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ご飯の準備
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「何か食べてきたの? 食べてないならご飯にしましょ」
「あ、た、食べてない! ごめんね、いきなり押しかけちゃって。お休みだったんでしょ?」
「いいわよ、家の掃除しかしてないし」
林太郎がキッチンに移動するのについていく。ひとり用の冷蔵庫をあけた林太郎が、小さくうなる。
「そうねえ、ブリ鍋にしましょ。ちゃっちゃと作っちゃうから待ってて」
「え、手伝うよ?」
白菜を取り出した林太郎が結を見て思案顔になる。
「野菜とキノコ切るだけだからすぐ終わるわよ。じゃあそこから食器と卓上IH出して。座って待ってなさい」
キッチンの下の棚をさされた。たしかに林太郎は結より女子力が数段上なので、むしろいたら邪魔だろう。言われたとおり食器と卓上IHを出して、部屋のローテーブルについておとなしく待つことにする。
(でも邪魔って言わないあたり、気遣ってくれてるよなあ。ちょっと困った顔してたし)
正直、生身の人間と付き合うのは、もういいかなと思っていた。二年ほど前に長く付き合っていた彼氏と別れたが、最後のほうはずけずけと言い合いすぎて、お互い嫌になっていたのだと思う。
だからもう、『マンガとかドラマでいいや』と思うようになっていた。自分が恋愛しなくても、疑似体験できるだけでいい。マンガやドラマの男性は、がさつじゃないし、汚くないし、くさくないし、綺麗だ。結婚願望もないし、もう三十だし、汚かったりくさかったりする現実からは距離を置いて、綺麗なものだけ見て生きていきたい、と思っていた。
「お茶出すの忘れてたわ! とりあえず水だけど、すぐ鍋とお茶できるから待ってなさい」
リビングのドアが勢いよくあいて、結はまたもや飛び上がった。林太郎が水の入ったコップを置いて、キッチンへ戻っていく。
(うーん気遣いが細かい)
水なんて、結が『ちょっと水もらえる?』と言いにいけばいいだけなのに、わざわざ気付いて持ってきてくれる。
林太郎とは幼なじみというやつで、同じマンションの違う階に住んでいた。同い年だから、小・中学校で同じクラスになったこともある。
昔から『女の子っぽいのかな』と思っていたが、大学生になったあたりから完全に『オネエ』さんになっていた。仲良しの幼なじみということで連絡は取り合っていたが、林太郎が『オネエ』さんだと分かってから、女友達のように気軽になって、さらに遊んだり話したりするようになった。
そうして社会人になり、ふたりともひとり暮らしを始めて。
いろいろあって、一か月前から付き合うことになった。
「お待たせ!」
林太郎が片手鍋と野菜のお皿を持ってきた。鍋は卓上IHに置かれると、持ち手がぱちんと取れた。『持ち手が取れる鍋すごい!』とどうでもいいところに感動していると、まくられた林太郎の手首が目に入る。男性としてはごつくはないが、やはり結よりしっかりしている。ムダ毛などなく結よりすべすべで、黒の袖と白い肌の対比が美しい。
「何見てるの? こっちはあとで入れる用で、鍋のはもう煮えてるから食べられるわよ?」
困惑したような林太郎に、結は慌てて首を振った。ひもじい子だと思われてしまった。
何というか、林太郎のことはずっと頼りになる女友達のように思っていたので、付き合っている異性として意識すると、どぎまぎしてしまうのだった。もちろん林太郎のことは人間として好きだし、話を聞いてもらったり頭を撫でてもらいたいと思うけれど、付き合っている、と考えると不思議な感じがする。林太郎の恋愛対象が女性なのか男性なのか、はたまた性別は関係ないのか、付き合って初めて『女性でいいのか!』と思ったくらいだし。
「あ、た、食べてない! ごめんね、いきなり押しかけちゃって。お休みだったんでしょ?」
「いいわよ、家の掃除しかしてないし」
林太郎がキッチンに移動するのについていく。ひとり用の冷蔵庫をあけた林太郎が、小さくうなる。
「そうねえ、ブリ鍋にしましょ。ちゃっちゃと作っちゃうから待ってて」
「え、手伝うよ?」
白菜を取り出した林太郎が結を見て思案顔になる。
「野菜とキノコ切るだけだからすぐ終わるわよ。じゃあそこから食器と卓上IH出して。座って待ってなさい」
キッチンの下の棚をさされた。たしかに林太郎は結より女子力が数段上なので、むしろいたら邪魔だろう。言われたとおり食器と卓上IHを出して、部屋のローテーブルについておとなしく待つことにする。
(でも邪魔って言わないあたり、気遣ってくれてるよなあ。ちょっと困った顔してたし)
正直、生身の人間と付き合うのは、もういいかなと思っていた。二年ほど前に長く付き合っていた彼氏と別れたが、最後のほうはずけずけと言い合いすぎて、お互い嫌になっていたのだと思う。
だからもう、『マンガとかドラマでいいや』と思うようになっていた。自分が恋愛しなくても、疑似体験できるだけでいい。マンガやドラマの男性は、がさつじゃないし、汚くないし、くさくないし、綺麗だ。結婚願望もないし、もう三十だし、汚かったりくさかったりする現実からは距離を置いて、綺麗なものだけ見て生きていきたい、と思っていた。
「お茶出すの忘れてたわ! とりあえず水だけど、すぐ鍋とお茶できるから待ってなさい」
リビングのドアが勢いよくあいて、結はまたもや飛び上がった。林太郎が水の入ったコップを置いて、キッチンへ戻っていく。
(うーん気遣いが細かい)
水なんて、結が『ちょっと水もらえる?』と言いにいけばいいだけなのに、わざわざ気付いて持ってきてくれる。
林太郎とは幼なじみというやつで、同じマンションの違う階に住んでいた。同い年だから、小・中学校で同じクラスになったこともある。
昔から『女の子っぽいのかな』と思っていたが、大学生になったあたりから完全に『オネエ』さんになっていた。仲良しの幼なじみということで連絡は取り合っていたが、林太郎が『オネエ』さんだと分かってから、女友達のように気軽になって、さらに遊んだり話したりするようになった。
そうして社会人になり、ふたりともひとり暮らしを始めて。
いろいろあって、一か月前から付き合うことになった。
「お待たせ!」
林太郎が片手鍋と野菜のお皿を持ってきた。鍋は卓上IHに置かれると、持ち手がぱちんと取れた。『持ち手が取れる鍋すごい!』とどうでもいいところに感動していると、まくられた林太郎の手首が目に入る。男性としてはごつくはないが、やはり結よりしっかりしている。ムダ毛などなく結よりすべすべで、黒の袖と白い肌の対比が美しい。
「何見てるの? こっちはあとで入れる用で、鍋のはもう煮えてるから食べられるわよ?」
困惑したような林太郎に、結は慌てて首を振った。ひもじい子だと思われてしまった。
何というか、林太郎のことはずっと頼りになる女友達のように思っていたので、付き合っている異性として意識すると、どぎまぎしてしまうのだった。もちろん林太郎のことは人間として好きだし、話を聞いてもらったり頭を撫でてもらいたいと思うけれど、付き合っている、と考えると不思議な感じがする。林太郎の恋愛対象が女性なのか男性なのか、はたまた性別は関係ないのか、付き合って初めて『女性でいいのか!』と思ったくらいだし。
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