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二日目

勝ったほうが負けたほうに何でもひとつお願いできる

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 二日目



 浅い浅い眠りから目が覚めて、リコは重い体でベッドから下りた。支度をしようとドレッサーに座ると、自分の姿から後ろのヒョウの絵画がうっすら透けていた。

 自分が、薄くなっている。

 うそのような、うそではない現実。頭がついていかないまま、長い薄桃色の髪をとかして着替えた。

 廊下に出ると、壁際にキトエが立っていた。いつから待っていたのだろうと心配になるが、キトエは近付いてきて「おはよう」と淡く微笑む。

「体調は?」

「あまり。魔力を取られるとか、言い伝えとか、どうせ体よく魔女を殺すための口実だと思ってたんだけど、昨日ここに入ったときから体が重いの。魔力を吸い取られてる感じ。神様かどうかは知らないけど、呪いなのは間違いない。あと、単純に寝不足」

 キトエの表情が沈む。キトエがそんな顔をすることはないと、リコは笑ってみせる。

「朝ごはん作る元気はあるよ」

 キトエが吹っ切るように微笑みを作る。

「朝ならもう作ってある。リコが寝てるあいだに作っておいた」

「そうなの? 楽しみ。うまくできた?」

「ああ、ううんと、それは」

 キトエが目を泳がせる。自分から言っておいて失敗したのかと、リコは微笑ましくなる。キトエは心がすぐ顔に出る。顔はとても綺麗なのに、そういうところは可愛い。今日も金の翼のピアスに下がった、水色の宝石がキトエの薄水色の髪のあいだできららかに揺れている。

 食堂へ踏み出すとき、隣のキトエの手を握った。キトエは戸惑ったようにリコを見て目をそらしたが、手は振りほどかれなかった。リコは胸の中の温かさと泣きそうな気持ちをかみしめて、キトエと食堂へ歩き出した。



 食堂にはキトエが作った炒り卵がたくさんと、火であぶったパンが置かれていた。卵はもそもそで、水をたくさん飲んでしまったが、キトエがリコのために頑張って作ってくれたのが嬉しかった。大量の炒り卵は最終的にパンに挟んでたいらげた。

 お礼を言って、次は一緒に作りたいと約束してから、談話室へ向かった。



「ううん。やっぱり暇」

 談話室に来てみたものの、特にやることがなかった。外に出られればキトエと行ってみたい場所がたくさんあるのだが、城に入ったときから結界で外に出られないのだった。

 城に入ってすぐ、結界を壊せないか何度も何度も魔法をぶつけた。けれど、壊せなかった。城に入ったときから、魔力に制限がかかって吸い取られているからかもしれなかった。

 城内探検も昨日のうちにとっくに終わっている。

「カードでもする? 昨日はババ抜きと神経衰弱をしたから、それ以外に何か」

 棚からカードゲームの本を取って、めくっていく。

「これはどう? 山からカードを一枚ずつ取って額にあてる。自分のカードは見ちゃだめだけど、相手のカードは見える状態。最終的に数が大きいほうが勝ち。カードを見せ合う前に会話して一回だけカードを変えることができる。捨てるときは表でも裏でもよい。カードの強さは強い順にジョーカー、エース、キング、クイーン、ジャック、十、九、八、七、六、五、四、三、二。マークの強さはスペード、ハート、ダイヤ、クラブ。どう?」

「分かった」

「特別ルールで、勝ったほうが負けたほうに何でもひとつお願いできる」

 キトエはにわかに複雑な表情になった。ここに来てから理不尽なお願いばかりされているからだろう。けれどリコも冗談ではなく本気で頼んでいるのだ。うぬぼれはあるが、そのお願いも男性なら嫌な気はしないと思うのだが、キトエはリコを女性として見ていないのだろう。そう考えるととても苦しい。

 リコが円卓につくと、キトエも向かいに座った。カードを切って中央に裏返しに置く。一枚ずつ引いて、額にあてる。

 キトエのカードはハートの七。初手からとても難しい。確率的にはリコが大きい数字を引いている可能性のほうが高いのだろうか。

「変えたほうがいいと思う?」

 キトエをうかがうと、小さくうなって目をそらした。キトエは素直だからすぐ顔に出てしまってこういうゲームは向いていないけれど、今のはどちらだろう。これ以上お願いされないために勝ちたいはずだが。

「キトエは変えないの?」

 キトエは渋い顔をしてまたうなった。すごく表情に出ているのに、意外と分からない。勝ちたいけれど主に勝つわけにはいかないと葛藤しているのだろうか。考えても分からなくなってきたので、変えないことにした。キトエも変えないと宣言し、同時に額のカードを中央へ出した。
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