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Ⅱ 魔王国の改革
9節 宰相のお仕事 其の二 ④
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舌を火傷しながらも、久しぶりに紅茶を楽しめてリラックスしたエイジ。気を入れ替え、仕事に再開しようとする。舌の火傷は軽微なものだから、ほっときゃ治るだろと回復魔術はかけなかった。
ところで、紅茶はトイレが近くなるので、彼は本来仕事の合間には大量に飲むことはないのだが、魔族の特性で排泄の必要性が大幅に減っているからと飲んでしまったのであった。
さて、休憩後。舌のヒリヒリに少しイラつきながらも、順調に職務をこなしていく宰相。しかし、その平和が長く続くことはなかった。
「エイジ宰相‼︎」
扉が蹴り開けられ、慌ただしく魔族が飛び込んできた。
「どうした! 緊急か⁉︎」
「はぁ、はぁ……その、書庫から、火の手が!」
「……はいぃ?」
しばし脳が理解を拒絶し固まっていた。しかし、それが意味するところをわかるや否や__
「ふざけてる‼︎ 今日は厄日だ!!!」
そう絶叫すると、やはり真っ先に部屋を飛び出していくのであった。
「……マジかぁ」
図書室の火事は、予想以上に酷い有様であった。多くの棚の所々が燃えていて、部屋全体に煙が充満し始めている。
「あ、宰相様だ!」
先程まで燃えている書架を呆然と見ていた下級らしき魔族、淫魔だろう、が救われたかのような目でエイジを見る。
「状況を簡潔に教えろ。具体的には何の棚が燃えている。どうしてこうなったかは後だ」
「えっと、ひどいのが魔導書の棚です! 次いで一般書籍の棚、そして報告書類です!」
「チッ……オイ、魔導書は水に強かったよな⁉︎」
「え……あっ、はい! 大丈夫なはずです」
「よし、じゃあ……いけ! 『monitor』‼︎」
詠唱が終わると彼の周りに大小様々な大きさ、しかし同一の魔術陣が展開され、放水が始まる。大きいものは本棚のワンブロックを丸ごと呑み込み、小さいものは局所的な出火をピンポイントで消火していく。
「あの、宰相! 私たちがお力になれることは何かありますか⁉︎」
「このフロアの窓を全て開け放つんだ! このままだと煙が充満して視界不良、最悪一酸化炭素中毒で命に関わる。急げよ!」
次に、エイジは報告書類が納められた書架に近づき、燃えていない箇所に手を触れ、というより叩きつけて陣を貼る。
「『hermetic shield(ハーメティック・シールド)』! はい次!」
ビッシィィ! という音と共に、本棚に密着するように結界が張られる。すると、結界に覆われた棚は鎮火した。そして火が消えたのを確認すると結界を解き、同じ工程を数度繰り返す。
「酸素がなければ、火は燃えない。狭い範囲なら密閉してしまえるが……次はそうはいかないか」
彼が見据えた先は、一般書籍の棚。魔王国の書庫と雖も、一般書籍がやはり一番多く、水で濡れればダメになるし、結界を綺麗に張るのは繊細な作業のため時間がかかる。更には先程火傷した舌がヒリヒリしてイラつき、集中が乱れる。
「チッ、後が大変だが仕方ねぇ! 『harsh freezing(ハーシュ・フリージング)』‼︎」
彼が再び魔術陣を展開する。そこからは氷の礫が吹きつけ、それらは着弾と同時にお互いくっついていき、遂には完全に書架を氷漬けにした。
「溶けて紙がダメになる前に砕くしかないか……はあ、めんどくさそ。ま、オレはやらなくてもいいだろうが」
「エイジ様!」
「おっ、シルヴァか」
少々遅れる形でシルヴァが到着した。午前のように、騒ぎの沈静化に対応してくれていたのであろう。
__こんな事件は今までなかったから失念していたが……防災マニュアルでも作っとかなきゃいけないかね__
「私は何をすればよろしいでしょうか」
「なら、本棚を氷漬けにしてくれ。できるか?」
「はい、得意分野です」
シルヴァは本棚に向き、手刀を作って構えると__
「はっ!」
居合のように振り抜く。するとその軌道上に何かが飛んでいき、本棚にぶつかると同時に氷が形成された。その氷は、彼女の魔力特性を強く反映しているのか、紫水晶アメジストを思わせる薄紫色。その氷塊は本棚を、エイジの魔術より分厚く、深く凍りつかせた。そして、その威力を目の当たりにしたエイジの表情も一瞬凍りついた。
恐らく、腕が振られた瞬間に放出されたのは過冷却水。魔力を過冷却水に変換して放ち、当たった衝撃で一気に凍ったのだろう。
「この通りです。私もお力添えいたします」
「お、おう。後で削る必要があるから、ほどほどにしといてくれよ?」
「はい。心得ました」
そしてその二人の活躍により、火は十分と掛からずに鎮火された。
ところで、紅茶はトイレが近くなるので、彼は本来仕事の合間には大量に飲むことはないのだが、魔族の特性で排泄の必要性が大幅に減っているからと飲んでしまったのであった。
さて、休憩後。舌のヒリヒリに少しイラつきながらも、順調に職務をこなしていく宰相。しかし、その平和が長く続くことはなかった。
「エイジ宰相‼︎」
扉が蹴り開けられ、慌ただしく魔族が飛び込んできた。
「どうした! 緊急か⁉︎」
「はぁ、はぁ……その、書庫から、火の手が!」
「……はいぃ?」
しばし脳が理解を拒絶し固まっていた。しかし、それが意味するところをわかるや否や__
「ふざけてる‼︎ 今日は厄日だ!!!」
そう絶叫すると、やはり真っ先に部屋を飛び出していくのであった。
「……マジかぁ」
図書室の火事は、予想以上に酷い有様であった。多くの棚の所々が燃えていて、部屋全体に煙が充満し始めている。
「あ、宰相様だ!」
先程まで燃えている書架を呆然と見ていた下級らしき魔族、淫魔だろう、が救われたかのような目でエイジを見る。
「状況を簡潔に教えろ。具体的には何の棚が燃えている。どうしてこうなったかは後だ」
「えっと、ひどいのが魔導書の棚です! 次いで一般書籍の棚、そして報告書類です!」
「チッ……オイ、魔導書は水に強かったよな⁉︎」
「え……あっ、はい! 大丈夫なはずです」
「よし、じゃあ……いけ! 『monitor』‼︎」
詠唱が終わると彼の周りに大小様々な大きさ、しかし同一の魔術陣が展開され、放水が始まる。大きいものは本棚のワンブロックを丸ごと呑み込み、小さいものは局所的な出火をピンポイントで消火していく。
「あの、宰相! 私たちがお力になれることは何かありますか⁉︎」
「このフロアの窓を全て開け放つんだ! このままだと煙が充満して視界不良、最悪一酸化炭素中毒で命に関わる。急げよ!」
次に、エイジは報告書類が納められた書架に近づき、燃えていない箇所に手を触れ、というより叩きつけて陣を貼る。
「『hermetic shield(ハーメティック・シールド)』! はい次!」
ビッシィィ! という音と共に、本棚に密着するように結界が張られる。すると、結界に覆われた棚は鎮火した。そして火が消えたのを確認すると結界を解き、同じ工程を数度繰り返す。
「酸素がなければ、火は燃えない。狭い範囲なら密閉してしまえるが……次はそうはいかないか」
彼が見据えた先は、一般書籍の棚。魔王国の書庫と雖も、一般書籍がやはり一番多く、水で濡れればダメになるし、結界を綺麗に張るのは繊細な作業のため時間がかかる。更には先程火傷した舌がヒリヒリしてイラつき、集中が乱れる。
「チッ、後が大変だが仕方ねぇ! 『harsh freezing(ハーシュ・フリージング)』‼︎」
彼が再び魔術陣を展開する。そこからは氷の礫が吹きつけ、それらは着弾と同時にお互いくっついていき、遂には完全に書架を氷漬けにした。
「溶けて紙がダメになる前に砕くしかないか……はあ、めんどくさそ。ま、オレはやらなくてもいいだろうが」
「エイジ様!」
「おっ、シルヴァか」
少々遅れる形でシルヴァが到着した。午前のように、騒ぎの沈静化に対応してくれていたのであろう。
__こんな事件は今までなかったから失念していたが……防災マニュアルでも作っとかなきゃいけないかね__
「私は何をすればよろしいでしょうか」
「なら、本棚を氷漬けにしてくれ。できるか?」
「はい、得意分野です」
シルヴァは本棚に向き、手刀を作って構えると__
「はっ!」
居合のように振り抜く。するとその軌道上に何かが飛んでいき、本棚にぶつかると同時に氷が形成された。その氷は、彼女の魔力特性を強く反映しているのか、紫水晶アメジストを思わせる薄紫色。その氷塊は本棚を、エイジの魔術より分厚く、深く凍りつかせた。そして、その威力を目の当たりにしたエイジの表情も一瞬凍りついた。
恐らく、腕が振られた瞬間に放出されたのは過冷却水。魔力を過冷却水に変換して放ち、当たった衝撃で一気に凍ったのだろう。
「この通りです。私もお力添えいたします」
「お、おう。後で削る必要があるから、ほどほどにしといてくれよ?」
「はい。心得ました」
そしてその二人の活躍により、火は十分と掛からずに鎮火された。
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