【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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最終章:新たな国王の誕生

13:その後④アシュリー

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一週間後。
アシュリーは一通の手紙を握りしめ、自室へ走っていた。
差し出し人はヴィクターだ。

部屋に着いたアシュリーは、ハアハアと息を切らしながら、手紙の封を切る。


『一年後に迎えに行く。考えておいてくれ』


それだけの、とてもシンプルな内容の手紙だった。

(ヴィクター陛下……シンプルすぎて、とても心に響きます……)

アシュリーは涙が止まらなかった。

(本当に一年後に迎えに来て下さるかどうかはわからない。けれどヴィクター陛下なら、心変わりがあればきっと連絡を下さるわ。もし本当に来て下さっても、この顔の傷を見られたら一気に気持ちが冷めるかもしれない……。ヴィクター陛下はきっと無碍には出来ないお方だから、困らせるかもしれないわ……)

アシュリーは混乱していた。
城を出た時点で諦めたはずの、恋心の火種が再び火力を増すのを感じる。

(一年……どう転んでも良いように、私に出来ることをしよう)

アシュリーは涙を拭い、「よし、やるぞ!」と自分を鼓舞したのだった。








ーーー 一年後。

五人の王子たちはとても忙しくしていた。

新国王ヴィクターと新騎士団統括のアダムは、山積みの仕事と日々向き合っている。

イーサンは、サンブルレイドへ正式に養子入りした。現在はサンブルレイドの騎士団に所属し、領地について学びつつ、鍛錬も欠かさない日々をすごしている。

エイダンは、一年前の反乱で自分の発明品が多く実践で役に立ったことが嬉しかった。それ以来、発明意欲の高い状態が維持されており、ほぼ部屋にこもって発明にいそしんでいる。

オーウェンは、最後の戦闘を前に追い返された悔しさを胸に、勉学と武術の両方に真面目に取り組んでいる。
犬の躾は相変わらず出来ていないようだ……




エリザベスは、毎日ローレルの墓参りを行うことを日課とし穏やかに過ごしている。
マーズの墓参りとアシュリー達に会いに行く頻度は増え、最近は2~3ヶ月に一度訪れていた。

物忘れの病はゆっくりと進行しており、そばにはいつもセリーナが付いている。



「アシュリー、楽しかったわ。元気でね」

「はい。殿下もお身体にお気をつけ下さいませ」

アシュリーは馬車に乗り込むエリザベスに挨拶をした後、続いて搭乗するセリーナにも笑顔で目くばせした。

予想外に、高頻度でエリザベスやセリーナと会うことが出来て、アシュリーは嬉しく思っていた。




(よしっ! 明日出荷の荷物の準備が出来ているか見に行こうかしら)

アシュリーがそう考えたその時、隣にいた妹のペニーに話しかけられる。

「お姉様、荷物の様子を見に行きませんか?」

「ちょうどそう考えていたところよ! 気が合うわね!」

二人はニッコリ笑って、領地内の集積所へ行った。
この場所は、他の領地へ売り出す農作物の集積のために、アシュリーが城から戻ってから作った場所だった。
今後出荷予定の農作物を、前もって運び込んで保管する場所で、念の為に警備もつけている。

アシュリーは領地へ戻った後、ペニーに話をした。そして意見をまとめた後、領主である父へ三つの提案をした。

一つ目は、ブルーム領一番の強みである、豊富な農作物を他の領地へ売ることだ。

サンブルレイドのように、土壌に恵まれず作物が育ちにくい地域は他にもいくつかあった。
更に、この土地で特に育ちやすい作物もあるのだ。


二つ目は、紙製品の作成に力を入れることだ。

エリザベスやアダムにも褒めて貰えたノートは、とても丈夫なものだった。
しかもそれは、領地の中に山ほど生えている、さほど大きくなく取り扱いしやすい木から作られた物だった。
現在良い紙はとても高価であるため、代用品として広めることができるのではないかと考えたのだ。


三つ目は、それらで儲けた金で領地の中心部に店を集めた町を作ることだ。

現在ブルーム領にはそのような場所はなかった。
基本的には農業が主な田舎町だ。
ワクワクする店を密集させた栄えた場所を作ることで、活気をもたらし若い人の流出を防ぎたいと考えたのだ。


そしてそれらは全て、父である現伯爵から「やってみなさい」と笑顔でゴーサインを貰った。


今日は馬車で1日程の距離にある街へ農作物を運搬する予定になっている。

「こんにちは! 準備はどうですか?」

「ああ、アシュリー様とペニー様! ちょうど今、荷を積み終えた所です」

今回は果物の予定だ。
アシュリーが直接その領地へ行き、領主と交渉をした。
領主がまとめて買い取ってくれて数箇所の販売所へ売り、それを各々が民へ販売してくれるのだ。
今回のように小さい町には領主へ売ることもあれば、大きい町には店に直接うることもある。


「良い出来ですね。ちゃんと少し早めに収穫をしてくれていますね」

「はい。2~3日後がちょうど食べ頃ですよ」

果物を作った男性は、一気に荷台いっぱいの果物を売ることが出来、上機嫌だ。

「今までは余って腐ってしまっていたので、本当に嬉しいです!」

「この果物はとても美味しいので、喜んで貰えると良いですね」

目を潤ませている男性に、アシュリーは笑顔で言う。

「はい! 次回もまた買って貰えると嬉しいです!」

売り上げ金は、領主:生産者=5:5の約束となっている。
領主が運搬費や交渉にかかる金なども全て負担するため、生産者は一切手がかからないのだ。

「アシュリー様! うちの野菜が豊作になりそうなのですよ! 近場でどこか買ってくれないかしら?」

「あら、アリー! 日持ちはどれくらいするかしら?」

アシュリー達の活動を知り、最近では生産者自ら農作物を売り込みに来てくれる。

こうして、アシュリーの計画はペニーの協力のもと、とても順調に進んでいた。




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