精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第47話

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「こっちは終わったぜ」

 スキンヘッドの厳つい男、カルロが声を掛けてくる。

「遅かったな」

 返答するのは黒髪の青年、アイビス。彼は、背後に霊獣の骸の山を築き、自身はその麓の一匹に腰掛けていた。

「いや、終わってたなら手伝えよ」
「必要だったか?」

 アイビスは口元を歪め、問い掛ける。

「いいや、楽勝だったぜ」

 答えるカルロは白い歯を見せた。

「付近に霊獣の気配は無い。 村人を呼べ」
「相変わらず、人使いが荒いねぇ」

 二人は今日、仲間と共に村を発つ。彼らがこの村で過ごしたのは、時間にしてまる二日。夜の警戒が必要無い環境での休息は、彼らの英気を十分に回復させた。

「自分達の食い扶持になるんだ。 誰も文句は言わないさ」
「ま、だろうな」

 出発の朝、二人は砂漠に狩に出ていた。村の付近に多数の霊獣を確認したためである。

「しかしこりゃあ、ナーゲルにシャーレ、フリューゲルまでいるな」
「あぁ。 街ではお尋ね者だった俺達も、砂漠ここでは随分人気者の様だ」
「いや、嫌われてたのはお前だろ」
「お前だって襲撃者の犯人扱いされてたじゃねぇか」

 霊獣はより強い精霊を持つ存在にたかる。村人の持つ精霊では、これだけの霊獣を集める事などないだろう。霊獣の目的は彼らでまず間違いなかった。

「まぁ、出発前に良い手土産が出来たぜ。 フーズも喜ぶだろうよ」



「戻ったぞ」
「おう。 こっちも準備出来てるぞ」

 二人は村に戻ると、残る仲間の元へ向かった。

「アイビス、どこか行くの?」
「アイビス、ここお家じゃないの?」

 幼い双子の少女達が揃ってアイビスに問い掛ける。

「……ローブス」
「あぁ、置いてきやしねぇよ。 ”西の国シュルフト”までは連れていく」
「そうか」

 意外だ。アイビスは思った。

 この村には子どもの姿も散見される。規模が大きく粗野な大人も居る様であるが、束ねるフーズは温厚な性格をしており、子どもの面倒をよく見る男である。

「わかるだろ」

 ローブスは、双子をこの村に置いていくのだと思っていた。

「拾うってのは、安心させるってのは、そういう事だ」
「……そうだな」

───やはり、お人好しか。

 アイビスは安堵した。

「移動する。 ここは俺達の家じゃない。 引っ越しだ。 ……引っ越し、わかるか?」
「ひっこし?」
「ひっこしだって」
「ひっこしって何かな?」

 そんなアイビスの心中など、双子の知るところではない。二人は既に、新たに聞く言葉に興味を移していた。

「そうだ、ネア、ミア。 アイビスに”アレ”、見せてやれよ」
「ミア、あれだって!」
「あれって何かな?」
「この前教えもらったうたじゃない?」

 「ひっこし」の意味について熱く議論を繰り広げる双子に対し、ローブスは提案する。

「何を見せるって?」
「まぁ見てな。 ”グリード”」

 行って、ローブスは術を唱える。

「《バオム》」

 すると、双子の目前に突如として植物が芽吹く。植物は少女達の腰の高さまで成長し、瑞々しい緑の存在感を放つ。

「わぁ! 葉っぱだね!」
「うん、葉っぱ。 急に出てきたね」
「準備出来たぞ。 さぁ、見せてやんな」
「おい、だから何をするつもりなんだ」

 真意を言わないローブスに、アイビスは溜息を吐きつつ問い掛ける。ローブスは双子に何かを吹き込んだ様だが、それが何にせよアイビスは全く興味を惹かれていなかった。次の双子の挙動を見るまでは。

「だって! ネアから行くね?」
「うん」
「……まさか」

 アイビスは霊視により察知する。

「”ミア”!」

 双子の一方、明るく解放的な性格のネアが守護霊を操る術を身に付けている事を。

「ことのはをかいしめえずる。 せえれえよ、そのちからしゃくねつをもってあかりをともせ」
「な……」

 少女はギリギリの呂律で唱える。

「ふらむ!」

 すると、彼女の召喚した守護霊は赤く変化し、ローブスが用意した植物の葉に火を付けた。

「次はミアの番。 ”ネア”」

 そして双子の他方、大人しい性格で表情の変化が少ない少女、ミアが守護霊を召喚する。

「ことのはをかいしめえずる。 せえれえよ、そのちからしゃくねつをもって」

 そして同じ詩を詠う。

「あかりをとぼしぇ」

 しかし、ミアの呂律はギリギリ足りなかった様だ。詠唱が完遂されなかったために術の発動には失敗してしまった。

「間違えちゃった……」
「惜しかったな。 でもたった一日でよく覚えたもんだ」

 言って、ローブスはミアの頭を乱雑に撫でる。

「ネアは? 火、出せたよ?」
「あぁ。 お前もよく頑張ったな」

 続いてネアの頭を同じ様にして撫でた。

「どうだ、アイビス。 双子の成長っぷりは」
「はい。 こんな小さい子が、信じられないです。 ……前が、見えません」
「おいハル、泣くな。 お前はこれから俺が鍛えてやっから」

 全く関係の無いところで、ハルは精神にダメージを受け涙した。その心中を察したカルロがハルの頭を乱雑に撫でる。

「見事だ」

 アイビスは一言呟いただけであった。

「もっと驚けよ。 ……んじゃ、フーズに挨拶に行くぞ。 そしたら出発だ」

 ローブスは端的に指示を出し、一行は村の指導者の元へと向かう。


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