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Ⅱ 魔王国の改革
10節 宰相の受難 ⑦
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エイジ達三人は地下一階、鍛錬場へやって来た。既に噂を聞きつけた野次馬等が、観客席すら作って待機していた。但し、幹部の姿はなかった。
「シルヴァ、ダッキ、君らは離れて待機していてくれ。本当に危なさそうだったら、助けてくれ。まあ、ないとは思うがな」
「「承知しました(わ)」」
二人が離れるとエイジは一人、中央に進む。すると、全方位を囲まれた。下級中級上級、種族もバラバラ。恐らく、実行犯ではないがこの機に乗じて憂さ晴らししたい輩もいるのだろう。彼らが集まった理由は唯一つ、宰相エイジへの不信感だ。
「もうおっ始めて構わんのだが、その前に一つ訊かせろ。なぜ、この一連の事件を引き起こした」
「いいぜぇ、教えてやるぅ! おれたちはてめぇが気に食わねえ! だからよ、それ全部テメエのせいにして追い出してやるんだ! いてっ!」
愚かにも全部しゃべったバカそうな下級魔族を、リーダー格が殴る。
「ほう……あとは、城の空気を険悪にしようってか……」
エイジが独り言を終えると同時に、魔族たちが襲いかかってきた!
「エイジ様の足を引っ張ることしか能のない、役立たずのクソ虫どもめ……!」
シルヴァが修羅の如き憤怒の形相で、普段決して使わないような汚い言葉で悪態を吐く。
「まあ、いつの世にも、天才や素晴らしい為政者の偉大さが分からない愚か者はいるものですわ」
ダッキも、怒るどころか呆れることすら通り越して、哀れみすらある目で反抗勢力を眺めていた。
「でも、それ以外は安心ですわね。少なくとも……アイツらがあの方に敵うはずありませんもの」
まずは様子見か、下級魔族たちが何も考えず飛びかかってくる。それに合わせ、エイジは目の前に武器を召喚する。それだけでいい。敵はそのまま武器群に突っ込んでいき、串刺しになった。無論急所は外したが。こんなんでも、一応労働力だ。人手不足の魔族を更に減らすのは大きな損失となりうる。
「全く、バカどもめ……悪いなノクト、世話かけるわ」
武器をしまうと、傷口から勢いよく血が噴き出す。返り血がかかったが、汚いとばかりに即座に魔術で血を洗う。
「く、くらえ!」
周囲の数名の上級を含む、中級魔族たちの魔術が突き刺さる。しかし__
「今、何かしたのか?」
髪についた煤を払いながら、悠々と土埃の中から歩み出す。お優しいことに、足元で転がっている下級達を魔術で守りながら。
「さて、ではこっちの番と行こうか」
リーダー格の視界からエイジが消える。その次の瞬間、腹部に衝撃が走った。
「ごえぇ…」
エイジのボディブローが突き刺さっていた。その威力に、堪らず血を吐く。そんなものなど浴びたくないとばかりに、エイジは結界で血を弾いた。
リーダー格はエイジの足元に崩れ落ちる。それを確認するとエイジも体勢を戻す。その時後ろから殴り掛かられる。が、その腕を、隠していた尻尾で絡め取る。
「便利だろう? 尻尾というものは」
そのまま下に引っ張って体勢を崩すと、頭に裏回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。その魔族が壁にぶち当たると小さく亀裂が走り、そのままズルズルと落ちていった。大型トラックに轢かれた以上の衝撃は軽くありそうだ。
「さ、次、かかってこい。おーい、そこの野次馬ども! オレに不満があるならどっからでもかかって来な!」
そのセリフを皮切りに、観客席から数十人の魔族がわっと立ち上がると、思い思いの武器を手に、若しくはその場からの魔術などでエイジに攻撃を開始した。
「ふん……連鎖魔術、トリオ!」
腕を一薙ぎ。同時に彼の周囲にランク3の魔術が次々と開き、客席からの魔術を完全に相殺していく。その魔術に気を取られているうちに、と近接主体の魔族が次々と押し寄せる。
「はああぁぁあ! ッ…なっ⁉︎」
先陣を切った魔族は突きを放つが、アロンダイトの一振りで得物が砕かれ戦意喪失。砕けた武器を眺め呆けているうちに、魔術の流れ弾に当たって飛んでいった。
その後も魔術は絶えず飛んで来る。それを軽いステップで避け、撃てないだろうと魔族の密集しているところに突っ込みすり抜けて行く。が__
「チッ、アイツら遠慮がないな」
味方が巻き込まれるのも御構い無しに飛んで来る。それならと射程範囲外に行こうとすれば__
「ゲヘヘ……ヴァカめ」
魔族に囲まれていた。
「ふっ、分かってないな」
「あ?」
「ヴァカはお前だ。オレの能力はな……」
そこで一拍おく、と彼の周囲に大量の武器が現れる。
「一対多戦向きなんだよ‼︎」
剣を一つ取り、とりあえず目の前の敵を斬る。そうするとその剣は放り、別の武器を取って反対方向へ無造作に投げつける。そして、また別の武器を取って手当たり次第に敵を突き、取っては投げ、刺し、投げ、打ち、斬り、殴って……囲んでいた魔族はエイジの独特な動きと、入り組んだ配置に召喚された武器によって身動きすらまともに取れないまま、為す術なく無抵抗に切り捨てられていく。
「カルテット!」
囲いから脱出した彼は、ランク4の魔術を一斉展開、術師を撃滅。
「追撃、行けよ!」
残りの魔族の塊に武器が飛んでいく。しかし、刺さるものが多いが、狙いが悪くすり抜けていくものもある。だが__
「さあ! 踊り狂え!」
エイジが指揮をするようにその腕を振るうと、すり抜けた武器群は突如その軌道を変え、変態的な動きを見せる。鋭角に曲がり、転回し、球を作るかのように動いて切り刻んでいく。血飛沫が舞い、避けようとしても斬られ、その衝撃で跳ね飛ばされていく様は、刃の軌跡も相まって、まるで舞踏のようであった。
「ま、予想通りですわね」
ぼーっと、魔族たちがボコボコにされていくのを眺めながら、ダッキが零す。
「まったく、愚かな。誰よりストイックに努力し、強さに貪欲で、未知で慣れないモノを知ろうと勉学した……そんな彼に、まさか敵うわけないでしょう」
エイジがまた一人、また一人と魔族をギタギタにする度に、シルヴァの顔が晴れやかに、そして誇らしげになっていく。
「そうですわねぇ。貴女に何度も聞かされましたもの、彼の頑張り。それに……私との戦いでも何か掴んだようですしね?」
「私との、戦い? どういう、こと、ですか」
鬼気迫る表情で詰め寄るシルヴァ。ダッキ、ピンチである。
「ぎくぅ⁉︎ しまった! つい口が……い、いえいえ、なんでもありませんのことよ、おほほほ……」
「今回ばかりは、逃しませんよ」
「あ、あはは……観念しますう」
エイジが乱闘で魔族たちをズタズタにしているのを傍目に、ダッキは獣人の集落での出来事を話すことになったのだった。
「シルヴァ、ダッキ、君らは離れて待機していてくれ。本当に危なさそうだったら、助けてくれ。まあ、ないとは思うがな」
「「承知しました(わ)」」
二人が離れるとエイジは一人、中央に進む。すると、全方位を囲まれた。下級中級上級、種族もバラバラ。恐らく、実行犯ではないがこの機に乗じて憂さ晴らししたい輩もいるのだろう。彼らが集まった理由は唯一つ、宰相エイジへの不信感だ。
「もうおっ始めて構わんのだが、その前に一つ訊かせろ。なぜ、この一連の事件を引き起こした」
「いいぜぇ、教えてやるぅ! おれたちはてめぇが気に食わねえ! だからよ、それ全部テメエのせいにして追い出してやるんだ! いてっ!」
愚かにも全部しゃべったバカそうな下級魔族を、リーダー格が殴る。
「ほう……あとは、城の空気を険悪にしようってか……」
エイジが独り言を終えると同時に、魔族たちが襲いかかってきた!
「エイジ様の足を引っ張ることしか能のない、役立たずのクソ虫どもめ……!」
シルヴァが修羅の如き憤怒の形相で、普段決して使わないような汚い言葉で悪態を吐く。
「まあ、いつの世にも、天才や素晴らしい為政者の偉大さが分からない愚か者はいるものですわ」
ダッキも、怒るどころか呆れることすら通り越して、哀れみすらある目で反抗勢力を眺めていた。
「でも、それ以外は安心ですわね。少なくとも……アイツらがあの方に敵うはずありませんもの」
まずは様子見か、下級魔族たちが何も考えず飛びかかってくる。それに合わせ、エイジは目の前に武器を召喚する。それだけでいい。敵はそのまま武器群に突っ込んでいき、串刺しになった。無論急所は外したが。こんなんでも、一応労働力だ。人手不足の魔族を更に減らすのは大きな損失となりうる。
「全く、バカどもめ……悪いなノクト、世話かけるわ」
武器をしまうと、傷口から勢いよく血が噴き出す。返り血がかかったが、汚いとばかりに即座に魔術で血を洗う。
「く、くらえ!」
周囲の数名の上級を含む、中級魔族たちの魔術が突き刺さる。しかし__
「今、何かしたのか?」
髪についた煤を払いながら、悠々と土埃の中から歩み出す。お優しいことに、足元で転がっている下級達を魔術で守りながら。
「さて、ではこっちの番と行こうか」
リーダー格の視界からエイジが消える。その次の瞬間、腹部に衝撃が走った。
「ごえぇ…」
エイジのボディブローが突き刺さっていた。その威力に、堪らず血を吐く。そんなものなど浴びたくないとばかりに、エイジは結界で血を弾いた。
リーダー格はエイジの足元に崩れ落ちる。それを確認するとエイジも体勢を戻す。その時後ろから殴り掛かられる。が、その腕を、隠していた尻尾で絡め取る。
「便利だろう? 尻尾というものは」
そのまま下に引っ張って体勢を崩すと、頭に裏回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。その魔族が壁にぶち当たると小さく亀裂が走り、そのままズルズルと落ちていった。大型トラックに轢かれた以上の衝撃は軽くありそうだ。
「さ、次、かかってこい。おーい、そこの野次馬ども! オレに不満があるならどっからでもかかって来な!」
そのセリフを皮切りに、観客席から数十人の魔族がわっと立ち上がると、思い思いの武器を手に、若しくはその場からの魔術などでエイジに攻撃を開始した。
「ふん……連鎖魔術、トリオ!」
腕を一薙ぎ。同時に彼の周囲にランク3の魔術が次々と開き、客席からの魔術を完全に相殺していく。その魔術に気を取られているうちに、と近接主体の魔族が次々と押し寄せる。
「はああぁぁあ! ッ…なっ⁉︎」
先陣を切った魔族は突きを放つが、アロンダイトの一振りで得物が砕かれ戦意喪失。砕けた武器を眺め呆けているうちに、魔術の流れ弾に当たって飛んでいった。
その後も魔術は絶えず飛んで来る。それを軽いステップで避け、撃てないだろうと魔族の密集しているところに突っ込みすり抜けて行く。が__
「チッ、アイツら遠慮がないな」
味方が巻き込まれるのも御構い無しに飛んで来る。それならと射程範囲外に行こうとすれば__
「ゲヘヘ……ヴァカめ」
魔族に囲まれていた。
「ふっ、分かってないな」
「あ?」
「ヴァカはお前だ。オレの能力はな……」
そこで一拍おく、と彼の周囲に大量の武器が現れる。
「一対多戦向きなんだよ‼︎」
剣を一つ取り、とりあえず目の前の敵を斬る。そうするとその剣は放り、別の武器を取って反対方向へ無造作に投げつける。そして、また別の武器を取って手当たり次第に敵を突き、取っては投げ、刺し、投げ、打ち、斬り、殴って……囲んでいた魔族はエイジの独特な動きと、入り組んだ配置に召喚された武器によって身動きすらまともに取れないまま、為す術なく無抵抗に切り捨てられていく。
「カルテット!」
囲いから脱出した彼は、ランク4の魔術を一斉展開、術師を撃滅。
「追撃、行けよ!」
残りの魔族の塊に武器が飛んでいく。しかし、刺さるものが多いが、狙いが悪くすり抜けていくものもある。だが__
「さあ! 踊り狂え!」
エイジが指揮をするようにその腕を振るうと、すり抜けた武器群は突如その軌道を変え、変態的な動きを見せる。鋭角に曲がり、転回し、球を作るかのように動いて切り刻んでいく。血飛沫が舞い、避けようとしても斬られ、その衝撃で跳ね飛ばされていく様は、刃の軌跡も相まって、まるで舞踏のようであった。
「ま、予想通りですわね」
ぼーっと、魔族たちがボコボコにされていくのを眺めながら、ダッキが零す。
「まったく、愚かな。誰よりストイックに努力し、強さに貪欲で、未知で慣れないモノを知ろうと勉学した……そんな彼に、まさか敵うわけないでしょう」
エイジがまた一人、また一人と魔族をギタギタにする度に、シルヴァの顔が晴れやかに、そして誇らしげになっていく。
「そうですわねぇ。貴女に何度も聞かされましたもの、彼の頑張り。それに……私との戦いでも何か掴んだようですしね?」
「私との、戦い? どういう、こと、ですか」
鬼気迫る表情で詰め寄るシルヴァ。ダッキ、ピンチである。
「ぎくぅ⁉︎ しまった! つい口が……い、いえいえ、なんでもありませんのことよ、おほほほ……」
「今回ばかりは、逃しませんよ」
「あ、あはは……観念しますう」
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