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Ⅱ 魔王国の改革
11節 外交 〜妖精編 ②
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「ただいま戻りました~。ウッドとダークの双方に予告しときましたよっと」
「おお、ご苦労だったな」
エイジは帰城し、玉座の魔王に報告した。あの後、同様にダークエルフにも会合について通告しておいたようである。
「草案を読んだが、甘すぎないか?」
「いえ、これでいいと思います。この同盟では我々が上位に立つ必要性は低いですし、今の彼らは戦争で疲弊していますから、それほどの脅威とはなり得ないでしょうし。不平等でなければ、彼らの躊躇いも少なくなりましょう。さすれば、会合を優位に進めることができます」
「なるほどな……」
「ですが、この案にご不満があるようでしたら、明日のうちに幾らか変えていただいても構いません。魔王様は仰ったはずです、エルフたちとの会議は重要で、自ら話し合いの場に出ると。ですから、今回の会合では中心は私ではなく魔王様です。陛下の望むがままに」
「ふむ、助言感謝する。では、それを踏まえて考え直してみるとしよう。ところで、明日の遣いはどうするんだ。また、お前が行くのか?」
「いえ、明日は休ませてもらいます。考えたいこともできましたし。そんなわけで遣いには、エレンさんと護衛の竜騎士達に任せようかと。既に彼らに話はつけていますから。それに彼等ならば迎えられた先で襲われても対応できるでしょう」
「ふむ、了解した。では、お前は会合の日に向けて休め。会議については私に任せるが良い」
「はい、失礼します」
報告と相談を済ませ、エイジは退室する。向かった先は食堂だ。遣いという一仕事を終えたのだから、一服しようと思ってのこと。
さて、エイジは自分で紅茶を淹れ、嗜んだ。その味が思ったより自分の好みではなかったから、秘書の淹れ方は上手いのだなと感心。していると、声が掛けられる。
「やあ、相席よろしいかい?」
「ノクト? 構わないが……珍しいな、お前がここに来るのは」
更に珍しいことに、その手にはティーカップがあった。
「結構悩んでいるみたいだね?」
「まあ、な。エルフらは、案外高度な文明と政治形態を持っている。一筋縄、獣人の時のようにはいかないだろうよ」
それだけではない、エイジにはまだ不安なことがある。
「ところで君、妖精たちについて詳しかったっけ?」
「……まったく、一々的確だな」
実際、エルフ二種族が争っているくらいしか知らない。一応レポートには目を通したが、種族単体ではなくコミュニティ全体の特性を大まかに把握しただけだ。
「おさらい込みで、基礎から解説頼む」
その頼みを彼はニッコリ顔で快諾する。ノクトの知識量はこの国でも随一。ベリアルやモルガンだけでなく、フォラスやメディアまでもが一目置いていると言えば、その凄さがわかるというもの。
「まず、エルフには主に三種族がいる。まあ、ホントはもっと細かくいるけど、少数だし今回関わりないから割愛するよ。悠長に話していると時間になっちゃうからね」
ノクトが真面目な顔つきになり、授業を始める。
「まずはウッドエルフ。自然を愛する彼らは、筋肉質で引き締まった体つきと明るめの肌が特徴だ。当然、身体能力は高いよ。魔族にも全く引けを取らないほどさ。そして次がダークエルフだ。彼らの特徴は浅黒い肌で、妖精の中でも比較的人工物を好む傾向がある。加えて暗所を好み、魔力が高い。この辺りはどことなく魔族に似てるよね」
エイジは相槌を打ちながら紅茶を飲む。早めに飲まないと冷めてしまって、味も落ちる。
「そして……ハイエルフだ」
「そいつだ、聞いたことがない」
「ハイエルフは、エルフの中でも上位種、精霊の王とでも呼ぶべき存在だ。色白の肌、恵まれた体格、豊かな魔力、高い知能と妖精を束ねるカリスマ性がある。なかなか名前が出てこない理由だけど、彼らはあまり戦争に肩入れしてないんだよね。自分たちの方が上だと分かり切っているからか、超然としていて、そういう諍いには関わらないことが多い。でもまあ、一部はそれぞれ肩入れしたい種族に与しているから、一応予備知識として、さ」
ノクトの話が一段落したところでカップを置くエイジ。お代わりしたかったが、前みたく飲み過ぎで仕事中に尿意に襲われるとか嫌なのでセーブする。
「そうか。で、戦争の理由は種の優劣を決めるためだっけか」
「そうだよ。でも多分建前で、お互い気に食わないところがあったから争いになったとかじゃないかな。何にしても、まったく不毛だよね」
ノクトも紅茶を口に運ぶ。湯気が濛々と出ていて熱そうだが、何食わぬ顔で飲んでいる。エイジは羨ましくて堪らなかった。
「そういやさ、たまに出てくる妖精ってのはなんだ?」
その発言にノクトは少し驚いた様子を見せる。
「あれ? 知らなかった?」
少し顔が熱くなるエイジ。己の無知を恥じた。
「すまん、全然……」
「そう言えば、話した覚えないねえ」
「オレの、勉強不足だ」
「いやいや大丈夫。確かに君は多忙だし、他にも色々覚えなきゃいけないこと多いでしょ?」
失望の様子など微塵も見せず、フォローして励ますノクト。その優しさがありがたかったが、少々疑いを持った。無害なのはなんとなくわかってきたが、なんとも胡散臭くて信じきれない。当の本人はというとエイジが戸惑ってるのを見て楽しんでいるだけであるが。
「妖精とは、魔族と似て非なる者たちだ。魔力を持ち、この世界に普遍的に存在していて、全体的にに小柄だけど、種類ごとに体格や能力などもバラバラ。魔族と違うのは……妖精達は純粋なんだよ、良くも悪くもね」
「純粋、ねえ。エルフは優劣のために争っているのにか?」
「エルフは、まぁ、妖精の中でもこちら寄りだよ。上位の者ほど人間くさいし。あとは、魔族よりも一芸特化というか、何かを司る存在、って感じが強いかな。火の妖精、植物の守り神、鍛治が得意な種族みたいに」
「……結局、妖精と魔族の線引きはなんだろうな」
「う~ん……神、人に仇なすかどうか、じゃないかな。あとは、人間に近いけど人間じゃないのが魔族で、似つかないけど人型なのが妖精? この辺り、あやふやなんだよ。結局フィーリングなのかもね」
ノクトはあっけらかんと笑っていた。
「妖精。今回の件にあまり関わらないようであれば、あまり知る必要もないだろうが__」
「ところがどっこい、思いっきり関わってくるよ。なにせエルフ達は妖精の中でも上位、他の妖精達を従えているからね」
「それってもうエルフだけの戦争じゃねえだろ……まあいい。遅れない範囲で解説頼む」
「合点承知。まかせてよ」
ノクトもお茶を飲み干すと、やや前のめりになって続きを話す。
「エルフは妖精の中でも上位、精霊に匹敵しうる種族だからね、下級の妖精も巻き込んで戦争しているんだ」
「へえ、彼らからしてみれば、この戦争はいい迷惑だろうけど」
「そうでもあるし、そうでもないよ。というのも、この戦争に乗り気の者も多いからね。下級の妖精にとっては、ただ面白そうにしか映ってないのだろうけど。その下級の妖精達も、どちらの陣営につくかで種族ごとに割れていて、意外と規模の大きい戦争のようだよ」
「そうか……で、精霊ってのはなんだ?」
「精霊は妖精の中でも強大な力を持った個体のことで、ちょっとした自然現象くらいなら引き起こせてしまう程なんだ」
「妖精版の幻獣、みたいなものか」
「大体その認識で合ってるよ。じゃあ、主要な妖精の特徴と種族名言っていくから、頑張って覚えてねぇ」
「ざっと、何種類だ」
「二十以上。少数種族も含めれば、判明してるだけでも三倍以上さ」
「………うへぇ」
厭そうな顔のエイジを見て、ノクトがおもしろそうにケラケラ笑う。
「まずは四大精霊から。火の精たるサラマンダー、水のウンディーネ。風のシルフに土のノーム。それから、守護者たるスプリガン、鍛治が得意なドヴェルグだとか……ああ、そういえばエイジくんの世界では想像上の存在と、こっちの魔族って一部同じなんだっけ」
あ、その名前知ってる。といった感じの、エイジの細かな表情変化を彼は読み取れたようだ。
「ああ。だが、細部が異なる可能性があるからな、一応細かく聞いておくよ」
「わかった。じゃあ、ちょっと深く掘り下げていこう」
そして案外細かい話で時間を取られ、気づけば日も暮れかかり、事務作業の方はあんまり進まなかった。
「おお、ご苦労だったな」
エイジは帰城し、玉座の魔王に報告した。あの後、同様にダークエルフにも会合について通告しておいたようである。
「草案を読んだが、甘すぎないか?」
「いえ、これでいいと思います。この同盟では我々が上位に立つ必要性は低いですし、今の彼らは戦争で疲弊していますから、それほどの脅威とはなり得ないでしょうし。不平等でなければ、彼らの躊躇いも少なくなりましょう。さすれば、会合を優位に進めることができます」
「なるほどな……」
「ですが、この案にご不満があるようでしたら、明日のうちに幾らか変えていただいても構いません。魔王様は仰ったはずです、エルフたちとの会議は重要で、自ら話し合いの場に出ると。ですから、今回の会合では中心は私ではなく魔王様です。陛下の望むがままに」
「ふむ、助言感謝する。では、それを踏まえて考え直してみるとしよう。ところで、明日の遣いはどうするんだ。また、お前が行くのか?」
「いえ、明日は休ませてもらいます。考えたいこともできましたし。そんなわけで遣いには、エレンさんと護衛の竜騎士達に任せようかと。既に彼らに話はつけていますから。それに彼等ならば迎えられた先で襲われても対応できるでしょう」
「ふむ、了解した。では、お前は会合の日に向けて休め。会議については私に任せるが良い」
「はい、失礼します」
報告と相談を済ませ、エイジは退室する。向かった先は食堂だ。遣いという一仕事を終えたのだから、一服しようと思ってのこと。
さて、エイジは自分で紅茶を淹れ、嗜んだ。その味が思ったより自分の好みではなかったから、秘書の淹れ方は上手いのだなと感心。していると、声が掛けられる。
「やあ、相席よろしいかい?」
「ノクト? 構わないが……珍しいな、お前がここに来るのは」
更に珍しいことに、その手にはティーカップがあった。
「結構悩んでいるみたいだね?」
「まあ、な。エルフらは、案外高度な文明と政治形態を持っている。一筋縄、獣人の時のようにはいかないだろうよ」
それだけではない、エイジにはまだ不安なことがある。
「ところで君、妖精たちについて詳しかったっけ?」
「……まったく、一々的確だな」
実際、エルフ二種族が争っているくらいしか知らない。一応レポートには目を通したが、種族単体ではなくコミュニティ全体の特性を大まかに把握しただけだ。
「おさらい込みで、基礎から解説頼む」
その頼みを彼はニッコリ顔で快諾する。ノクトの知識量はこの国でも随一。ベリアルやモルガンだけでなく、フォラスやメディアまでもが一目置いていると言えば、その凄さがわかるというもの。
「まず、エルフには主に三種族がいる。まあ、ホントはもっと細かくいるけど、少数だし今回関わりないから割愛するよ。悠長に話していると時間になっちゃうからね」
ノクトが真面目な顔つきになり、授業を始める。
「まずはウッドエルフ。自然を愛する彼らは、筋肉質で引き締まった体つきと明るめの肌が特徴だ。当然、身体能力は高いよ。魔族にも全く引けを取らないほどさ。そして次がダークエルフだ。彼らの特徴は浅黒い肌で、妖精の中でも比較的人工物を好む傾向がある。加えて暗所を好み、魔力が高い。この辺りはどことなく魔族に似てるよね」
エイジは相槌を打ちながら紅茶を飲む。早めに飲まないと冷めてしまって、味も落ちる。
「そして……ハイエルフだ」
「そいつだ、聞いたことがない」
「ハイエルフは、エルフの中でも上位種、精霊の王とでも呼ぶべき存在だ。色白の肌、恵まれた体格、豊かな魔力、高い知能と妖精を束ねるカリスマ性がある。なかなか名前が出てこない理由だけど、彼らはあまり戦争に肩入れしてないんだよね。自分たちの方が上だと分かり切っているからか、超然としていて、そういう諍いには関わらないことが多い。でもまあ、一部はそれぞれ肩入れしたい種族に与しているから、一応予備知識として、さ」
ノクトの話が一段落したところでカップを置くエイジ。お代わりしたかったが、前みたく飲み過ぎで仕事中に尿意に襲われるとか嫌なのでセーブする。
「そうか。で、戦争の理由は種の優劣を決めるためだっけか」
「そうだよ。でも多分建前で、お互い気に食わないところがあったから争いになったとかじゃないかな。何にしても、まったく不毛だよね」
ノクトも紅茶を口に運ぶ。湯気が濛々と出ていて熱そうだが、何食わぬ顔で飲んでいる。エイジは羨ましくて堪らなかった。
「そういやさ、たまに出てくる妖精ってのはなんだ?」
その発言にノクトは少し驚いた様子を見せる。
「あれ? 知らなかった?」
少し顔が熱くなるエイジ。己の無知を恥じた。
「すまん、全然……」
「そう言えば、話した覚えないねえ」
「オレの、勉強不足だ」
「いやいや大丈夫。確かに君は多忙だし、他にも色々覚えなきゃいけないこと多いでしょ?」
失望の様子など微塵も見せず、フォローして励ますノクト。その優しさがありがたかったが、少々疑いを持った。無害なのはなんとなくわかってきたが、なんとも胡散臭くて信じきれない。当の本人はというとエイジが戸惑ってるのを見て楽しんでいるだけであるが。
「妖精とは、魔族と似て非なる者たちだ。魔力を持ち、この世界に普遍的に存在していて、全体的にに小柄だけど、種類ごとに体格や能力などもバラバラ。魔族と違うのは……妖精達は純粋なんだよ、良くも悪くもね」
「純粋、ねえ。エルフは優劣のために争っているのにか?」
「エルフは、まぁ、妖精の中でもこちら寄りだよ。上位の者ほど人間くさいし。あとは、魔族よりも一芸特化というか、何かを司る存在、って感じが強いかな。火の妖精、植物の守り神、鍛治が得意な種族みたいに」
「……結局、妖精と魔族の線引きはなんだろうな」
「う~ん……神、人に仇なすかどうか、じゃないかな。あとは、人間に近いけど人間じゃないのが魔族で、似つかないけど人型なのが妖精? この辺り、あやふやなんだよ。結局フィーリングなのかもね」
ノクトはあっけらかんと笑っていた。
「妖精。今回の件にあまり関わらないようであれば、あまり知る必要もないだろうが__」
「ところがどっこい、思いっきり関わってくるよ。なにせエルフ達は妖精の中でも上位、他の妖精達を従えているからね」
「それってもうエルフだけの戦争じゃねえだろ……まあいい。遅れない範囲で解説頼む」
「合点承知。まかせてよ」
ノクトもお茶を飲み干すと、やや前のめりになって続きを話す。
「エルフは妖精の中でも上位、精霊に匹敵しうる種族だからね、下級の妖精も巻き込んで戦争しているんだ」
「へえ、彼らからしてみれば、この戦争はいい迷惑だろうけど」
「そうでもあるし、そうでもないよ。というのも、この戦争に乗り気の者も多いからね。下級の妖精にとっては、ただ面白そうにしか映ってないのだろうけど。その下級の妖精達も、どちらの陣営につくかで種族ごとに割れていて、意外と規模の大きい戦争のようだよ」
「そうか……で、精霊ってのはなんだ?」
「精霊は妖精の中でも強大な力を持った個体のことで、ちょっとした自然現象くらいなら引き起こせてしまう程なんだ」
「妖精版の幻獣、みたいなものか」
「大体その認識で合ってるよ。じゃあ、主要な妖精の特徴と種族名言っていくから、頑張って覚えてねぇ」
「ざっと、何種類だ」
「二十以上。少数種族も含めれば、判明してるだけでも三倍以上さ」
「………うへぇ」
厭そうな顔のエイジを見て、ノクトがおもしろそうにケラケラ笑う。
「まずは四大精霊から。火の精たるサラマンダー、水のウンディーネ。風のシルフに土のノーム。それから、守護者たるスプリガン、鍛治が得意なドヴェルグだとか……ああ、そういえばエイジくんの世界では想像上の存在と、こっちの魔族って一部同じなんだっけ」
あ、その名前知ってる。といった感じの、エイジの細かな表情変化を彼は読み取れたようだ。
「ああ。だが、細部が異なる可能性があるからな、一応細かく聞いておくよ」
「わかった。じゃあ、ちょっと深く掘り下げていこう」
そして案外細かい話で時間を取られ、気づけば日も暮れかかり、事務作業の方はあんまり進まなかった。
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