プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

新たなる獣王

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「これが山の証か」

 シーナが仲間となり、サリスから受け取った山の証をシンは観察する。
 手に持つと、その証が相当な重量をしている事がわかった。

 森の世界全域に根をはる世界樹は、この世界の全域の栄養を吸収していると考えて良い。
 その世界樹の枝は、重厚であり堅牢だ。
 おそらく、並みの衝撃ではこの証に傷一つつかないだろう。

 しかし、その山の証の扱いにシンは困っていた。
 砂の証であるミアリスの指輪のような物であれば、常に身につけていられるのだが、これほど重いとなると常時持っているのは疲れてしまう。

「魔導具の袋にでもしまっておけ、その証の持ち主は貴様となっている。魔導具の袋の中であろうと効力は失われない」

 扱いを考えていたシンにサリスは説明をする。
 よく見れば証に刻まれた紋章は、シンの左手首に刻まれた序列の紋章と同じである。
 ミアリスと違い、持ち主一人一人を選別しているのだろう。

「そうか、ありがとな」

「まっまあ、貴様の為にわざわざそんな事をした訳ではないからな。 そんな細工など私の手にかかれば一瞬で終わるものだ」

 シンから礼を言われたサリスはまんざらでもないらしく、表情から嬉しさが感じ取れる。
 ティナの言う通り、サリスも変わってきているのだろう。
 前までのサリスであれば、人族であるシンの礼などで何か感情を刺激される事はなかったはずだ。

「これで、3つ目ね」

「ああ、長かったな」

 ようやく手に入れた山の証で、シンは3つ目の証を手に入れた事となる。
 次で折り返しとなる4つ目だ。
 長い旅の半分辺りを迎えたとなると感慨深いものがある。

「次はどこに行くんだ?」

 ノアとシンの目的が証の入手であると知るサリスは、次なる目的地が気になるようである。

「次は空だな、世界樹の試練で仲間の1人が精神的にダメージを受けたからな。 そこにある獅子の強心ってやつを手に入れたい」

 リリアナが復帰するには、その方法しか思いつかない。
 本来であれば自身の力で乗り越えて欲しいところだが、リリアナは戦いなどと無縁の王女だ。
 シン達と同じように考えてはいけない。

「エウリスの所か、まあ無難な選択でもあるな」

 次の目的地が空の世界と聞いたサリスは納得したように頷く。
 しかし、サリスが何を考えているのか、シン達にはわからない。

「無難? 何か理由があるのか?」

「エウリスは私と同じで、世界の支配者になる事を求めてはいない。エウリスならば、戦闘をしなくても証の入手は可能だと思うぞ。 それにやつの作った証は大量にあるからな」

「大量?」

「ああ、エウリスが興味あるのは研究のみだ。生涯、それしかしていないだろうな。神であろうとこの世界には知らない事が多くある。エウリスはその謎を解明しようと必死なのだ」

 世界樹の試練で見たエウリスの印象はダラダラとした奴だとしか感じ取れなかった。
 研究以外に興味がない、そう説明されればあのダボダボした服装でいる事にも納得出来る。

「自分で言うのもなんだが、出来る事ならエウリスとの戦闘は避ける事だ。 私と違い、奴は空の世界で慕われている。 賢者の集う世界、それこそが空の世界だからな。 研究者達にとってエウリスはまさしく神と言う存在なのだろう」

 自堕落な生活を送り、誰からも崇められていないサリスと違い、エウリスは空の世界の人々からその信仰を一身に受けている。
 神としてサリスとは別格の力を持っているはずだ。

「まったく羨ましいものだ。 私と似たような境遇のくせに崇められおって」

 空の世界とエウリスについて聞いていたつもりが、いつの間にかサリスの愚痴に変わっていた。
 すぐに話が脱線するのはサリスの悪い癖だ。

「出発はいつにするんだい?」

 サリスがぐちぐちと言葉を言う中、ロイズはシン達に出発する時を聞く。
 彼もシン達と出会った事により、変わる事の出来た者の1人だ。

「まだ決めてないな。転移はノアにしてもらう事になるだろうけど」

 シン達はいつ出発するのかまだ決めていない。
 その答えを聞いたロイズは少し喜んだ顔をする。

「ならちょうどいい、明後日新しい獣王様の誕生を祝した祭が行われるんだ。それに参加してくれ」

「いいぞ、どこに行けばいい?」

「君達は今回の改革の功労者だからね、このユーギリア城に招待するよ」

 メリィの獣王就任祝いとなる祭はだいたい的に行われる。
 おそらく、この森の世界に住む者ほとんどが参加するはずだ。

「じゃあ、明後日な」

 祭の予定を聞きロイズ達とシン達はまた別れる事になる。
 サリスは未だエウリスに対し文句を言い続けていたが、シン達が退出した事には気づいていない様子である。

 **

「これは、凄い人数だね」

 3日後、ロイズに案内され向かった場所は、ユーギリア城前にある大広間だ。
 そこは入りきらないほどの民衆に溢れており、その宴はユグンの街全体にまで広がっていた。

「ラピス王国でも、これほどの宴は見た事がないな」

 王国兵士であったエルリックは、何度か国を挙げて行われる祭典に参加した事があるが、ここまで大規模なものは見た事がない。

 華やかに彩られた数々の装飾や街いっぱいに広がる露店は、どこも参列者により行列を作っている。

 世界樹の試練に来ていた冒険者達も、森の世界の特産に舌鼓をうち、森の世界の住人達と一緒に騒ぎ回っている。
 こういった祭典で飲食し、祭を盛り上げるのはどの冒険者も共通の事なのだろう。

「シーナはここにいて良いのか?」

 シン達に用意された特等席は、最高級の机が並ばれ、数々の豪勢な食事が次から次へと運び込まれてくる。
 ここの担当であろう使用人達は、ナナが驚異的な速度で食事を進める為、休む暇がない。

 そんな中、メリィやロイズ、アルファスと共にサリスの所にいるべきシーナが、この席にいる事がシンには疑問だった。

 メリィの獣王就任祝いでもあるが、森の世界のルールを変えたとされているシーナに会いに来た者達も多い。
 主役の1人として、その場に行かなくてはいいのかと考えたのだ。

「私は、何もしていませんので」

 隣に寝込む氷狼の大きな頭部を撫でながら、シーナは遠慮気味に言う。
 実際、シーナがした事は少ない。
 しかし、サリスとの戦闘にシーナと氷狼の力は必須であるし、そもそもシーナが獣王となるのを目指さなければ、森の世界は以前のままであったはずだ。
 やった事は少なくても、その内容はとてつもなく大きなものだ。

「まあ、あっちじゃ目立って仕方ないしな」

 サリスの周囲には常に人だかりが出来ている。
 この世界の者達は、初めて現れたサリスの姿を一目でも見ようと躍起になっているのだ。

 当然、メリィにも同じ事が起きている。
 その近くにいるロイズやアルファスもただでは済まない。
 目立つ事を嫌うアルファスの表情は硬いが、ロイズは穏やかである。

 今までこの世界の人々から嫌われ続けていたロイズだが、今回の改革の立役者の1人と発表されると扱いは一変した。

 今まで避けていた事や罵っていた事を謝罪する者達が増え、ロイズも認められ始めていた。
 ロイズはもともと性格も良く、その謝罪をすぐに受け入れ、これから仲良くやろうと自ら歩み寄る事も始めていた。

「ちょっとナナ! それは私のよ!」

 シンの隣では、ユナとナナが喧嘩を始めようとしている。
 ユナは楽しみにとっていた料理をナナに奪われ頭にきているようである。

「ユナ姉さん、世の中弱肉強食。そして早い者勝ちなのです」

「あっ!それ私が好きなやつじゃない!」

 ナナに気を取られたユナは、アイナにも横取りをされてしまう。
 この所、ユナとアイナは仲が良い。
 理由はわからないが、シンとしても喜ばしい事だ。

「また作ってもらえばいいじゃないか、料理は沢山あるんだし」

「うるさいわね! 私は今食べたいの!」

 なだめるつもりであったシンだが、逆にユナの怒りに触れてしまったらしい。
 八つ当たりに近いが、ここで反論でもしようものならシンが標的となってしまう。
 おとなしく引き下がった方が賢明とシンは判断する。

 サリスの方を見ると、彼女も本物の肉体で行う久々の他種族との触れ合いがまんざらでもない様子であった。
 世界分断前から続く孤独な時間は終わったのだ。

 その後も宴は深夜まで続いていく。
 森の世界で過ごす最後の時は、有意義なものとなった。
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