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最終章:新たな国王の誕生
7:本拠地
しおりを挟む「なっ!? 俺が次期国王だって!? アダム兄上がなるべきだ!」
狼狽するヴィクターに、アダムは冷静に言う。
「実はね、陛下が誘拐される前に陛下と話をしていたのだよ。私も陛下も同じ考えだった」
「……えっ……」
「私は身体が弱い。すぐに寝込んでしまうし、正直今も体調は良くない。そのような私が国のトップになることは、私自身も望まない。私は次期国王を支える立場でありたいと、常々思っていたのだ」
「……イーサン兄上は、あのようなことがあったから除外されたのですか?」
ヴィクターは納得が出来ないと顔に書いてある。
「違う。イーサンよりもヴィクターの方が視野が広くバランスが良いと、陛下も私も同じ意見だったのだよ。志も良いしね。それに、サンブルレイドの領主はヴィクターよりもイーサンの方が合っているとも思う」
「それは……」
(確かに武術や戦闘に関することはイーサン兄上には敵わない……)
ヴィクターはグッと握り拳を作った。
ヴィクターはだからこそ、今まで人一倍努力をして来たのだ。
その結果が、"次期国王"だというのか……?
「これは相談ではないよ。陛下が決めたことだからね。明日の就任式までに心の準備をしておくように」
アダムは笑顔だが、それ以上の有無を言わせない顔で言う。
戸惑いに曇った表情でヴィクターは問う。
「……奴らの居場所は分かっているのですか?」
「ああ、陛下とアシュリーを連れて馬車でウロウロしていたみたいだけれど、ちゃんと本拠地があるらしいよ。今案内して貰っているから、じきにわかるだろう……。わかり次第、出陣しよう!」
アダムの笑顔に、ヴィクターは怪訝な表情をする。
「案内?」
「ああ、グリーフ騎士団統括代理にね。……おっと、もうその任を解いたのだった」
「……」
複雑な表情のヴィクターに、アダムは真面目な顔となり言う。
「明日の就任式の後からは、私はヴィクターの下につくからね」
そこで皆一旦身体を休めるために解散となり、アシュリーは久しぶりに侍女の部屋へ戻った。
(ヴィクター殿下が次期国王……。きっと素晴らしい国王になられるわ。けれど、いよいよ私なんて見向きもされないわね……)
アシュリーは寂しさが胸に広がるのを無視して、ベッドに潜り込んだ。
そして心を込めて祈った。
(陛下、どうかご無事で……。明日、お会い出来ることを願っています)
夜が明ける頃に戻ったイーサンは、すぐに謝罪の報告をした。
ローイが逃げた先には輩がうじゃうじゃおり、そのままローイを見失ってしまったと。
「足の傷は深く動脈も損傷しているはずです。ローイは先頭に立って戦うことは出来ないから大丈夫です」
ヴィクターはそう言うと、就任式の準備にかかった。
同じ頃、解放されたグリーフは同行の騎士五人と共に、目的地近くまで来ていた。
「こんな所に村があったのだな。知らなかった」
「目的地はもうすぐだ。ここで最後の休憩を取ろう」
森の中にポツンと現れた小さな村に騎士が驚いていると、グリーフはそう言って騎士の返事を待たずに村へ入っで行った。
「やあ、騎士さん。よかったらうちで少し休んで行くかい? 焼きたてのパンがあるんだ」
「ああ、せっかくだしいただこう」
村民に声をかけられ、グリーフはそれに応じる。
「勝手に返事をするな!」
同行している騎士たちは一瞬躊躇したが、しっかり休めるのはここが最後だろうと休むこととした。
しかし、罠だった。
この村が本拠地だったのだ。
飲み物に毒が混ぜられており、騎士たちは命に別状はないが激しい頭痛と嘔吐下痢に見舞われてどうしようもなかった。
しかもその状態で、近くに何もない所に放置されたのだ。
……このままだと命に関わる。
密かに旅人を装ってグリーフ達のあとをつけていたオーウェンと二人の付き人は、グリーフたちが入った村には入らずに身を隠せる場所で待機していた。
「小さな村だから中に入らなかったけど、正解だったみたいだ……」
木に登り中を盗み見ていたオーウェンは、ぐったりとした騎士たちが台車に積まれるのを見て言った。
「すぐに城へ場所を知らせに行って。そして彼らの救助要請も頼んだよ」
オーウェンは付き人一人にそう指示を出し、もう一人の付き人とその場に残ろうとする。
「殿下も一緒に戻って下さい。私が一人で残って見張りますから」
「一人じゃ何かあった時に困るよ。騎士たちもいなくなっちゃったんだから」
「しかし、オーウェン殿下の同行はここまでの約束です!」
「アダム兄上にはそれで許可してもらったけど、臨機応変って言葉があるだろう? 動きをしっかり見張る必要があると思う」
こうして、無理矢理オーウェンは残ったのだった。
その一時間後、馬に乗って一人の男が村へ入った。
村じゅうから人が集まり、グリーフの姿もある。
その人物は馬から落ちるように降りると、そのまま地面に倒れ込んだ。
50mほど離れた位置から盗み見ているオーウェンにもわかるくらいの、出血量であった……
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