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2話 俺の好奇心をくすぐる人1

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2話 俺の好奇心をくすぐる人1


「……『精神統一』って大袈裟な」

 俺が呆れ混じりにそう言うと、

「あ、そうですよね」

 と、半ば諦められたように言われてしまう。


 あれなんか、俺、馬鹿にされた?


 なんて。意地くそ悪い考えが頭をよぎってしまい、


「ーーねぇそれ馬鹿にしてる?」

 意地悪くも低く脅迫めいて呟いてしまった。


「え?! ち、違う違う!」

 俺が短気な性格をここ半年で学んだのだろうか、鈴村さんは特に怖がることもなく意外と言った顔をして慌てて否定してきた。

「……何?」

 憮然とした俺は殊更低めに呟いて彼女を睨みつけるように上目遣いで見た。その表情を露わにしてしまい、『あ。これ嫌われる絶対』と、完全に後悔したが、態度を急に変えるのも気持ち悪いしそのままの姿勢を貫いた。


「えっと……。なんか気に障る事言っちゃったみたいだから……ごめんなさい」

 なんだかバツ悪そうな顔をする鈴村さん。

 その後はすぐに視線を機械に戻して仕事を再開してしまった。


「……あ、おう」

 いささか拍子抜けした俺。

 間抜けに返事をしつつ俺もその場を後にする。


 自分の作業場に戻って、先程の場面を頭の中でリプレイした。


(……さっきのって、なんか……。壁、作られた? 怖がってる風には見えなかったけどすっと離れられたと言うか、躱(かわ)された感じだった……)


 俺がそう思うのは、初めの頃に聞いた鈴村さんに対しての『噂話』。彼女は、過去の経験から男性恐怖症になってしまったらしい。過去に何があったのかはよく分からないが結婚していて何らかの事情で離婚し、今はバツイチだと言う事。


 だからなのか、初めて会った時のあの怯えた態度は。


 それを知ってから俺は極力、彼女を怖がらせないようにした。別に他意は無いが、仕事を教える先輩として恐怖感ばかり煽ってるのはどうかと思っただけだが。
 
 三ヶ月くらい経つ頃には何となく『気の良いおばちゃん』って感じがして話しやすくなったのは確か。それからは当たり障り無く接してきたはずだが――彼女からは今のように時折壁を作られる事もしばしばある。

 それでも。

 彼女が作業中に見せる楽しげな表情や満面の笑みをこっそり浮かべている理由が、俺の中では気になって仕方が無かった。


(またいずれ聞いてみよう)


 そう頭の中で切り替えて俺は仕事を続けた。




 ――月日は過ぎた頃、世間ではクリスマスに近付き町中は華やかに彩られどこかしこも賑やかだった。

 そんなある日、その日は朝から豪雨でボロい建物の工場内は所々雨漏りがしている。


(直せばいいのに、この会社にはそんな金も無いのか……)


 俺が思っている事は、従業員全員も同じ様に思っている様だが誰一人として社長に進言する事なく現状維持のままだ。溜息つきながら黙々と仕事に精を出すのも皆一緒か。

 何とか明日納期分の荷物を詰め込み俺は一息ついて終業時間を迎えた。

 皆が口々に雨模様の空に悪態を吐きつつ帰宅する中、鈴村さんは何故かいつもよりゆっくりしていた。


「鈴村さん、帰らないんですか?」

 俺は当たり障り無く彼女に問い掛けた。


「うん。帰るけど、今日は歩いて来たから……」

 と、小さく失笑する彼女。


「あ、家近いんだっけ?」

 そう言えば鈴村さんはいつも自転車で来ている。会社からは近所くらいの距離に家があるのだろう。

「うん。自転車で10分くらいなんだけど今日は雨だったから」


 そこまで言われてようやく先程の彼女の言葉を理解する。自転車だと大変だろうからな。

 二人してタイムカードを切り、
「……送ってこうか?」
 何気なく聞いてみた。このまま傘で歩いて帰るなら送って行ったほうが彼女も少しは楽だろう、そう思ったから。


「……え?!」

 鈴村さんはすごくびっくりした様な顔をした。

 ――なんか、返答が予想外だった。そんなに驚く様な事を言ったつもりはないんだが。

 でも何故か。彼女の予想外な態度が、俺の好奇心に火をつけた。『普通』ではない、少し斜め上の彼女の思考回路。ゾクリと胸の内が騒めいた気がした――
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