魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
上 下
35 / 236
Ⅱ 魔王国の改革

プロローグ:宰相の初仕事

しおりを挟む
 エイジが初陣より帰還し、宰相として認める儀式が終わってから数時間後、昼過ぎ頃。彼は魔王に連れられて、改めて城内を探索していた。正式に認められたことで、入ってよい場所が増えたこと。そして、本人がまだ把握できていない場所が多いからと、案内を希望したためだ。

 彼がこの城で暮らし始めて、早三週間強。しかし未だ、城の全容を把握しているとは言い難い。何故ならば……鍛錬や勉強を繰り返してばかりで、探索するための自由時間を設けなかったためだ。詳しく知っているのは精々、寝室フロアや修練場と玉座の間、円卓のある会議部屋と食堂くらいのものである。

 因みに、その知っている僅かな中でも、エイジにとっては不満点まみれである。

 例えば食堂。部屋はかなり広く高級ホテル並みであったが、ホテルらしいのは広さだけ。椅子もテーブルも造りが粗悪で、カトラリーも皿も品が良いとは到底言えない。加えて、料理も本当にマズい。彼が来てから味は幾分向上したものの、それでも到底美味しいとは言えない。そうなってしまった要因は幾つもあって、仕方ないと言えばそこまでなのだが。

 しかし、彼が最も不満なのは、トイレだ。これがもう酷いものなのである。城内にトイレは殆ど無く、あったとしても場所が限られ、水洗など以ての外。更には、極めて不潔である。潔癖予備軍な彼は、小は妥協したものの、大はわざわざ外の川まで行ってしたものだ。魔力のコントロール技術を異常に早く発達させたエイジは、早くも地脈からエネルギーを得ており、食事量が減ったため困らなくなってきたが、それでも気にはなる。


 さて、まず彼が案内されたのは四階。幹部達の寝室と仕事部屋だ。部屋に入りはしなかったが、場所を覚えた。幹部の部屋は、フォラスなどの一部の例外はあるが、四階に集中している。

 しかし、そこでエイジは疑問を覚えた。四階は最も部屋の内装が充実しているにも関わらず、空き部屋が幾つかあるのだ。彼は疑問をぶつけたが、対してベリアルは何故か言葉を濁すのだった。

 次に向かうは三階、そして二階。それほど極端ではないが、実は魔王城は金字塔のように上に行くほどフロア面積が狭くなるのだ。三階には上級魔族と使用人の寝室、図書室本部と研究所がある。そしてやはり、理由不明の空室がある。

 その次が、大きく飛んで地下二階、倉庫階である。武器庫と宝物庫、物資保管庫に食糧庫。倉庫のためか最も広いフロアだが、広さを持て余すようにスカスカで、整理も行き届いていない。エイジの亜空間収納庫の方が、入っている物は少ないとはいえ、よっぽど整頓されている。

 因みにそこで。自身の戦闘力拡充のため、とエイジはベリアルに提案をする。許可を取り、納められていた武器を拝借したのだが。百を超える本数を一気に持って行きやがった。これにはベリアルも、とても渋い顔をしていた。

 そして、最後に向かった先は__

「お前の書斎となる部屋だ」
「書斎ですか⁉︎ って事はオレの、宰相の仕事部屋ってことか……よっし、俄然やる気上がってきましたよ!」
「そうか、それはなにより。ではエイジよ、ここがお前の仕事部屋だ!」

 五階の、或る大きめの扉の前でベリアルは立ち止まる。そして__

「いざオープン!」

 促されたエイジは勢いよく扉を開く。だが__

「……ってあれ? 何も無いような……」

 開けて中を見るなり呆然とする。書斎と言われたが、本棚も机も何もない。カーペットさえ無ければ、照明さえなく、あろうことか床には埃が薄ら積もっていた。何の変哲もない、ちょっと大きめの空き部屋に過ぎなかった。

「うむ、見ての通りなんも無い‼︎」
「ええ~……」

 明らかに落胆してしまった様子のエイジ。みるみるうちに、やる気が消沈していく。

「ええ~、じゃない! 自分の思い通りに改造できるという意味ではいいだろう!」
「そりゃそうですけど……仕方ない、まずは食堂から机と椅子を借りよう。どうせ誰も使わないでしょ……」
「うむ。少しずつ整えていけばいいだろう」

 エイジは改めて見渡して、レイアウトを想像。顎を指で摩り、数度頷く。

「案内は、もう終わりだ。この城は、あまり施設が豊富というわけでもないからな。ではエイジよ、この執務室を整えるか?」
「……ですが、その前に。魔王様、オレはもう、宰相ってことでいいんですよね?」
「ああ、無論だ。先程剣を渡しただろう?」

 それならば、もう安心だ。今まで考えてきた改革案、それを遂に、大手を振って実行できる。

「じゃ、早速仕事したいんですけど」
「おお、やる気だな。やりたいことがあるならば申してみよ!」

__よし、ようやくできるぞ。ではまず、ずっと気になっていたことから__

「じゃあ…………トイレ!!!」
「………?」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?

高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...