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Ⅱ 魔王国の改革
5節 エイジの肉体改造計画 ⑤
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その翌日も、彼は鍛錬場にいた。昨日の鍛錬や、昨夜もある程度解放しながら寝たおかげか、体の違和感はおおよそ消えていた。
そして今、彼は獣人の力を解放していた。これまでの経験で分かったことだが、尻尾など身体的な特徴は、同時に出した場合、オオカミよりネコの方が優勢であるようだ。かといって、前面に出ていないだけで狼としての性質、嗅覚や持久力の向上などは発動している。
今度は何をしようとしているのかといえば、昨日のうちに制御を物にしたので、各種族としての力を扱う訓練である。獣人の知覚力は、ノクトというイレギュラーはあったのもの、十分効果があることが把握できた。なので次は__
「尻尾、慣れないとな」
第五の手足、と昨日彼が言ったように、使いこなせるようになりたいということである。寝る時尻尾だけ生やしていたので、ある程度感覚には慣れたようだ。
エイジは剣を取り出す。そしてその剣の柄に尻尾を絡ませ、手を離す。
「うん、少し重く感じる。手よりは非力か。それに、繊細な動きには向かないな。そのまま叩いたりする方が良さそうだ」
数度素振りした後、そう結論づけると彼は剣を仕舞い、代わりに太い木の枝を取り出す。それを地面に置いたあと、それを尻尾で拾い上げて絡ませる。そして持ち上げたところで一気に力を入れて締め付け、折る。力加減の練習である。
「うん。手足とはまた違った使い方ができるのがいいな。締め付け、薙ぎ払い叩き付け……」
その後暫く尻尾を振り回して、満足したのかそれを封印。次に彼は幾つか武器を取り出しては暫し持ち、そして仕舞う。今何をしたのかというと、武器に魔力を流して強化したのである。そのうちの幾つかを再び持ち出し、振るう。素振りである。
一通り振り終わると、彼は全ての武器を収納。そして目を瞑り……目を開いた時、彼の周りには何本もの武器、そして魔術陣が浮かんでいた。右手を掲げ、振り下ろす。同時に武器は飛翔し、魔術が発動する。それらは彼の正面に着弾すると同時に爆ぜた。
「ふむ、こんなものか」
「励んでおられますね」
「ッ⁉︎」
声を掛けられ、驚いて振り返る。そこに立っていたのは__
「シルヴァ……なんで……いや、いつから?」
「あなた様が、この休暇をいかがお過ごしなのか確認したかったのですが、部屋にはおらず……。メイドに確認を取ったところ、この頃鍛錬場によく赴くと聞きましたので。見ていたのは、あなたが尻尾で素振りをしていたあたりです。あなた様も、やはりただの人間ではなかったのですね」
「結構見られていたんだな……残念ながらシルヴァ、オレは“元”ただの人間だ。一昨日手術をして、人間をやめたのさ」
「なっ⁉︎ そんなことが……」
その告白に、シルヴァは大いに驚く。彼女の驚く様子を想像できなかったエイジとしては、なんだか新鮮な気分だ。
「ああ。魔族の幻魔器を用いて、この身に性質を宿した。当然ながら結構な苦痛だったがね」
「あなたが与えた休暇というのは、この為だったのですね」
「いや、本命はこっちではない。部下たちに任せた件の方だ。とはいえ部下だけに色々やらせるわけにはいかんからね、オレもできる限りのことをしようと思ったわけさ。まあ、間が悪いオレにしては、それらを同時に進められる都合のいいタイミングではあったけど」
エイジはなんでもないことのように話す。
「この鍛錬というのは、その種族の力を使えるようになるため、ですか」
「ああ。あの程度の仕事じゃ然程疲れなんてないし、ついでに、ここのところ戦闘をしていないからな。腕が鈍らないように、だ。オレはまだまだ戦闘で言えば初心者、体に動きが染み付いているとは言えない」
やはりエイジは当然のように言うが、シルヴァは感嘆していた。
「お邪魔して申し訳ありませんでした。それでは、私はこれで。鍛錬、頑張ってください」
そう言って、シルヴァは去っていった。
その後もエイジはあることを思いつく昼時まで、素振りや魔術、技や動き方の確認を続けた。
そして今、彼は獣人の力を解放していた。これまでの経験で分かったことだが、尻尾など身体的な特徴は、同時に出した場合、オオカミよりネコの方が優勢であるようだ。かといって、前面に出ていないだけで狼としての性質、嗅覚や持久力の向上などは発動している。
今度は何をしようとしているのかといえば、昨日のうちに制御を物にしたので、各種族としての力を扱う訓練である。獣人の知覚力は、ノクトというイレギュラーはあったのもの、十分効果があることが把握できた。なので次は__
「尻尾、慣れないとな」
第五の手足、と昨日彼が言ったように、使いこなせるようになりたいということである。寝る時尻尾だけ生やしていたので、ある程度感覚には慣れたようだ。
エイジは剣を取り出す。そしてその剣の柄に尻尾を絡ませ、手を離す。
「うん、少し重く感じる。手よりは非力か。それに、繊細な動きには向かないな。そのまま叩いたりする方が良さそうだ」
数度素振りした後、そう結論づけると彼は剣を仕舞い、代わりに太い木の枝を取り出す。それを地面に置いたあと、それを尻尾で拾い上げて絡ませる。そして持ち上げたところで一気に力を入れて締め付け、折る。力加減の練習である。
「うん。手足とはまた違った使い方ができるのがいいな。締め付け、薙ぎ払い叩き付け……」
その後暫く尻尾を振り回して、満足したのかそれを封印。次に彼は幾つか武器を取り出しては暫し持ち、そして仕舞う。今何をしたのかというと、武器に魔力を流して強化したのである。そのうちの幾つかを再び持ち出し、振るう。素振りである。
一通り振り終わると、彼は全ての武器を収納。そして目を瞑り……目を開いた時、彼の周りには何本もの武器、そして魔術陣が浮かんでいた。右手を掲げ、振り下ろす。同時に武器は飛翔し、魔術が発動する。それらは彼の正面に着弾すると同時に爆ぜた。
「ふむ、こんなものか」
「励んでおられますね」
「ッ⁉︎」
声を掛けられ、驚いて振り返る。そこに立っていたのは__
「シルヴァ……なんで……いや、いつから?」
「あなた様が、この休暇をいかがお過ごしなのか確認したかったのですが、部屋にはおらず……。メイドに確認を取ったところ、この頃鍛錬場によく赴くと聞きましたので。見ていたのは、あなたが尻尾で素振りをしていたあたりです。あなた様も、やはりただの人間ではなかったのですね」
「結構見られていたんだな……残念ながらシルヴァ、オレは“元”ただの人間だ。一昨日手術をして、人間をやめたのさ」
「なっ⁉︎ そんなことが……」
その告白に、シルヴァは大いに驚く。彼女の驚く様子を想像できなかったエイジとしては、なんだか新鮮な気分だ。
「ああ。魔族の幻魔器を用いて、この身に性質を宿した。当然ながら結構な苦痛だったがね」
「あなたが与えた休暇というのは、この為だったのですね」
「いや、本命はこっちではない。部下たちに任せた件の方だ。とはいえ部下だけに色々やらせるわけにはいかんからね、オレもできる限りのことをしようと思ったわけさ。まあ、間が悪いオレにしては、それらを同時に進められる都合のいいタイミングではあったけど」
エイジはなんでもないことのように話す。
「この鍛錬というのは、その種族の力を使えるようになるため、ですか」
「ああ。あの程度の仕事じゃ然程疲れなんてないし、ついでに、ここのところ戦闘をしていないからな。腕が鈍らないように、だ。オレはまだまだ戦闘で言えば初心者、体に動きが染み付いているとは言えない」
やはりエイジは当然のように言うが、シルヴァは感嘆していた。
「お邪魔して申し訳ありませんでした。それでは、私はこれで。鍛錬、頑張ってください」
そう言って、シルヴァは去っていった。
その後もエイジはあることを思いつく昼時まで、素振りや魔術、技や動き方の確認を続けた。
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