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プロローグ
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プロローグ
二〇二〇年、春――
高校二年生となったこの頃。ある事務所の扉を開ける一人の少年。
「…の、すべてに復讐を望んでいます……」
シンと御堂筋美琴(みどうすじみこと)が座るソファの正面、少年は何かを決意したように言い切り真っ直ぐにシンを見つめた。
「成程」
シンは少し口角を上げて笑う。
「…一クラス分の人数になるとかなりの寿命を代償とするがその覚悟がお前にはあるんだな?」
「…それは」
シンにそう言われて目の前の少年、新宮司正継(しんぐうじまさつぐ)は言い淀み申し訳なさそうに俯いてしまった。
「ーーねぇ」
急に降りかかる声に顔をあげる正継。声のした方を向くとシンの隣に座る御堂筋美琴(みどうすじみこと)が心配そうな面持ちでこちらを見ていた。
「…な、何か」
美琴に真剣な眼差しで見つめらた正継は少し気負いしたのか掠れた声を出した。
「…本当に、この人達に復讐したいの?」
「……え?」
突然の問い掛けに正継は、最初は何を言っているのか分からなかった為、目を瞬いて間抜けな返事をしてしまった。
「いいじゃないか。お前で足りない分は親兄弟親戚、血縁者どもにーー」
「…ちょ、ちょっと待ってください!」
正継と美琴の会話を遮るように割って入ったシンの言葉尻を慌てて止める正継。
「…何だ?」
自身の言葉を遮られるのを好まないシンは憮然として正継を見やり、それに少し怯んだ正継は言いにくそうに、
「あの…家族…、父と母には手を出さないでください……」
「何故? ーーこちらも慈善事業じゃない。もし『お前』の寿命が足らなかった場合の補填要員として血縁者から頂く」
「…ッ、それは…」
正継はびっくりしたように顔を上げて小さく言い淀む。
「ふむ……」
そんな正継を見て、シンは顎に手を添え何かを考える素振りを見せた。
「…家族に手を出されるのが嫌か?」
「……はい…」
「何とも虫のいい話だな」
「……」
シンの皮肉とも取れる言葉に、正継は押し黙るしか無かった。
「…復讐は、してもらえないって事ですか?」
何かを考え込んでいるシンを見て不安になった正継は遠慮がちに上目遣いでシンを見る。
「ーーいや?」
シンは否定しつつも頭では何か別の事を考えている様だった。
「…シンさん?」
そんなシンの様子に隣に座る美琴(みこと)は訝しげにシンを見る。シンもまた何気なくではあるが美琴の方を見やる。
「…何考えてるの?」
「別に」
美琴の不安そうな言葉をシンは即座に切り捨てた。
「…あの、復讐のほうは」
「まあ待て」
気を急く正継にシンは短く遮る。
「復讐は、お前の望む通りに遂行してやる。問題は報酬の方だがーー」
「は、はい…」
含みを持つ様に言葉を切ったシンに、正継は少し怖さを感じつつ唾を飲み込んだ。
「復讐対象一人につき、お前にはそれ相応の償いをして貰う」
そう言いつつシンは可笑しそうに口元を歪ませた。
「…え…、あ、はい?」
シンの言葉の意味を理解できずに正継は不思議そうな顔で頷き、ふと思い立ったように、「あの…俺の寿命は……」と、不安な表情を露わにした。
「お前…俺の話を聞いていたのか?」
シンの表情はすぐさま一変し何とも面倒臭そうに不機嫌な態度となる。
「…え、あの……」
正継はシンから発せられる畏怖の色に身を縮こませた。
「お前からの報酬は、寿命ではなく『それ相応の償い』と言った筈だが?」
「え、あ…はい……」
シンの有無を言わせない口調に正継はただ頷くだけだった。
「…契約は成立した。お前は時が来るまで待てばいい」
シンがそう言うと、正継は早々にその場から追い出される様な形で事務室を後にした。
「…ふ、ふふふ」
正継が去った事務室内に、シンのおかしそうな笑い声が静かに響く。
「…シンさん、何を考えているの?」
シンの隣に座る美琴が不安げな顔をしている。
「あいつの復讐心に免じて、寿命は取らないことにした」
笑いつつソファから立ち上がるシン。
「…どういう事?」
シンを目で追うようにして美琴は眉をしかめ首を傾げた。
「三十人余りを一気に消すのは面白くない」
口角を上げて笑うシンは振り返り美琴を見た。
「お前だってそれは嫌だろう?」
念を押すように美琴に問い掛ければ、
「…それは、そうだけれども…」
彼女は小さく呟きシンの側へとその身を移動させ徐に手を伸ばせば、つかさずその手を取り自身の胸へとだき抱くシン。
「あいつの未来はどう視える?」
胸に寄り添う美琴の髪を優しく梳くシン。穏やかな表情で彼女の顔を覗き込む。
「そう、ね。本人にとっては安泰した老後だわ」
「ーーだろうな」
美琴の言葉に同意するシン。空いている手で指を打ち鳴らすと、シンの服装は【着崩したスーツ姿】へと変化した。
「どうするつもり?」
美琴は再び眉をしかめてシンを見上げる。
「まあ見てるがいいさ」
そう言ったシンの打ち鳴らした指は、いつのまにか丸い形をした伊達眼鏡を持っていた。
「ちょっとした余興の始まりだ」
言いつつシンは伊達眼鏡を静かに掛けたのだった。
二〇二〇年、春――
高校二年生となったこの頃。ある事務所の扉を開ける一人の少年。
「…の、すべてに復讐を望んでいます……」
シンと御堂筋美琴(みどうすじみこと)が座るソファの正面、少年は何かを決意したように言い切り真っ直ぐにシンを見つめた。
「成程」
シンは少し口角を上げて笑う。
「…一クラス分の人数になるとかなりの寿命を代償とするがその覚悟がお前にはあるんだな?」
「…それは」
シンにそう言われて目の前の少年、新宮司正継(しんぐうじまさつぐ)は言い淀み申し訳なさそうに俯いてしまった。
「ーーねぇ」
急に降りかかる声に顔をあげる正継。声のした方を向くとシンの隣に座る御堂筋美琴(みどうすじみこと)が心配そうな面持ちでこちらを見ていた。
「…な、何か」
美琴に真剣な眼差しで見つめらた正継は少し気負いしたのか掠れた声を出した。
「…本当に、この人達に復讐したいの?」
「……え?」
突然の問い掛けに正継は、最初は何を言っているのか分からなかった為、目を瞬いて間抜けな返事をしてしまった。
「いいじゃないか。お前で足りない分は親兄弟親戚、血縁者どもにーー」
「…ちょ、ちょっと待ってください!」
正継と美琴の会話を遮るように割って入ったシンの言葉尻を慌てて止める正継。
「…何だ?」
自身の言葉を遮られるのを好まないシンは憮然として正継を見やり、それに少し怯んだ正継は言いにくそうに、
「あの…家族…、父と母には手を出さないでください……」
「何故? ーーこちらも慈善事業じゃない。もし『お前』の寿命が足らなかった場合の補填要員として血縁者から頂く」
「…ッ、それは…」
正継はびっくりしたように顔を上げて小さく言い淀む。
「ふむ……」
そんな正継を見て、シンは顎に手を添え何かを考える素振りを見せた。
「…家族に手を出されるのが嫌か?」
「……はい…」
「何とも虫のいい話だな」
「……」
シンの皮肉とも取れる言葉に、正継は押し黙るしか無かった。
「…復讐は、してもらえないって事ですか?」
何かを考え込んでいるシンを見て不安になった正継は遠慮がちに上目遣いでシンを見る。
「ーーいや?」
シンは否定しつつも頭では何か別の事を考えている様だった。
「…シンさん?」
そんなシンの様子に隣に座る美琴(みこと)は訝しげにシンを見る。シンもまた何気なくではあるが美琴の方を見やる。
「…何考えてるの?」
「別に」
美琴の不安そうな言葉をシンは即座に切り捨てた。
「…あの、復讐のほうは」
「まあ待て」
気を急く正継にシンは短く遮る。
「復讐は、お前の望む通りに遂行してやる。問題は報酬の方だがーー」
「は、はい…」
含みを持つ様に言葉を切ったシンに、正継は少し怖さを感じつつ唾を飲み込んだ。
「復讐対象一人につき、お前にはそれ相応の償いをして貰う」
そう言いつつシンは可笑しそうに口元を歪ませた。
「…え…、あ、はい?」
シンの言葉の意味を理解できずに正継は不思議そうな顔で頷き、ふと思い立ったように、「あの…俺の寿命は……」と、不安な表情を露わにした。
「お前…俺の話を聞いていたのか?」
シンの表情はすぐさま一変し何とも面倒臭そうに不機嫌な態度となる。
「…え、あの……」
正継はシンから発せられる畏怖の色に身を縮こませた。
「お前からの報酬は、寿命ではなく『それ相応の償い』と言った筈だが?」
「え、あ…はい……」
シンの有無を言わせない口調に正継はただ頷くだけだった。
「…契約は成立した。お前は時が来るまで待てばいい」
シンがそう言うと、正継は早々にその場から追い出される様な形で事務室を後にした。
「…ふ、ふふふ」
正継が去った事務室内に、シンのおかしそうな笑い声が静かに響く。
「…シンさん、何を考えているの?」
シンの隣に座る美琴が不安げな顔をしている。
「あいつの復讐心に免じて、寿命は取らないことにした」
笑いつつソファから立ち上がるシン。
「…どういう事?」
シンを目で追うようにして美琴は眉をしかめ首を傾げた。
「三十人余りを一気に消すのは面白くない」
口角を上げて笑うシンは振り返り美琴を見た。
「お前だってそれは嫌だろう?」
念を押すように美琴に問い掛ければ、
「…それは、そうだけれども…」
彼女は小さく呟きシンの側へとその身を移動させ徐に手を伸ばせば、つかさずその手を取り自身の胸へとだき抱くシン。
「あいつの未来はどう視える?」
胸に寄り添う美琴の髪を優しく梳くシン。穏やかな表情で彼女の顔を覗き込む。
「そう、ね。本人にとっては安泰した老後だわ」
「ーーだろうな」
美琴の言葉に同意するシン。空いている手で指を打ち鳴らすと、シンの服装は【着崩したスーツ姿】へと変化した。
「どうするつもり?」
美琴は再び眉をしかめてシンを見上げる。
「まあ見てるがいいさ」
そう言ったシンの打ち鳴らした指は、いつのまにか丸い形をした伊達眼鏡を持っていた。
「ちょっとした余興の始まりだ」
言いつつシンは伊達眼鏡を静かに掛けたのだった。
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