魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅱ 魔王国の改革

プロローグ:宰相の初仕事

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 エイジが初陣より帰還し、宰相として認める儀式が終わってから数時間後、昼過ぎ頃。彼は魔王に連れられて、改めて城内を探索していた。正式に認められたことで、入ってよい場所が増えたこと。そして、本人がまだ把握できていない場所が多いからと、案内を希望したためだ。

 彼がこの城で暮らし始めて、早三週間強。しかし未だ、城の全容を把握しているとは言い難い。何故ならば……鍛錬や勉強を繰り返してばかりで、探索するための自由時間を設けなかったためだ。詳しく知っているのは精々、寝室フロアや修練場と玉座の間、円卓のある会議部屋と食堂くらいのものである。

 因みに、その知っている僅かな中でも、エイジにとっては不満点まみれである。

 例えば食堂。部屋はかなり広く高級ホテル並みであったが、ホテルらしいのは広さだけ。椅子もテーブルも造りが粗悪で、カトラリーも皿も品が良いとは到底言えない。加えて、料理も本当にマズい。彼が来てから味は幾分向上したものの、それでも到底美味しいとは言えない。そうなってしまった要因は幾つもあって、仕方ないと言えばそこまでなのだが。

 しかし、彼が最も不満なのは、トイレだ。これがもう酷いものなのである。城内にトイレは殆ど無く、あったとしても場所が限られ、水洗など以ての外。更には、極めて不潔である。潔癖予備軍な彼は、小は妥協したものの、大はわざわざ外の川まで行ってしたものだ。魔力のコントロール技術を異常に早く発達させたエイジは、早くも地脈からエネルギーを得ており、食事量が減ったため困らなくなってきたが、それでも気にはなる。


 さて、まず彼が案内されたのは四階。幹部達の寝室と仕事部屋だ。部屋に入りはしなかったが、場所を覚えた。幹部の部屋は、フォラスなどの一部の例外はあるが、四階に集中している。

 しかし、そこでエイジは疑問を覚えた。四階は最も部屋の内装が充実しているにも関わらず、空き部屋が幾つかあるのだ。彼は疑問をぶつけたが、対してベリアルは何故か言葉を濁すのだった。

 次に向かうは三階、そして二階。それほど極端ではないが、実は魔王城は金字塔のように上に行くほどフロア面積が狭くなるのだ。三階には上級魔族と使用人の寝室、図書室本部と研究所がある。そしてやはり、理由不明の空室がある。

 その次が、大きく飛んで地下二階、倉庫階である。武器庫と宝物庫、物資保管庫に食糧庫。倉庫のためか最も広いフロアだが、広さを持て余すようにスカスカで、整理も行き届いていない。エイジの亜空間収納庫の方が、入っている物は少ないとはいえ、よっぽど整頓されている。

 因みにそこで。自身の戦闘力拡充のため、とエイジはベリアルに提案をする。許可を取り、納められていた武器を拝借したのだが。百を超える本数を一気に持って行きやがった。これにはベリアルも、とても渋い顔をしていた。

 そして、最後に向かった先は__

「お前の書斎となる部屋だ」
「書斎ですか⁉︎ って事はオレの、宰相の仕事部屋ってことか……よっし、俄然やる気上がってきましたよ!」
「そうか、それはなにより。ではエイジよ、ここがお前の仕事部屋だ!」

 五階の、或る大きめの扉の前でベリアルは立ち止まる。そして__

「いざオープン!」

 促されたエイジは勢いよく扉を開く。だが__

「……ってあれ? 何も無いような……」

 開けて中を見るなり呆然とする。書斎と言われたが、本棚も机も何もない。カーペットさえ無ければ、照明さえなく、あろうことか床には埃が薄ら積もっていた。何の変哲もない、ちょっと大きめの空き部屋に過ぎなかった。

「うむ、見ての通りなんも無い‼︎」
「ええ~……」

 明らかに落胆してしまった様子のエイジ。みるみるうちに、やる気が消沈していく。

「ええ~、じゃない! 自分の思い通りに改造できるという意味ではいいだろう!」
「そりゃそうですけど……仕方ない、まずは食堂から机と椅子を借りよう。どうせ誰も使わないでしょ……」
「うむ。少しずつ整えていけばいいだろう」

 エイジは改めて見渡して、レイアウトを想像。顎を指で摩り、数度頷く。

「案内は、もう終わりだ。この城は、あまり施設が豊富というわけでもないからな。ではエイジよ、この執務室を整えるか?」
「……ですが、その前に。魔王様、オレはもう、宰相ってことでいいんですよね?」
「ああ、無論だ。先程剣を渡しただろう?」

 それならば、もう安心だ。今まで考えてきた改革案、それを遂に、大手を振って実行できる。

「じゃ、早速仕事したいんですけど」
「おお、やる気だな。やりたいことがあるならば申してみよ!」

__よし、ようやくできるぞ。ではまず、ずっと気になっていたことから__

「じゃあ…………トイレ!!!」
「………?」
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