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I 宰相始動
4節 未来の宰相の鍛錬 ①
しおりを挟む明くる日のこと。夢も見ずに爆睡していた彼を、朝から目の前で待ち受けていたものとは__
「「「おはようございます、ご主人様!」」」
三人のメイドだった。
メイド達の風貌は、まず二人の顔立ちと体格が非常に似ていた。身長は160弱で体格は華奢。おそらく双子だろう。しかし、目と髪が違う。片方は水色の髪とキリッとした鋭い目つきでクールな印象をしているが、もう片方は薄い桃色の髪色にタレ目で、おっとりした気弱そうな雰囲気をしている。
そして、もう一人は170cmくらいの身長で、キツそうな目つきをしている。そして栗色の髪をドリル状に編み込んだような髪型で、明らかに只者じゃなかった。
「えっと、あんたら何者?」
「本日より貴方様のメイドを務めさせていただきます、副メイド長のハインリヒと申します。よろしくお願いいたします、ご主人様」
__副メイド長か。らしい佇まいだ。ていうかこの城に使用人なんていたんだな__
「ほらっ、貴方達も早く名乗りなさい!」
叱責されてビクッと震える双子。
「え、えっと、私は、ふぃ、フィリシアです‼︎」
「え、あ、え⁉︎」
なんとか応えるクールな方と、完全にテンパっているフワフワの娘。実は見た目ほどクールではないのかもしれない。後者に関しては印象通りだったけれど。
「フェルト!」
またも叱責されて、気の毒なほど怯えてしまったフェルト。ハインリヒが詰め寄り、追い詰めてしまう前にと、とっさに体が動く。
「落ち着いて、緊張しなくていいんだよ。うん、君の名前を教えてほしいな」
肩に触れて目を見つめ、できる限りの優しい口調で話しかけ、落ち着かせる。
「あっ、えっと、わっ、わたひは、フェルトでひゅ‼︎」
思いっきり噛んだ。小動物みたいでとても可愛いらしく、エイジは微笑ましくなってつい頭を撫でてしまう。実年齢は分からないし下手すれば年上かもだが、肉体や精神的には十七歳位だろう。
「も、申し訳ありません、ご主人様!」
「いや、気にしてないさ。それより君はどう見ても、二人に少し厳し過ぎだ。側から見ていてもかわいそうだよ。慣れてないようなんだから、追い詰めるようなことはしない方がいい」
「は、はい。以後気をつけます。その寛大な心に感謝を」
その後、彼女たちは部屋の掃除を始めた。エイジはそのまま部屋に残り、ベッドに座って眺める。メイドたちの仕事ぶりに興味があったのだ。しかし__
「……なってない……」
彼は別にプロではないとはいえ、大学生の後半くらいから数年ほど一人暮らしをしていた身、家事の一通りはできる。それに始めたての頃や、長い休暇が取れたときは凝っていたこともある。そんな彼からでも言わせてもらえば、なっていない。まさかの副メイド長すら、ちょっとやらかしている節があるようだ。多分、本人ですらそのことに気付いていないのでは?
そしてエイジは、その仕事ぶりに遂に堪えきれなくなり__
「ここは! こうやって! やるんだ!」
メイドに掃除の指導をしてしまった。ベッドにカーペット、窓や照明の掃除など自らやった。彼も、それはメイドの仕事を奪うことであり、よくないこととは分かっているが、質の向上のためには仕方ない。何より__
__オレは潔癖民族日本人だ。清潔さを追求する!__
こんな強い自民族中心主義さえ持っているのだから。
これから生活を共にする魔族の一人としては友好的に接するつもりだが、仕事は仕事、実力の世界だ。召使いという職の仕事が出来ていないのであれば、ちょっとくらい怒ってもいいだろう、というのが彼の持論。だが、怒るだけでは困惑させて終わりなので、どうすれば良いかという改善案までセットで伝える。
それでも、彼女達だけが悪いというわけではないようであるが。昨日城の中をざっと見た感じ、結構汚かったことから、この国には定期的に掃除して清潔を保つという衛生感覚が薄いのかもしれない。幹部などの高い地位の者が、権威を示すためにちょっと上品にしようとしている程度なのだろう。ヨーロッパですら、ナイチンゲールが衛生観念を変えるまでは不衛生だったのだ。況してや魔王国は。そうなると、彼女らだけでなく国全体の観念を変えていく必要があるとみた。
エイジが掃除している間、彼女たちは畏れ多い様子で、且つ真剣に聴いていた。どうやら、いつの間に、魔王城全体で彼の言葉に耳を傾けるべし、という風潮になっているらしい。昨日の幹部を交えた魔王様との会話の中で、知識を曝け出したことに起因しているだろうが。そして彼は、せめてオレ専属だけでも、と彼女達に幾らか掃除のアドバイスと、あると便利な道具の提案をした後、講義室へ向かった。アドバイスをしている時は、三人ともやり過ぎなくらいペコペコしていた。
__ちょっと強く言いすぎたか__
と、彼も反省していた。更には、熱が入ってしまった所為で、講義に少し遅刻してしまった。
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