ドラゴンの償い

ふら(鳥羽風来)

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火事になった朝は、あわただしかった。消防車が帰って行き、家族だけになった時、皆眠いから、まずは寝たいと思っていた。しかし、もう寝る場所はなかった。目の前は焼けかすになっている。
 みんなで過ごしたあの部屋や、お風呂や、三匹のぬいぐるみたちも、皆なくなってしまった。実感が湧かないが、たぶん間違いなくそうなのだ。少し落ち着いて、そんなことを思うようになった頃、玄関だったところに、何か落ちているのに、気が付いた。近寄って見てみると、ドラゴンのぬいぐるみだった。
「そうか、お前は生き残ってくれたのか。よかった」
 麻希は、そのぬいぐるみを両手で胸に抱き締めた。

 近くの親戚に事情を話し、とりあえず一晩だけ泊めてもらうことにした。学校には、もちろん休む連絡をして、親戚の家へ向かった。着いたら、まず眠らせて頂いた。
 結局、夕方まで寝ていた。夕飯は、親戚の家族と、麻希の家族の合同だった。
 親戚のおばさんが、父に言った。
「あんたたち、これからどうするの?」
「まずは、火災保険の会社に連絡して、手続きを済ませようと思っている。新しい家を建てられるくらいの保険金は出ると思う。その家が出来るまで、しばらくはアパート暮らしかなあ。麻希の学校もあるし、出来るだけ近くに借りようと思うよ。明日と明後日は仕事の休みをもらったから、その間に手続き進めるよ」
 麻希は、これを聞いてほっとした。また、住むおうちは、ちゃんと出来るんだ。

 翌日、麻希は学校に行った。火事のことを聞きたいクラスメートからの質問責めで、大人気の一日だった。しかし、学校にいる間、家では予期しなかったことが起きていたらしい。父が保険会社に電話すると、保険が先月で切れていたというのだ。再三に催促されていたことに気付かず、保険料を払いそびれていたらしい。悪いのはこちらなので、諦めるしかなかったようだ。つまり、新しい家を建てるお金が無いのだ。

 親戚の家にずっと居ることは出来ないから、麻希の家族は、アパートに住むことになった。今まで住んでいた家より、ずっと狭い。そして、父と母は、休みの日にも働きに行くようになった。家を買ったときのローンという借金を返さないといけないから、お金がいるのだそうだ。麻希は一人でいることが多くなり、父と母は時々けんかをするようになった。こんな生活が、ずっと続くのは嫌だなあと思っていた。

 新しいおもちゃ箱に入れているドラゴンのぬいぐるみとは、いつも遊んでいる。部屋の中でしか遊んでいないのに、汚れが日々目立つようになっているのは、どうしてだろうか?

 ある朝、和室のいつもご飯を食べるちゃぶ台に、文字の書いたカードのようなものが置いてあった。五枚ある。「何だろう?」と思って、聞いてみた。
「お母さん、これ何?」
 母は「何だろう?」と言いながら近付いてきて、その物体を認めると、忽ち表情が変わった。そして、通勤用に着替えをしていた父に向かって言った。
「馬券じゃない! あなた、競馬なんかしてるの? お金がなくて、私も休み無しで働いてるのに!」
 父はおっとりと答えた。
「馬券? 俺は知らないよ。なんでウチにあるんだ?」
「誰か持って来ないと、ここにある訳ないじゃないのよ。持ってくるのは、あなたしかいないのよ」
「いや、本当に知らないんだよ」
 呆れた顔をして、ゴミ箱に馬券を捨てようとしている母に向かって、父は次のように言った。
「万が一、当たっているかも知れないし、ほら、俺たちの通勤途中の駅のそばに、たしか場外馬券売り場あっただろ? そこに持って行ってみよう」

 あとから聞いた話だが、父と母は、その日の通勤で寄り道して、場外馬券売り場に行ったらしい。なんと、五枚とも当たりで、大金が入ってくるらしい。新しい家も、難なく建てられるようだ。これから、きっと明るい未来が待っている。不思議なこともあるものだ。
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