プロクラトル

たくち

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氷の世界

スーリアでの1日

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「なあ、ユナが欲しい物って何か知らないか?」

「さあ何だろうのう?妾にはわからん」

 ティナから誕生日の事を聞いたシンは、同じ女性であるティナに助言を求めたが参考になるような意見は聞けなかった。
 もとより魔王に何が良いのか聞くのが間違っているのかもしれない。

「リリアナに聞いてみるか」

 ティナと話していても答えが出ないと結論を出したシンは同じく女性であるリリアナに連絡を取る事にした。
 ノアに聞くのも良いかもしれないが、魔王であるティナと同じく神のノアでは参考にならないと考え、すぐにその選択肢を放棄した。

「ティナもノアと一緒でこういう時に役に立たないんだよな」

 魔王と神にとって人間の風習は興味深い事なのか、行事などについてはその行動を観察し、楽しむ傾向にある。
 楽しむのは構わないのだが、少しは協力して欲しいところだ。

「お誕生日でございますか、わたくしの場合は欲しい物などなかったのでいつも城でパーティーを行っていましたね。まあ、貴族達や豪商などから貢物は頂きましたが」  

 王女だったリリアナに聞くのも間違いだったのかもしれない。
 彼女は望めば何でも手に入れる事が出来た。
 他人にプレゼントを渡した事もないかもしれない。

「わたくしから言えるのは、シン様から頂いた物ならば、何でも嬉しく思います」

「そうか、ありがとう」

 リリアナからも具体的な意見は聞けなかった。
 エルリックならば何か良いアイデアを持っているかもしれなかったが、彼はあいにくと外出中であったらしい。

「もう、直接聞いてやる」

 このまま悩んでいても仕方ないので、ユナに直接聞くべく宿屋の自室から出る。
 ユナの部屋は隣の為、すぐに着きノックすると中に案内される。

「何よ?」

「明日誕生日なんだろ?何か欲しい物とかあるか?」

「えっ?何で知ってるのよ?」

「ティナから聞いた」

「そう、まあ良いわ。別に今更何が良いのか何て私もわからないわ。明日はお出かけするんでしょ?それで良いわ」

「本当に良いのか?」

「ええ」

 ユナの望みは簡単な事だった。
 先ほどまでの頭を悩ませていた事が案外簡単に達成できそうなので、ホッと胸を撫で下ろすが、やはり本当にそれだけで良いのか不安になってくる。

「明日は朝ごはんを食べたらすぐ行くからね!」

 ユナが笑顔でシンを送り出すが、どうもしっくり来ない。
 考えても仕方ないと結論を出し眠りについたシンは、翌日ユナと共に商店街へと赴いた。

 創世の遺物を解析し、生産しているスーリアの商品はシン達の目には真新しく見え、各店舗に次々と足を運んでいる。

「ねえ、この靴凄いわ」

 ユナが見つけたのは天馬の羽と呼ばれるブーツだ。
 ケース内に置かれている茶色のブーツは随所に翼を持つ馬の紋様が描かれ、優雅なイメージをもたらす。

「速度上昇に足場の安定か、足場の安定ってどういう事だ?」

「違うとこに説明があるわよ、雪原とか足場の安定しない場所でも足が埋まったりしないんだって」

 創世の遺物にはユナの持つ”契”と同じく装備者に対し特殊効果を与える物がある。
 それは小さな効果でも高値が付く。
 その小さな差が生存に関わる冒険者達は我先にと特殊効果持ちの装備を揃えるのだ。

「模造品でもこれだけの効果があるのか、オリジナルはどんなもん何だろうな?」

「天馬って言うくらいだから空でも飛べるんじゃない?」

「そこまではいかないんじゃないか?でも天帝は空を飛べたな、あれは魔力で翼を作ってたような感じだったけど」

 何気ない会話をしながらシン達は店を回る。
 天馬の羽はユナに合うサイズの物がなかった為、買う事が出来なかった。
 例え気に入った物であっても、それが必ずしもその欲した人物に合うと限らないのが創世の遺物の特徴だ。

 模造品ではその特殊効果は微々たる物になる為、シン達にとっては必要ないどころか、今までとの微妙な差が不利に働く可能性もあるのだ。

「これ、シンには良いんじゃない?」

 ユナは見つけた物をシンに紹介する。
 冥王の搾手と呼ばれているの黒いグローブはその装備者に近付いた物の体力を奪い、装備者の体力を回復させる能力を持っていた。

 装備者の力の大きさにより、その効果は増減するとの事だが、シンは序列3位だ。
 そのシンが装着すればかなりの効果を発揮するだろう。

「シンは接近されると弱いじゃない?だからこれで牽制くらいは出来るはずよ」

 シンは武器の特性上、近距離戦闘を苦手とする。
 だが冥王の搾手を装着すれば、近接されてもその効果で敵の体力を奪い、回復も出来る。

「高くないか?」

 冥王の搾手はオリジナルの品物であり、その値段は金貨50枚とかなり値が張る。
 リリアナの持ち出した資金は潤沢にあるとは言え簡単に支払える額ではない。

「アイナを仲間にするんでしょ?それならSランクの依頼で稼げるじゃない」

 ユナの中ではシンの勝利は揺るがない。
 それだけ信頼されていると言う事がわかり、シンは喜びを感じる。

「ほら、大事に使うのよ」

 シンが悩んでいる間にユナは購入をしたらしく、シンに手渡された黒いグローブは光に鈍く輝きながらその存在を主張する。

「ああ、大事に使うよ」

 ユナの誕生日なのだが、自分の物を買ってしまった事を気にしながらもその効果の確認をする。
 魔導具と言う物は装着すると不思議と効果がわかるのだ。

 冥王の搾手を確認し次の店舗に向かう。
 シンとユナは装備の強化を図る為、様々な店舗を訪れるが、必ずしも自分達にとって有用な物があるとは限らない。
 今必要なくともあとになって必要になる事など頻繁にある事だ。

「この聖女の涙ってのは良いんじゃないか?」

 シンが見つけ出した物は白く輝く小さな宝石を加工したイヤリングだった。
 聖女の涙と呼ばれるイヤリングは微量だが恒久的な治癒能力を持っている。

 近接戦闘の得意なユナはスピードを活かして防御よりも回避に特化しているが、多少の擦り傷などは受けてしまう。
 この聖女の涙ならば、戦闘中にも継続して回復効果がある為、ユナの受ける小さなダメージはすぐに消えるだろう。

 回復効果は貴重であり、金貨80枚という値段だが、それだけの効果があると見込み、シンはユナに確認をする。

「ほんとに良いの?」

「俺も買ったし、今日はユナの誕生日だろ?構わないよ」

「ありがと」

 聖女の涙を受け取ったユナは微笑みを浮かべ、左耳にイヤリングを着ける。
 燃えるような赤い髪からたまに姿を見せる聖女の涙はユナの美しい髪を引き立てるように輝いていた。

 いつの間にか日の暮れていたスーリアの街は冒険から戻った冒険者達が増え、各々戦利品を売買し、街にさらに活気があふれてくる。

「ユナは冒険者に憧れてたんだよな?」

「そうよ、けどもう良いわ」

 不意にシンはユナの憧れていた職業が冒険者だと思い出した。
 その最高の目的地となる氷の世界はユナにとって憧れの場所であり、この地で活動したいのではないかと不意に思ったのだ。
 だがユナはそのシンの言葉をすぐに否定した。
 彼女にとって今大切なのは別の事だった。

「ねえ、シン」

「なんだ?」

「やっぱり、なんでもないわ。早く宿に戻りましょう」

 シンにはユナが何を言いたかったのかわからない。
 だが笑顔でシンの手を引きながら進むユナを見て悪い事ではない事は理解出来た。

「あっそうだ!」

「どうした?」

「明日、負けたら許さないからね!」

 アイナを賭けた決闘に負ける事は許されない。
 シン1人での挑戦は自ら申し出た事だ。
 もちろんシンに負けるつもりはない、ここで負けている様では、7つの証を集める事など到底出来る事ではないのだ。

「俺に任せておけよ、ユナ達は何も心配する事はないからな」

 Sランク冒険者パーティー”双蒼の烈刃”はアイナ抜きでも最高の冒険者と呼ばれる猛者達の集まりだ。
 彼女達に勝利する事でシンはさらなる高みに到達出来ると直感をしていた。
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