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9話 つかず離れずだったのに1
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9話 つかず離れずだったのに1
――暖子(はるこ)さんが入社して三年が過ぎた。
『まだ若いよ』と、周りのおじちゃんおばちゃん連中に持て囃(はや)される俺もすっかり三十代のおじちゃん突入だ。
最初の一年位は危なっかしかった暖子さんも今や立派な『先輩』となっていた。そんな暖子さんとは、少しずつ話しているうちに互いに趣味が合う事に気が付いた。
漫画やアニメは勿論、ゲームといった娯楽が、これでもかと言わんばかりにドンピシャリで好みが合って、とにかく話題のネタが尽きない。
それでも仕事面ではお互いしっかりとやっているので上司からは何も言われる筋合いはないが。
今日も今日とて、新作アニメ放映の話でもしようかと思い仕事中だがプレス機に立つ暖子さんを見ようと視線を向けたのだが、いつも始業時十五分前にいる彼女の姿はそこには無かった。
(……え? 暖子さん、今日休みかな? 連絡は大体三十分前くらいにはしてくるんだけど……)
そう思うのは、暖子さんがたまに当日休日する時、朝イチで出勤する上司がそう告げるからであって――そんな事を考えてると始業間際に暖子さんは慌ててやってきて俺は少しホッとした。
……ホッとしたからと言って別に深い意味はない事を、しっかりと念頭においておく。だけど、暖子さんの顔色が心なしかくすんで見えるのは俺の気のせいだろうか。理由を聞いてみたいとは思ったが、こう言う時に限って俺も暖子さんも互いに忙しかったりする。
昼休憩の十分くらい前に作業はようやくひと段落し身の回りを片付ける間際に暖子さんの方を見ると彼女はまた姿が無かった。
――ゴミ捨てにでも行ったのだろうか?
俺は少し不安な感覚に襲われる――第六感とも言うべきか。居ても立っても居られず、ゴミ捨て場まで足を運ばせる。
案の定、暖子さんはそこにいた。声を掛けようとした途端、暖子さんの身体がふらりと傾いた――咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「ー…あぶなっ!」
「……あ。雪斗くん? おはよ」
力なく微笑んでくる暖子さん。
「あ、おはよう……じゃなくて! 暖子さんふらついてるけど大丈夫?!」
危うくいつものように彼女の独特な雰囲気に流されてしまいそうになった俺は気を取り直し語尾を荒げてしまう。
「う、うん……大丈夫……」
と、暖子さんは俺の手から逃げるようにそっと腕を外す。
「……」
明らかに様子がおかしい暖子さんを無言で見れば、頬が少し赤く視線の焦点が定まってないようだった。
「暖子さん、ちょっとごめん」
もしやと思い、俺は彼女の顔を覗き込むようにして自分の手の甲を暖子さんの額にそっと押し当てた。
――熱い。
ちょっと触れただけなのに熱がある事が安易に分かる程だった。
「……暖子さん、熱あるでしょ?」
「ちょっとだから平気……」
率直に聞けば、首を横に振るう彼女。
「平気じゃないよ、そんなふらふらして。今日はもうお昼で帰りなよ」
「で、でも……」
そこまで言っても煮え切らない彼女に次第に苛立った俺は、
「そんな状態で仕事されて何かあったらみんな困るでしょ。自己管理くらいちゃんとしないと」
少しキツく言ってしまうと暖子さんは口を噤んで黙ってしまう。ちょっと可哀想だとは思ったが、そのままにしておく訳にもいかず、「送ってくから」と、半ば強引に彼女を車に乗せた。
――暖子(はるこ)さんが入社して三年が過ぎた。
『まだ若いよ』と、周りのおじちゃんおばちゃん連中に持て囃(はや)される俺もすっかり三十代のおじちゃん突入だ。
最初の一年位は危なっかしかった暖子さんも今や立派な『先輩』となっていた。そんな暖子さんとは、少しずつ話しているうちに互いに趣味が合う事に気が付いた。
漫画やアニメは勿論、ゲームといった娯楽が、これでもかと言わんばかりにドンピシャリで好みが合って、とにかく話題のネタが尽きない。
それでも仕事面ではお互いしっかりとやっているので上司からは何も言われる筋合いはないが。
今日も今日とて、新作アニメ放映の話でもしようかと思い仕事中だがプレス機に立つ暖子さんを見ようと視線を向けたのだが、いつも始業時十五分前にいる彼女の姿はそこには無かった。
(……え? 暖子さん、今日休みかな? 連絡は大体三十分前くらいにはしてくるんだけど……)
そう思うのは、暖子さんがたまに当日休日する時、朝イチで出勤する上司がそう告げるからであって――そんな事を考えてると始業間際に暖子さんは慌ててやってきて俺は少しホッとした。
……ホッとしたからと言って別に深い意味はない事を、しっかりと念頭においておく。だけど、暖子さんの顔色が心なしかくすんで見えるのは俺の気のせいだろうか。理由を聞いてみたいとは思ったが、こう言う時に限って俺も暖子さんも互いに忙しかったりする。
昼休憩の十分くらい前に作業はようやくひと段落し身の回りを片付ける間際に暖子さんの方を見ると彼女はまた姿が無かった。
――ゴミ捨てにでも行ったのだろうか?
俺は少し不安な感覚に襲われる――第六感とも言うべきか。居ても立っても居られず、ゴミ捨て場まで足を運ばせる。
案の定、暖子さんはそこにいた。声を掛けようとした途端、暖子さんの身体がふらりと傾いた――咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「ー…あぶなっ!」
「……あ。雪斗くん? おはよ」
力なく微笑んでくる暖子さん。
「あ、おはよう……じゃなくて! 暖子さんふらついてるけど大丈夫?!」
危うくいつものように彼女の独特な雰囲気に流されてしまいそうになった俺は気を取り直し語尾を荒げてしまう。
「う、うん……大丈夫……」
と、暖子さんは俺の手から逃げるようにそっと腕を外す。
「……」
明らかに様子がおかしい暖子さんを無言で見れば、頬が少し赤く視線の焦点が定まってないようだった。
「暖子さん、ちょっとごめん」
もしやと思い、俺は彼女の顔を覗き込むようにして自分の手の甲を暖子さんの額にそっと押し当てた。
――熱い。
ちょっと触れただけなのに熱がある事が安易に分かる程だった。
「……暖子さん、熱あるでしょ?」
「ちょっとだから平気……」
率直に聞けば、首を横に振るう彼女。
「平気じゃないよ、そんなふらふらして。今日はもうお昼で帰りなよ」
「で、でも……」
そこまで言っても煮え切らない彼女に次第に苛立った俺は、
「そんな状態で仕事されて何かあったらみんな困るでしょ。自己管理くらいちゃんとしないと」
少しキツく言ってしまうと暖子さんは口を噤んで黙ってしまう。ちょっと可哀想だとは思ったが、そのままにしておく訳にもいかず、「送ってくから」と、半ば強引に彼女を車に乗せた。
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