」

「私達に護衛なんて必要ですか?」
「正直要らないが、敵に変な気を起こされても困るからな。牽制のために連れていく。それと、お前の助言を参考に条約の内容をやや変更した。一応目を通しておけ、気になる箇所があれば指摘が欲しい。明日の十五時ごろに三人で集まって最後の詰めをするから、それまでに頼む」
「承知いたしました」

 資料を受け取ると、エイジも退室する。その直後、彼の両側に秘書が侍った。結局、秘書二人はエイジが城にいる時は同時に働くということで決まっていた。

「エイジ様、頼まれた通り、人員を招集しておきましたわ」
「また、観測所の人員への応援の依頼も完了しました。……しかし、なぜこのようなことを?」

 宰相は資料に目を通しながら、秘書二人の報告に相槌を打つ。そして、二人にある紙面を見せる。

「今から、そのメンツを連れてここに行く」
「これは__」
「妖精国との会談場所ですね」
「距離はそれなりだな。速めの移動でも、二時間弱かかるか」

 エイジは何故向かうという理由を、すぐには話してくれない。全てを知る自らの中で組み立てられた順序に従って述べ、相手にその情報から結論を予測させる話し方をするためだ。まるで論文を読み上げているかのよう。 

 普通の者なら苛立ちそうだが、慣れている秘書二人はそうならない。頭が切れるため必要性を理解していて思考も苦痛でないし、最後には結論・総論を話してくれるということも知っているから。そうでなくても、話させてからもう一度訊けばいい。そうすれば、今度は簡潔に教えてくれる。

「ここで何をいたしますの?」
「オレの予想だが。妖精達は複雑な社会構造を持っている。また、泥沼の戦争を続けている。よって、こういった合議における駆け引きなんかも上手いだろう。つまり、一波乱……いや、かなり荒れる気がする」

「……ということは、監視をするのですね」
「あ、工作される可能性があると?」
「その通りだ。首脳陣が一同に会するとなれば、抹殺には好都合。エルフらも高位の存在とはいえ、オレ達と正面切ってやり合えば、タダでは済まないどころか返り討ちだろう。よって__」

「事故を装って暗殺、ですわね」
「またしてもテロ、ですか……確かに、予防は重要ですね」

 彼の言いたいこと、つまり思考にすぐ追いついてしまう秘書との会話は、楽しく楽であり、また他者の視点は興味深く、聡明ぶりが恐ろしくもある。

「そういうことだ。不審な点は、オレが千里眼と、もう一つの能力、そしてその他諸々組み合わせて見つける。君たちにはその対処にあたる部隊の指揮を頼みたい」
「「承知いたしました」」

 そんな打ち合わせを済ませた三人は、執務室に戻る。そして各々重要な仕事を済ませ、部下達に方針の提示や仕事の指示を下すと、会合場所の下見へと向かっていった。
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