精霊王の番

為世

文字の大きさ
上 下
53 / 59
第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第50話

しおりを挟む

「さぁて、どっから手ぇ出したもんかな」

 カルロは眼前の獣の群れに対し、やや放心気味に呟く。

「まずは前線の雑魚を止めて肉の壁を作る。 群れの動きを堰き止めたら、後ろはまとめて始末する」
「グッドアイデアだな。 雑過ぎる点を除けば」
「雑過ぎますよ……。 僕達に村の人達の未来が掛かってるんですから、頑張らないと!!」

 アイビスは実に単純な作戦を指示し、カルロは呆れた様子で頷く。ハルは使命感を抱く反面、表情は硬く緊張が窺えた。

「ハル、出過ぎるなよ。 俺とアイビスが叩くから、撃ち漏らした雑魚を止めてくれりゃあ良い」
「はい! 責任重大ですね!」
「いや、だから……まぁ良い。 肩の力抜けって言いたかったんだが」

 カルロの言葉は逆効果だった様だ。

「ハル、無理はするな」
「え? あ、はい」
「……何だ、アイビスにしちゃあ、珍しいじゃねぇか」

 カルロの言葉の通り、アイビスが仲間を気遣う発言をするのは珍しかった。

「……準備は良いか?」
「あぁ」
「はい!」

 アイビスの掛け声で、それぞれが臨戦体制に入る。

「”焼き千切れ”、ガゼル!」
「ブルー!」
───バリバリッ
「……行け」

 三人は守護霊を召喚し、霊獣の大群へと攻撃を仕掛ける。



「アイツら、大丈夫なのか?」

 その頃、村に残ったケイト達は戦闘の様子を遠方から見守っていた。

「あぁ。 カルロは腕の立つ用心棒、アイビスは霊獣狩り専門の冒険者、ハルはまだ幼いが、戦いの才能はある。 まぁ見てろ」

 不安を表情にするケイトに、ローブスは仲間への信頼を口にする。

 百匹を超える霊獣の群れ。村人からすれば地獄の様な景色の前に立つ三人を見て、心配しない者は居ないだろう。

「しかし、あの数を抑えるのは容易ではなかろう。 本当に加勢は必要ないかの?」
「あぁ。 寧ろ邪魔だ。 って、アイツらなら言うだろうな」
「そうか……」

 フーズは溜息を吐く。

 若き日には駆霊術の極意に迫った彼も、既に老体である。賊相手に遅れは取らなかったが、今回の霊獣の武器は単純な数である。押し寄せる敵をとにかく止める、そんな戦いに臨むには、フーズはあまりに衰えていた。

「私にもう少し、若さと体力があれば……」
「気にするな。 若かろうが体力があろうが、必要無い。 返事は同じ、「寧ろ邪魔」だ」

 ローブスが言った時、彼の霊視が精霊の行使を察知する。

「始まったな」

 村の命運を懸けた戦いが幕を開けた。



「ガゼル、《火の矢フラム・プファイル》!」
「ブルー! 《火の矢フラム・プファイル》!!」

 二人は守護霊を操り、炎を撃ち出す。

 放たれた炎は襲い来る霊獣の群れ、その最前線を走る獣の肉体を焼く。

───バリバリッ
「……行け」

 アイビスは自身が召喚した漆黒の守護霊に対し、短く指示を出す。

 アイビスの言葉に応じ、守護霊は点高く跳躍する。そしてアイビス達の遥か上空を飛行していた猛禽類の霊獣を殴りつけた。

「きりがねぇな」

 カルロは呟く。それもそうだろう。戦闘開始時と比べ、眼前の風景に大きな変化は見られない。三人の攻撃など、焼け石に水としか思えなかった。

「……お前ら、”木”は?」
「俺は持ってねぇな。 すまん」
「僕も試した事ありません」

 アイビスの提案とは、駆霊術の相乗効果を利用し攻撃の効率化を図ろうというものだ。

「そうか。 ならハル、実践だ」
「はい?」

 突如言い渡された課題に、ハルは首を傾げる。

「”木”が出せるまで下がってろ。 出せる様になったらカルロと右翼を止めろ」
「今から試すんですか!?」

 そして驚愕する。そんな悠長に構えていて良い状況ではないだろう。それはハルにも分かっていた。

「温存も兼ねてる、言う通りにしろ。 それまで俺が止めてやる」

 アイビスの表情に───もとよりこの状況に───冗談が無い事を判断すると、ハルは自身の守護霊を自身の目前に呼び寄せ、向き合う。

「ブルー。 ”木”だ。 今すぐ”木”を出して! ……欲しいんだけど」

 そして目を瞑り、念じる。しかし守護霊が応える気配は無い。

「うーし。 じゃあ俺も休憩か?」
「お前は続投だ。 剣でやれ」
「……無茶言うぜ。 《天威無崩ドン・クリーガー》」

 カルロは術を発動し、守護霊の姿を変化させる。

「精密な動きは必要無い。 ”デカいの”あるか?」
「そうだな」

 アイビスはカルロに尋ねる。

 カルロは対人戦を専門としているため、戦闘では主に短剣を用いていた。小ぶりで取り回しが良く、継戦向きな武器。守護霊に対して”ペン”の例えを用いた事からも、動作に精密さを求めている様だった。
 しかし、今回は霊獣との混戦。そして乱戦である。急所を一撃で突く適格さよりも、一振りで何匹倒せるかが肝要である。そう考えた方が結果的に消耗は少ないであろう事は明白であった。

「芸がねぇのは好みじゃないが」

 カルロは言葉を区切り、覚悟と共に術を発動する。

「拘っても仕方ねぇしな。 《大剣ツヴァイヘンダー》」
「ほう」

 カルロが呟くと、ガゼルの手元に守護霊の背丈程もある大ぶりな剣が召喚される。

 刀身の幅は短剣の三倍、その柄も短剣の倍近い長さがあった。

「そっちの方が似合ってると思うが」
「だから嫌なんだよ」

 アイビスは感嘆の言葉を口にするが、カルロはそれを受け取らない。

「良いか? アイビス。 人の魅力ってのは奥行きで決まるんだよ」

 カルロは得意げに講釈を垂れる。

「つまり”ギャップ”だ。 見た目通りの行動しても、見せられるのは表面だけだ。 覚えときな」

 そう締め括るカルロの考えを、

「……聞かなかった事にしてやる」
「何で? 俺今、カッコいい事言ったよな?」

 アイビスは冷たく切り捨てるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...