精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第43話

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 賊の優勢に傾きかけた戦場は、一人の男の乱入によって空白の時間を生む。
 
「加勢するぜぇ」

 現れたカルロは賊の炎を防ぐと、瞬時に状況を把握する。

 場は緊張に包まれていた。賊も村人も同様に、新手の登場に困惑が隠せないでいたのだ。
 そしてカルロは百戦錬磨の用心棒である。そんな一瞬の隙を逃さない。

「行くぜ、”ガゼル”」
「なっ!」
「っ《シルト》!!」

 カルロは呼名のみで守護霊を操り賊の一人に斬り掛かるが、不可視の障壁によって防がれる。

「フーズって言ったか、”防御”は任せたぜぇ」
「ふむ。 旅人や、恩に着る」

 それから先の出来事は、実に一方的な蹂躙であった。
 それまで決死の覚悟で賊と対峙していた村人達は、いつの間にか傍観者となって目前の光景を眺めていた。

 当初賊も村人も、カルロの守護霊を見て自己強化系スタークンを想像した。ガゼルが剣を使用していたためだ。それですら、一振りで軽々と結界を破壊する威力と急所を正確に突く精密な動きから、一般の水準を明らかに超えた実力であった。
 それだけでも驚愕に値するのだが、次に彼が繰り出す術によって人々は更に理解不能な光景を目にする事になる。

「《火の矢フラム・プファイル》」
「はぁ!?」
「何してる! 結界を張れ!」

 カルロの守護霊、ガゼルは火を放った。

 通常、駆霊術の併用は不可能と考えられている。しかし、ガゼルは剣を右手に持った状態で左手を賊に向け、炎の矢を放った。

 狙われた賊は結界を張り、辛うじて炎を防ぐ。そこへ懐に飛び込んだガゼルの剣が襲う。

「ぐふっ!」
「まず一人」

 カルロが現れてから僅かの内に五人の賊の一人が倒れた。

「ほう……。 凄まじい精霊フェノンじゃな」

 フーズは感心する。

 駆霊術を同時に複数行使するだけでも、一般の常識を遥かに超える離れ業である。カルロはそれを涼しい顔で成し遂げただけでなくまだ余力を残している気配すらある。同じ人間とは思えない。

 フーズがこれまで村人に指南してきた詠唱術など、児戯にしか思えなくなってしまう程、高度に洗練された技術。
 到底、一介の用心棒が持つべき技量とは思えない。


「時間を掛けるつもりはねぇ。 《火の矢フラム・プファイル》」

 カルロの声に合わせ、彼の守護霊、ガゼルは巨大な火球を複数生み出し、矢の如く放つ。それだけで賊の一人はひとたまりもなく倒れるのだった。

「弱い者いじめは好きじゃねぇ。 一番強い奴、誰だ?」
「……ふん、粋がるなよ」

 一部始終をただ呆然と眺めていたジルが、名乗り出る。

「俺はジル。 “烙印賊”中隊長だ。 ”マイズ”」
「そうかい。 俺はカルロだ」

 そう言って、ジルが召喚した守護霊の額には黒い“烙印”が押されていた。
 どこかの国で何かしらの狼藉を働いたのだろう。砂漠送りになる様な人間に、同情などもったいない。

「烙印賊、ねぇ」
「行くぞ! 《火の矢フラム・プファイル》!!」

 ジルは言葉に力を込める。

「”ブルー”、《火の矢フラム・プファイル》!!」

 しかし、彼の守護霊、マイズが放った炎は別の炎に迎え撃たれる。

「あぁ、予定変更だ。 ジル、お前の相手はコイツがする」
「……なに!?」

 カルロは、現れた少年を指差してジルに告げる。

 この時点でジル達賊側は既に敗色濃厚であった。

 それだけカルロ一人の実力が圧倒的なものだったのだ。冷静な指揮官であれば、ここは撤退を指揮するのが正常な判断であっただろう。しかし、ジルは退かなかった。彼の魂にもほんの僅か、意地と誇りが残っていた。

「ハルに勝てたら見逃してやる」

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