40 / 59
第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢
第37話
しおりを挟む「あ、フーズさん! お勉強教えてー!」
「フーズさん、その人達誰ー?」
「フーズさん一緒に遊ぼう!」
フーズが歩く度、近くの子ども達が近寄って来ては親しげに声を掛けていた。
「ふむ、後での。 それよりお主達、大人達を集めてくれんか。 ”お客様”を紹介するからの」
フーズは集まってくる子ども達にそう言う。
「はーい」
「良いよー!」
子ども達はそう言うと、フーズの言いつけに従って散り散りになっていった。
「またお客様だって!」
「男の人ばっかりだね!」
「でも子どももいるよ!」
「僕達も連れてって貰えるかな?」
走り去る子ども達は口々にそんなことを話していた。
大多数の子ども達がフーズに走り寄って来て、彼の言いつけによりすぐに走り去っていく中、一部の子どもはフーズやアイビス達に興味を示さず別の事に夢中になっている。
ローブスはそんな二人の少年に注目した。その二人は背丈からハルより少し歳下───ネア、ミアよりは年上の少年に見える───であると予想されるが、彼らは何やら木屑を前にして話していた。
「”メークリ”」
そして、一人の子どもが守護霊を召喚する。これ自体は驚く事では無い。
守護霊を召喚した子どもは、続けて言葉を口にする。
「言の葉を介して命ずる。 精霊よ、その力”灼熱”を以って燈を灯せ」
まるで歌うかのように、言葉を放つ。
そして次の瞬間、ローブスは驚くべき光景を目にする。
「《火》!!」
「……なっ!」
少年が言葉を放った瞬間、彼の守護霊が彼の目前に置かれた木屑に手をかざす。するとそこに、煌々と光る”火”が灯されたのだ。その火は木屑の一つに点火されると、徐々に勢いを増し隣り合う木屑にその手を伸ばしていく。
ローブスは確信する。
置かれたただの木屑が一人でに火を放つ事などあり得ない。間違いなくそれは、”駆霊術”が行使された結果によるものであった。
「……驚いたな。 教育レベルの低い砂漠の”村”で駆霊術を、しかも子どもが使うとは」
ローブス同様、カルロも一連の様子を目にしていたのか、驚きを言葉にしていた。
「はい。 しかもあの子、多分僕より歳下です。 自信が、無くなりそうです」
ハルは衝撃を通り越して泣きそうになっている。
「何に驚いてる? 子どもでも火くらい出すだろ」
「……お前なぁ」
呆れたように返答するのはローブスである。
「カルロも言ったが、ここは砂漠だ。 教育なんてものが成立しない環境なんだよ。 更に言えば今の駆霊術、俺達が普段使用しているものとも若干違う」
ローブスは自身の驚きをアイビスに説明していく。
「”貧者の詩”だ」
「いや、その表現は正しくないよ」
ローブスの言葉をルイスは否定する。
「”それ”は蔑称だよ。 あれはまだこの星の文明が発達し切らない頃、”文字”を介さない方法で広められた原初の駆霊術体系、”詠唱術”だよ」
「詠唱術? 聞いた事ねぇな」
「僕も実際に見るのは初めてだ。 ねぇ君達」
そう言って、ルイスは少年達に接近していく。
「なに?」
「アンタ誰?」
「僕はルイス。 さっきの術、凄かったね。 僕にもう一度見せてくれないかな?」
すると少年は首を横に振る。
「ダメだよ。 ”精霊”は無駄遣いしちゃいけないって、フーズさんに言われてるから」
「そうか、そうだよね。 でも大丈夫。 僕の”精霊”を君に分けてあげよう」
そう言って、ルイスは右手を少年の頭上にかざす。
「……どうかな? これでもう一度火は出せそうかい?」
「え、すごい! ”精霊”が増えてる! どうやったの?」
「なになに? 何したの??」
ルイスは少年に、自身の内包する精霊を分け与えていた。
駆霊術を用いれば他者に自身の精霊を譲渡することが出来る。”回復術”はこれの応用であるが、砂漠で生まれた少年達にはそれが珍しかったのか、興味津々といった様子でルイスに尋ねていた。
「うーん、これは”譲霊”と言ってね。 えっと……参ったな」
ルイスは困り果てて苦笑していた。アイビスが見たその表情はいつもの貼り付けたような作り笑いではなく、純粋な感情の表現であるように感じられた。そして。
「何やってんだよ、お前……」
アイビスは溜息と共に呟くのだった。
「……と言う訳じゃ。 しばらくこの者達が滞在する。 互いに揉め事は起こさぬようにの」
フーズは集まった村の住人達に向け、来訪者を紹介した。
紹介されたアイビス達に対し、集まった住人達はそれぞれの反応を示す。
「集まってくれてありがとうの。 話は以上じゃ」
「フーズさん、ちょっと待ってくれよ!」
フーズの言葉を最後に、集会はお開きとなるはずであった。
フーズが話を終えるや否や、住人の中の一人、痩せた男が声高に反対意見を口にした。
「外の人間なんか信用出来ねぇ! 今すぐ追い出してくれ!」
すると、彼の近くに居た女性がその意見に反発する。
「あんた何言ってんの! 見な! 若い子やあんな小さい子もいるじゃない! 追い出せなんて、滅多なこと言うもんじゃないよ!」
「そうだぞ。 砂漠で路頭に迷ってた所をフーズさんに拾われたのは誰だ? 俺達は何者も拒まない。 それがルールだったじゃねぇか」
更に別の男が女性の意見に加勢する。
「ぐっ! そうは言ってもよ……」
「見苦しいよ! ここに住もうって訳じゃない、滞在するだけなんだ。 潔く迎え入れてやんな!」
「悪いな、あんた達。 旅で疲れてるだろ。 宿へ案内するぜ。 ま、宿っつっても朽ちた建物を掃除しただけのボロ屋だがな」
「はははっ」と高らかに笑い、一人の男がアイビス達に話し掛けてくる。
「あぁ。 世話になる」
ローブスは男に短く返答する。
アイビスは彼らの一連のやり取りをただ黙って見ていた。
そして観察していた。
アイビス達の滞在に反対した彼の意見は、この集団の総意ではない。一方で、賛成した彼女の意見もまた、総意ではないのだ。
彼らの他に数十人もの住人がただ黙して事の顛末を見届けていた。
歓迎する者、納得はするが積極的に関わろうとはしない者、滞在自体に反対する者、その真意は様々であろう。また、その感情にも大小があり、喜ぶ者、苛立ちを顔に出す者、声に出して来訪者達を排斥しようとする者もいれば、全く無関心の者もいる事だろう。
彼らが何を思っているのかは計れないが、自分達に害をなす危険性もある。アイビスは顔には出さないものの、心中でそっと警戒心を呼び起こすのだった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました
山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。
犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。
たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。
何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる