精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第40話

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「よぉ兄ちゃん達、お出かけかい?」
「おうよ! ちょっくら霊獣狩りにな! な、アイビス!」

 村の中を歩いていたアイビス達に、住人の男が声を掛けてくる。

「北西に二匹、東に三匹捕捉した。 出る時は気を付けろ」

 アイビスは自身の霊視能力で探知した霊獣の情報を住人に伝えた。

「おう、そうか。 ……ここから見えるのか?」
「あぁ、ウチのアイビスは優秀なのよ!」
「そ、そうなのか」

 村人はアイビスの能力に若干の疑いを持っている様子。それを見て、アイビスは冷たく言い放つ。

「……信じるか否かは好きにしろ」
「いや悪い。 忠告、ありがとよ」

 しかし、男は気を悪くした様子は無く、アイビス達を明るく見送った。



───数十分後。

「今日も引き分けだったな!」

 村周辺の霊獣を狩り終えたアイビス達は、戦利品となる三匹の霊獣をそれぞれ引き摺りながら村に戻っていた。

「もうその話はいい。 どうせ、決着は付かないだろう」
「そう固い事言うなよぉ」

 言いながら、カルロはアイビスの肩をバシバシと叩く。

「……あれは?」

 アイビスは何かに気付き、足を止める。

「ん? あぁ、ありゃ”毛獣ヴォレ”だろ」

 カルロはアイビスの疑問に解を与える。

 アイビスの目線の先に居るのは、毛獣ヴォレという名の毛に覆われた四足歩行の霊獣、その群れである。最近の巨大化した霊獣とは違い、体躯は比較的小さく、それ程脅威には感じない。そんな霊獣が三十匹近く、。あろう事か、子どもと戯れる個体も居る。

「霊獣、だよな」
「あぁ。 だがありゃあ、”家畜フィー”だ。 文字通りの事だな。 見るのは初めてか?」
「あぁ」

 アイビスの住んでいた街、カルファンは、東の国ジーベルの中でも田舎に類する街であったが、そこでは霊獣を飼う人間は居なかった。

 霊獣も精霊である。その生態を深く理解すれば、人間の意志で使役する事が出来る。弱い霊獣であれば、増やす事も容易い。
 学校では、食用などのために霊獣を人為的に飼育する事があると習っていたが、実際目にするのは初めてである。彼は本当に田舎者であった。

「砂漠では珍しくないのか?」
「あぁ。 中規模以上の村なら普通にやってるだろ。 訪れる旅人が入れ知恵したんだろうな。 旅人は砂漠の移動中に休憩が出来て、それなりの飯がある。 村人は食い扶持が増える。 ウィンウィンの関係ってやつさ」
「なるほどな」

 ヴォレの群れは無造作に放たれている。首輪が付いている訳でも無い。しかし、外に出て行こうとする個体は見られなかった。

 彼らにとっても砂漠の屈強な環境とそこに住まう霊獣は、当然脅威なのだろう。

「おい、何見てんだ」

 アイビスがヴォレの群れを観察していると、一人の村人が声を掛けてくる。

 フーズが住人に一行を紹介した際、アイビス達の滞在に反対した男である。

「あぁ、アンタか。 うちのアイビスが家畜フィーが珍しいってんで、しばらく眺めてたのさ」
「な! お前ら、滞在するだけに飽き足らず、家畜フィーまで持って行こうってのか!?」
「あん? いやそんな事言ってねぇだろ」

 何やら激昂する村人に対し、カルロは困り顔で対応する。

「だから言ったんだ、俺は反対だって!」
「いやだからな? 違うって言ってるじゃねぇか」
「うるせぇ!」

 村人の怒りは収まる様子が無い。アイビスは興味が無さそうに明後日の方を見ていた。

「お前らのせいで外の霊獣が寄ってくる! 賊も来る! おまけに家畜フィーまで持って行こうなんて!」
「待て、今、「賊が来る」と言ったのか?」

 村人の言葉を聞いて、アイビスは表情を変えて村人に詰め寄る。

「あ、あぁ。 そうだ。 旅人が来ると一緒に賊も来る! 前来た旅人の時もそうだった! 村を出た途端に襲われ、見送った仲間が怪我をした! その前もだ! もううんざりなんだ!」
「そうか」

 アイビスは顎に手をやり、考える。

 この村人の言葉は恐らく、嘘ではない。そして「前来た旅人」というのは双子を乗せていた行商人達の事で間違いないだろう。
 そして、その前の旅人も賊に襲われたとの事。これは、果たして偶然なのか。

「な、何考えてんだよ!」
「おーい! 兄ちゃん!」

 男が更にアイビスに詰め寄ろうとした時、遠くからアイビスを呼ぶ声がする。見ると、アイビス達が霊獣を狩りに行く前に顔を合わせた村人が、仲間と共に二匹の霊獣を引っ提げて歩いていた。
 そしてその村人達はアイビスの顔を確認すると走り寄って来る。

「よぉ兄ちゃん、ありがとよ! おかげで大量だったぜ!」
「その霊獣、アンタ達が?」

 興奮気味の村人達に、アイビスは問い掛ける。

「あぁそうさ。 兄ちゃんが来る場所を教えてくれてたからな、罠を張って待ち伏せしてたんだ!」
「へぇ、やるじゃねぇか」

 カルロは感心する。

「最近の霊獣、デケェだろ。 よく無傷で狩れたな」
「人数と準備のおかげさ。 アンタらは、二人で三匹か、やっぱ都会人は半端ねぇな!」
「まぁな、こんくらい朝飯前よ」

 カルロは得意げに胸を逸らす。

「そんな事は良い! とにかく、村にとってアンタら都会人は厄介者なんだ! 用が済んだらさっさと出てってくれ!」
「おい何て事言うんだ! すまねぇ、コイツ、前に賊に弟がやられてな、気が立ってるんだ。 気にしねぇでやってくれ」
「余計な事言ってんじゃねぇ!」
「そうか」

 アイビスは反発する村人に向き直る。

「安心しろ、賊が来たら追い払う。 コイツがな」
「本当他力本願だな、お前は」

 そして真剣な表情のまま、アイビスは男に告げる。

「名前を聞いておこう」
「……ケートだ」
「そうか」

 その時だった。

「きゃああああああああ!!」

 甲高い悲鳴を聞き、アイビスは霊視能力を解放する。
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