精霊王の番

為世

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第二章 神の手に阻まれる幼き日の夢

第36話

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「こっちは問題ない。 滞在の許可は無事得られた。 後でもう一度顔を見せに行くつもりだ。 お前らも来いよ」
「フーズさん、良い人でしたよ!」
「そうか。 まぁあんだけ大見得切っておいて、そうじゃ無かったら困るんだが」

 ローブスは再開した仲間に結果を報告する。ハルは自分が見たこの共同体の長に対する所感を話していた。
 アイビスはローブスに対してだけ素直な感想を述べ、ハルから得たフーズの人格についての情報は興味が無いと無視した。

「今日からここがおうちだって」
「うん。 アイビス言ってたね」
「おうちどれかな?」
「いっぱいあるね」

 双子は周囲に立ち並ぶテントの群れに興味津々である。
 アイビス達は霊獣を狩り終えた後、ルイスと共に荷車へと戻り、双子を連れていた。彼は霊視により二人の安全は確認していたものの、行動の読めない子どもという事もあり身近に置いておきたかったのだ。

「……で、そっちのお友達は誰なんだ?」

 ローブスは当然の如く質問する。ほんの少し目を離した隙に、仲間パーティのメンバーが一人増えている。そんな心霊現象の様な事があってはたまらない。

「はじめまして。 僕はルイス。 彼らとはついさっきそこで親しくなってね。 ここの”村長”への面会に同伴して貰おうと誘ったんだ」
「いや、別に親しくはしてないだろ」
「そうか。 俺はローブス。 こっちはハルだ。 ルイス、仲間が世話になったな。 コイツら何か迷惑とか掛けなかったか?」
「おい」
「頭、そりゃあ濡れ衣にも程があるぜ……」

 ルイスは自己紹介と共に、ことの経緯をローブスに説明する。ローブスはそれを聞いて、粗野な冒険者二人がこの青年に何か迷惑を掛けていないかと訪ねるが、青年はそれを首を振って否定する。

「いや、本当に親しく話しただけだよ。 今は僕のわがままに付き合ってくれてるんだ。 寧ろ、迷惑を掛けているのは僕の方かな?」
「全くだ」
「おいアイビス、お前オブラートってもんを知らねぇのか」

 ルイスの冗談にアイビスは溜息と本心で答え、カルロはフォローにならない言葉をアイビスに向けて呟いた。

「ルイスは良い人だよ?」
「ルイスは本のお話してくれたよ?」

 双子はこの得体の知れない白髪の男に随分懐いていた。

「そうか。 問題がないのなら良い。 ところで二人とも、さっき俺でもわかる程どデカい”精霊フェノン”を感知したんだが、あれはお前らか?」

 ローブスは、先の言葉の根拠にもなっている点について触れる。

 ローブスとて無闇に仲間を疑ったりしない。しかし、彼は数分前に大規模な精霊の行使───駆霊術の使用───を確認していた。これが人間に対して行使されたものであれば、迷惑を掛けたでは済まない事態になっているはずであるが、時系列的に考えてこの青年も無関係ではないと判断し、先程の質問に行き着いたのだ。

「それなんだがな、ローブス。 喜べ」
「あぁ?」

 アイビスの言葉にローブスは首を傾げる。
 そしてほんの少し、嫌な予感がする。

「”手土産”が三倍になったぞ」
「……はぁ?」
「おい! それ、俺が言いたかったのに!!」



「これ程の霊獣を、二人で……?」

 初老の男は、驚きの表情でただ目前の光景を見つめる。

 ローブス、ハルの二人と合流したアイビス達は結局、ローブスの指示で霊獣の回収を先に行うこととなった。
 そしてその場には、ルイスも居た。彼は、「約束だからね」と言って霊獣の搬入に協力していた。

 霊獣を回収し終えた七人は、それを引っ提げて再度フーズを訪ねていた。

 アイビス、カルロの自己紹介もそこそこに、霊獣の骸に感嘆の声を漏らしたのはフーズである。

「正確には三人だがな。 ”手土産”はこれで全部だ。 足りるか?」
「十分じゃ。 それにしても、いやはや恐れ入った。 お主はただの商人と侮っていたが、これ程の霊獣を討ち取る腕前とは」
「いや、やったのはそっちのハルだ」
「……なんと」

 フーズは更に、丸くした目を飛び出しそうな程見開き、ローブスに名を呼ばれた少年を見る。

 彼の受けた衝撃は当然と言えるだろう。ハルは間もなく十四歳。その表情には幼さが残る。

「いえ、僕は一匹倒すので精一杯でした」
「ふむ、その歳で謙遜までしおるとは、末恐ろしい子じゃな」

 ハルは首を振って訂正するが、その姿さえもフーズを感心させる。

「そっちの子らがが連れの子ども達かの?」
「あぁ、そうだ。 ここに来る途中で拾った」
「ふむ。 名前を聞いても良いかの?」

 フーズは少女達に目線を合わせ、問い掛ける。
 アイビス達に拾われ、ルイスと話し、随分人に慣れてきた少女達はやや緊張しながらも口を開いた。

「ネア」
「ミア」
「そうかい。 よろしくの」

 言って、フーズは二人に笑い掛ける。
 そしてフーズは、今度は白髪の青年に目を向ける。

「して、お主もこの者らの仲間かの?」
「いや、僕も彼らと会ったのはついさっきだよ」

 ルイスは首を横に振る。

「僕はルイス。 人探しをする旅人さ」
「ほう、人探しとな」

 フーズはルイスの言葉に興味を示す。

「こんな砂の大地で、探しものは見つかりそうかの?」
「一応、ね。 目星はついてるんだ。 だから、悪いけど僕も少し滞在させてもらえるかな?」
「そうか、見つかれば良いの。 滞在については、好きにすると良い。 歓迎しよう」

 フーズはルイスに短く返答する。

「お主達、住人達にも紹介するが、良いな?」

 一同はフーズの言葉に無言で肯定を示し、歩き出す彼に追従するのだった。


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