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チャプター1
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チャプター1
「…頼む! 俺はアイツに復讐がしたい…!」
少年はそう言う。あてがわれたソファに腰掛けながら膝に顔がつきそうになるくらい、頭を下げている。真っ黒な学生服を着込んでいるのとまだ幼い顔立ちから少年が中学生である事は容易に想像できた。
「顔を上げてくださいな」助手なのだろうか、まるで女優のような女性が少年の前に紅茶の入ったティーカップをテーブルに置いた。
「…何で『復讐』したい?」
向かいに腰掛ける青年――シンは、向かい合った少年の顔を覗き込み単刀直入に聞いてきた。
「…えっと。俺…アイツに小学校の時から執拗にいじめられてて……「ちょっと待て」
経緯を話そうとする少年の言葉尻をシンが端的に遮る。
「……」一瞬黙る少年。訳が分からず少年は訝しげな表情となり、
(…そっちが聞いてきたのにな。『復讐』を代行してくれるって話はガセかな。なんかこの人頼り無さそうだし…)
「…ぁ、あの…何か?」
内心、目の前のシンに対しての不信感を露わにしつつも表立つことはなく取り繕って見せた。
「……」
シンは黙ってこちらを見ていた。吸い込まれそうなくらいの漆黒の瞳が少年を捕らえている。
「……」
少年――昭平もまた無言になりお互いの間に暫しの沈黙が流れた。
「俺はーー」シンは先に視線を逸らし口を開いた。「お前の不幸話を聞きたい訳じゃない」面倒臭そうに差し出された紅茶を一口する。
「……ぇ…」
シンの少し横柄に見える態度に昭平は多少面食らいながらもシンと同じように紅茶に口をつける。
「ーー要は、誰にどうやって復讐するかって話」
少々、投げやりな態度を見せるシン。昭平の眼前に手のひらを差し出し、何かを寄越して欲しそうな素振りをする。
「あ、はい」
昭平は慌てて飲んでいた紅茶を中断し、学生服の内ポケットから一枚の写真を取り出しシンに手渡した。写真は、ここにくる前に指定された『復讐したい人物』の姿を撮ったもの。
「ーーふん」シンは受け取った写真を少し一瞥しただけで後ろ手に控える女性に手渡す。「じゃあどうやって復讐したい?」徐に昭平に笑顔を向ける。
「えっ…と、あの……」
シンの、まるで意図の読めない行動に昭平は少し戸惑う。
(確かに『復讐』したいとは言ったけど、どうやってとかは……特に考えてなかったな…)
「復讐方法は特になければこっちで決めて……
「…あ、あの!」
淡々と話を続けるシンに流されそうになり、昭平は思わずシンの言葉尻を遮った。
「……」憮然とするシン。これ見よがしに思いっきり深い溜め息を吐いて、「明確な方法があるならさっさと言え」わざとなのか昭平から視線を外し虚空に目を向けた。
「…え、えっと」そんなシンの態度に少々気圧された昭平だが、「で、出来れば俺と同じような状況にしてほしい。」
「お前と同じ目に合えばいいと?」
「はい」
「成程」シンは虚空を眺めたまま頷き続けた。「それだけか?」
「あとはーー」
ここで昭平は一旦言葉を切る。
「後は……」
次の言葉が、躊躇われて思うように紡げない。しかし――同じ事が再び続くくらいならここで清算した方がまだマシだ。
「後はーー」昭平がまっすぐにシンを見つめ、「この世からいなくなってほしいです」
そう言うとシンはようやくこちらを向き、「そうか」と一つ頷いたのち嬉々とした笑顔を見せたのだった。
「…次に報酬の話だが。」
急に真顔になるシンに昭平は目を丸くする。
「…え? 報酬って…?」
「お前の依頼を引き受けるんだ、まさかとは思うがーー」昭平に冷たい視線を向けるシン。「無償、だとは思っていないよな?」低く、問い詰めるように聞いてくる。
「…ぁ…、いえ、その……」
昭平は口つぐんだ。依頼をするのだから何らかの支払いはしなきゃならない――頭では分かっていたが、いざそう言う話になると気後れしてしまう。事実、『復讐代行』なんてもの自体、現実的ではないからだ。
「…俺の…払える金額の範囲なら……」
俯いて小さく呟く昭平。人に、人の復讐を依頼するのだ。かなり高額な請求をされるのだろうと思ってはいる。ただ相場が分からず、一応小遣いの貯金などを含めて五万ほどは手持ちにある状態だ。
「…『金額』? お前、何か勘違いしてないか?」
「え?」
シンの言葉に顔をあげる昭平。目の前の男性は訝しい表情で少年を見ていた。
「あのでも…『報酬』って……」
目を瞬く昭平。
「…報酬は『金』じゃない」シンはかすかにかぶりを振るう。「報酬は、お前の寿命だ。」ひたと少年の顔を捕え断定的に言い放つ。
「……ぇ…、」予想だにしない言葉に昭平は呆然とする。
(この男性は一体何を言っているのだろう。今、『お前の寿命』って言った? 寿命って…命、の事だよな…。)
ポカンとした面持ちで昭平がそんな事を考えていると――
「一年分で手を打とうか」
「…え、あの…」シンの言葉を現実的に理解出来ず昭平は少し慌てて、「…あの…寿命って、『命』の事ですよね?」
「…それ以外に何がある?」
「……」
シンに確認のため聞いてみたが逆に問いで返され昭平は言い返せなくて黙ってしまった。
「あのなぁ、」シンは、要領を得ていないであろう少年に少し呆れつつ、「人ひとりをこの世から消してほしい程の復讐をしたいんだろ、お前は」
「あ、はい…」
シンに言われて思わず頷く昭平。確かに――自分を執拗にいじめてくる奴が、自分と同じように苦しんで消えてほしいと言う復讐心はある。
「ーーだったら、それ相応の代償も必要だと言う事だ。」
「…代償……」
昭平は小さく呟いた。
「…まあお前の寿命があと一年だったら、復讐が果たされた途端にお前も寿命で逝っちまうって事だな」
そう言いつつ、シンはおかしそうに笑った。
「…そんな……」
シンの言葉を聞いて昭平は顔が青ざめた。それはそうだろう。復讐を代行してくれる代償が自分の命なのだから。
「なに悲劇の主人公みたいな顔してんだ。人をひとり消すんだ。それ相応の代償をお前は払わなければならない。」
断定的に言うシン。
「…でも……」自身の、浅はかな考えに怖気付いたのか俯き加減に言い淀む昭平。「いいじゃないか、寿命の一年くらい。それで復讐したい奴が消えるなら」シンは、優しく諭すように言う。
「……、」
昭平は躊躇っている。
しばし考えたのち、俯いていた顔を上げ、
「…あの…少し考えさせてください……」
「…そうか」シンは短く頷き、「返事は明日の零時までにここの番号に知らせろ」それ以上話すことは無いと言わんばかりに、名刺をテーブルに投げ置くと残っていた紅茶を一気に飲み干した。
「…あ、はい……失礼します…」
シンの、始終よく分からない態度に困惑しつつ昭平は軽く会釈してその部屋を後にした。
――少年の気配が消えたのを見計らったように今まで黙っていた女性――神門穢流(みかどえる)がようやく口を開いた。
「…もう少し言い方があったんじゃないかしら?」
シンの隣に静かに座る。
「面倒なんだよ。『するか、しないか』、そのどちらかでいいんだ」
「そうね…。あの子は、少し『迷い』があったからーー」
穢流はそこで言葉を切り、隣にいるシンの腿に手を滑らせた。
「…同情、してんのか? あの少年に」穢流の顔を覗き込むようにシンは穢流の背中に腕を回し頭を抱えて自分の肩口に寄りかからせた。「…ええ」穢流はそのままシンの肩に身を預ける。
シンの指が優しく自身の髪を梳くうのが心地よく、穢流は目を瞑る。艶やかな唇が静かに動き、「あと一ヶ月も無いものーー」柔らかい囁きが部屋を掠めた。
「……」シンは小さく溜め息をついて、「今回は無償にしてやる」そう言って天井を仰いだのち、再び深い溜め息を吐いたのだった。
翌日――
昭平は昨日の出来事が夢なんじゃないかと思うくらい気怠さで目が覚めた。
「……ぇ、」
携帯に何やら数件の通知があり、何気なく目を通した一文に驚きを隠せなかった。
その内容は、復讐したい奴が、昨日未明亡くなったと、数少ない友がわざわざ報せてくれていた。
(…これ…あの人達がやった…のか……。でも俺は『考えさせてくれ』と言ったはず……。)
思考が追いつかなく、微かに震える手で持っていた携帯が急に鳴り出した。
「…ひっ、」吃驚した拍子に携帯を床に落とす。慌てて拾おうとして画面を確認すると、昨日の復讐代行の人から貰った名刺の番号だった。「…は…はい…」何かイヤな感じがしたから出たくなかったが、昨日のこともあるので恐る恐る電話に出た。
『よう。お前の依頼引き受けた。今回はこちらの都合で無償にしてやるよ』
電話の相手はシンからだった。
「…え、無償…ですか?」内容の意味が分からなかった。だが、復讐したかった相手は確かにこの世から消えた。しかし何で無償になったんだろうか?「…どうして…無償になったんですか…?」聞いちゃいけない事だとは分かっていたが、どうしても聞いておきたかった。
『……』
電話口のシンが一瞬黙ったように思えた。
『必要が、なくなった。』
一言そう言われた後に一方的に電話が切られた。
「あ、あの…!」昭平は慌てて何か言いかけたが聞こえるのは『プー、プー』という機会音。「……」仕方なしに通話を終了する。
昭平は再度、友からの報せを確認した。
内容によると――復讐したかった奴は、昨夜遊び帰りに工事現場の鉄柵の落下により頭部を大きく損傷し意識不明の重体となりそのまま死亡したという。
昨日、復讐代行に行った後のこの報せ。復讐を遂行したと言うには無理がある。
偶然――?
いや。そうにしては出来すぎている。それにさっきの電話。『依頼を引き受けた』と、あの人は言っていた。それに報酬は要らないと。これはどういう事だろうか?
色々考えたが昭平には分からなかった。ただ確実なのは、復讐したかった奴(もう居ないのだから、したかったが正しいだろう)がこの世から消えた事。
そして――
何故、報酬が無償になったのかを昭平が知るのはそれから一ヶ月後になる。
―了―
*****
チャプター1あとがき
ミステリーかな、これ。というか短編にしたかったのに無理ってなった!短編やっぱり難しい…。
いやファンタジー好きですけどね、こんなのも書くよってだけ。チャプター1はこれ以上続きません(笑)。
だから、昭平がどうなるかなんて誰も知らないよ。知ってるのはシンと穢流(える)だけ。
「…頼む! 俺はアイツに復讐がしたい…!」
少年はそう言う。あてがわれたソファに腰掛けながら膝に顔がつきそうになるくらい、頭を下げている。真っ黒な学生服を着込んでいるのとまだ幼い顔立ちから少年が中学生である事は容易に想像できた。
「顔を上げてくださいな」助手なのだろうか、まるで女優のような女性が少年の前に紅茶の入ったティーカップをテーブルに置いた。
「…何で『復讐』したい?」
向かいに腰掛ける青年――シンは、向かい合った少年の顔を覗き込み単刀直入に聞いてきた。
「…えっと。俺…アイツに小学校の時から執拗にいじめられてて……「ちょっと待て」
経緯を話そうとする少年の言葉尻をシンが端的に遮る。
「……」一瞬黙る少年。訳が分からず少年は訝しげな表情となり、
(…そっちが聞いてきたのにな。『復讐』を代行してくれるって話はガセかな。なんかこの人頼り無さそうだし…)
「…ぁ、あの…何か?」
内心、目の前のシンに対しての不信感を露わにしつつも表立つことはなく取り繕って見せた。
「……」
シンは黙ってこちらを見ていた。吸い込まれそうなくらいの漆黒の瞳が少年を捕らえている。
「……」
少年――昭平もまた無言になりお互いの間に暫しの沈黙が流れた。
「俺はーー」シンは先に視線を逸らし口を開いた。「お前の不幸話を聞きたい訳じゃない」面倒臭そうに差し出された紅茶を一口する。
「……ぇ…」
シンの少し横柄に見える態度に昭平は多少面食らいながらもシンと同じように紅茶に口をつける。
「ーー要は、誰にどうやって復讐するかって話」
少々、投げやりな態度を見せるシン。昭平の眼前に手のひらを差し出し、何かを寄越して欲しそうな素振りをする。
「あ、はい」
昭平は慌てて飲んでいた紅茶を中断し、学生服の内ポケットから一枚の写真を取り出しシンに手渡した。写真は、ここにくる前に指定された『復讐したい人物』の姿を撮ったもの。
「ーーふん」シンは受け取った写真を少し一瞥しただけで後ろ手に控える女性に手渡す。「じゃあどうやって復讐したい?」徐に昭平に笑顔を向ける。
「えっ…と、あの……」
シンの、まるで意図の読めない行動に昭平は少し戸惑う。
(確かに『復讐』したいとは言ったけど、どうやってとかは……特に考えてなかったな…)
「復讐方法は特になければこっちで決めて……
「…あ、あの!」
淡々と話を続けるシンに流されそうになり、昭平は思わずシンの言葉尻を遮った。
「……」憮然とするシン。これ見よがしに思いっきり深い溜め息を吐いて、「明確な方法があるならさっさと言え」わざとなのか昭平から視線を外し虚空に目を向けた。
「…え、えっと」そんなシンの態度に少々気圧された昭平だが、「で、出来れば俺と同じような状況にしてほしい。」
「お前と同じ目に合えばいいと?」
「はい」
「成程」シンは虚空を眺めたまま頷き続けた。「それだけか?」
「あとはーー」
ここで昭平は一旦言葉を切る。
「後は……」
次の言葉が、躊躇われて思うように紡げない。しかし――同じ事が再び続くくらいならここで清算した方がまだマシだ。
「後はーー」昭平がまっすぐにシンを見つめ、「この世からいなくなってほしいです」
そう言うとシンはようやくこちらを向き、「そうか」と一つ頷いたのち嬉々とした笑顔を見せたのだった。
「…次に報酬の話だが。」
急に真顔になるシンに昭平は目を丸くする。
「…え? 報酬って…?」
「お前の依頼を引き受けるんだ、まさかとは思うがーー」昭平に冷たい視線を向けるシン。「無償、だとは思っていないよな?」低く、問い詰めるように聞いてくる。
「…ぁ…、いえ、その……」
昭平は口つぐんだ。依頼をするのだから何らかの支払いはしなきゃならない――頭では分かっていたが、いざそう言う話になると気後れしてしまう。事実、『復讐代行』なんてもの自体、現実的ではないからだ。
「…俺の…払える金額の範囲なら……」
俯いて小さく呟く昭平。人に、人の復讐を依頼するのだ。かなり高額な請求をされるのだろうと思ってはいる。ただ相場が分からず、一応小遣いの貯金などを含めて五万ほどは手持ちにある状態だ。
「…『金額』? お前、何か勘違いしてないか?」
「え?」
シンの言葉に顔をあげる昭平。目の前の男性は訝しい表情で少年を見ていた。
「あのでも…『報酬』って……」
目を瞬く昭平。
「…報酬は『金』じゃない」シンはかすかにかぶりを振るう。「報酬は、お前の寿命だ。」ひたと少年の顔を捕え断定的に言い放つ。
「……ぇ…、」予想だにしない言葉に昭平は呆然とする。
(この男性は一体何を言っているのだろう。今、『お前の寿命』って言った? 寿命って…命、の事だよな…。)
ポカンとした面持ちで昭平がそんな事を考えていると――
「一年分で手を打とうか」
「…え、あの…」シンの言葉を現実的に理解出来ず昭平は少し慌てて、「…あの…寿命って、『命』の事ですよね?」
「…それ以外に何がある?」
「……」
シンに確認のため聞いてみたが逆に問いで返され昭平は言い返せなくて黙ってしまった。
「あのなぁ、」シンは、要領を得ていないであろう少年に少し呆れつつ、「人ひとりをこの世から消してほしい程の復讐をしたいんだろ、お前は」
「あ、はい…」
シンに言われて思わず頷く昭平。確かに――自分を執拗にいじめてくる奴が、自分と同じように苦しんで消えてほしいと言う復讐心はある。
「ーーだったら、それ相応の代償も必要だと言う事だ。」
「…代償……」
昭平は小さく呟いた。
「…まあお前の寿命があと一年だったら、復讐が果たされた途端にお前も寿命で逝っちまうって事だな」
そう言いつつ、シンはおかしそうに笑った。
「…そんな……」
シンの言葉を聞いて昭平は顔が青ざめた。それはそうだろう。復讐を代行してくれる代償が自分の命なのだから。
「なに悲劇の主人公みたいな顔してんだ。人をひとり消すんだ。それ相応の代償をお前は払わなければならない。」
断定的に言うシン。
「…でも……」自身の、浅はかな考えに怖気付いたのか俯き加減に言い淀む昭平。「いいじゃないか、寿命の一年くらい。それで復讐したい奴が消えるなら」シンは、優しく諭すように言う。
「……、」
昭平は躊躇っている。
しばし考えたのち、俯いていた顔を上げ、
「…あの…少し考えさせてください……」
「…そうか」シンは短く頷き、「返事は明日の零時までにここの番号に知らせろ」それ以上話すことは無いと言わんばかりに、名刺をテーブルに投げ置くと残っていた紅茶を一気に飲み干した。
「…あ、はい……失礼します…」
シンの、始終よく分からない態度に困惑しつつ昭平は軽く会釈してその部屋を後にした。
――少年の気配が消えたのを見計らったように今まで黙っていた女性――神門穢流(みかどえる)がようやく口を開いた。
「…もう少し言い方があったんじゃないかしら?」
シンの隣に静かに座る。
「面倒なんだよ。『するか、しないか』、そのどちらかでいいんだ」
「そうね…。あの子は、少し『迷い』があったからーー」
穢流はそこで言葉を切り、隣にいるシンの腿に手を滑らせた。
「…同情、してんのか? あの少年に」穢流の顔を覗き込むようにシンは穢流の背中に腕を回し頭を抱えて自分の肩口に寄りかからせた。「…ええ」穢流はそのままシンの肩に身を預ける。
シンの指が優しく自身の髪を梳くうのが心地よく、穢流は目を瞑る。艶やかな唇が静かに動き、「あと一ヶ月も無いものーー」柔らかい囁きが部屋を掠めた。
「……」シンは小さく溜め息をついて、「今回は無償にしてやる」そう言って天井を仰いだのち、再び深い溜め息を吐いたのだった。
翌日――
昭平は昨日の出来事が夢なんじゃないかと思うくらい気怠さで目が覚めた。
「……ぇ、」
携帯に何やら数件の通知があり、何気なく目を通した一文に驚きを隠せなかった。
その内容は、復讐したい奴が、昨日未明亡くなったと、数少ない友がわざわざ報せてくれていた。
(…これ…あの人達がやった…のか……。でも俺は『考えさせてくれ』と言ったはず……。)
思考が追いつかなく、微かに震える手で持っていた携帯が急に鳴り出した。
「…ひっ、」吃驚した拍子に携帯を床に落とす。慌てて拾おうとして画面を確認すると、昨日の復讐代行の人から貰った名刺の番号だった。「…は…はい…」何かイヤな感じがしたから出たくなかったが、昨日のこともあるので恐る恐る電話に出た。
『よう。お前の依頼引き受けた。今回はこちらの都合で無償にしてやるよ』
電話の相手はシンからだった。
「…え、無償…ですか?」内容の意味が分からなかった。だが、復讐したかった相手は確かにこの世から消えた。しかし何で無償になったんだろうか?「…どうして…無償になったんですか…?」聞いちゃいけない事だとは分かっていたが、どうしても聞いておきたかった。
『……』
電話口のシンが一瞬黙ったように思えた。
『必要が、なくなった。』
一言そう言われた後に一方的に電話が切られた。
「あ、あの…!」昭平は慌てて何か言いかけたが聞こえるのは『プー、プー』という機会音。「……」仕方なしに通話を終了する。
昭平は再度、友からの報せを確認した。
内容によると――復讐したかった奴は、昨夜遊び帰りに工事現場の鉄柵の落下により頭部を大きく損傷し意識不明の重体となりそのまま死亡したという。
昨日、復讐代行に行った後のこの報せ。復讐を遂行したと言うには無理がある。
偶然――?
いや。そうにしては出来すぎている。それにさっきの電話。『依頼を引き受けた』と、あの人は言っていた。それに報酬は要らないと。これはどういう事だろうか?
色々考えたが昭平には分からなかった。ただ確実なのは、復讐したかった奴(もう居ないのだから、したかったが正しいだろう)がこの世から消えた事。
そして――
何故、報酬が無償になったのかを昭平が知るのはそれから一ヶ月後になる。
―了―
*****
チャプター1あとがき
ミステリーかな、これ。というか短編にしたかったのに無理ってなった!短編やっぱり難しい…。
いやファンタジー好きですけどね、こんなのも書くよってだけ。チャプター1はこれ以上続きません(笑)。
だから、昭平がどうなるかなんて誰も知らないよ。知ってるのはシンと穢流(える)だけ。
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