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第四章 嘘が誠となる時
9:再会②
しおりを挟む翌日、一晩ぐっすりと眠ったアシュリーは、まだ熱は少しあるものの身体を起こせるまでに回復していた。
アシュリーがベッドに座ってスープを食べていると、ヴィクターがやって来た。
「すまない、食事中だったか」
「いいえ、もう終わりにさせて貰おうと思っていたところなので」
「ほとんど食べてないではないか」
ヴィクターの言葉にアシュリーは苦笑いをするしかなかった。
「食欲がないのはわかる。しかし、吐き気があるとかでなければ、もう少し食べないか?」
「……そうですね」
アシュリーは仕方なくそう答えるも、全く食欲がわかずに、スープをスプーンでつついてばかりいる。
その様子を見たヴィクターは、ベッド横の椅子に腰掛け、アシュリーからスープを奪った。
「よしっ、食べさせてやろう!」
「そっ、そんな!結構です!自分で食べられますから!!!」
「遠慮するな。ほら、あーん」
目の前に差し出されたスプーンと、ヴィクターの顔を交互に見てアシュリーは頬を赤らめる。
(ヴィクター殿下、悪戯っ子の表情をしているわ……)
アシュリーは諦めて、おずおずと口を開けた。
「よしっ! ほら、もう一口」
アシュリーは恥ずかしかったが、悪い顔をしながらも真剣に口へ運んでくれるヴィクターへのトキメキが止まらないことに焦っていた。
(殿下はただ介抱をして下さっているだけよ。勘違いしちゃ駄目よ、アシュリー! そもそも私は侍女よ。身分が違うわ。憧れに留めておくのよ!いいわね、アシュリー!)
アシュリーはそんなことを考えながら子供の雛鳥のように口を開けていると、気付くと一皿たいらげていた。
「おお、よく食べたな!」
「……あ、ありがとうございました」
アシュリーは恥ずかしくて下を向いて言う。
「アシュリー、この肖像画を見てくれ」
ヴィクターは真面目な顔で、アシュリーの見えやすいように持って来ていた絵を手で掲げた。
絵に目をやったアシュリーは、目を見開く。
「この人は!?」
「知っているか?」
「……よく似た人を……」
「……アシュリーを襲ったやつか?」
「……はい。そして、陛下と私を誘拐した集団のリーダーのようでした」
ヴィクターは大きく溜め息をついた。
「やはりそうか……」
「あっ、あの、このお方は一体……」
(額に入った見事な肖像画だわ。成人くらいの時に描かれたものかしら……? でも目も左頬の大きな傷も……あの男にとてもよく似ているわ……)
アシュリーは急に"ゾッ"とし、身震いをする。
それに気付いたヴィクターは、すぐにアシュリーの手を握った。
「怖いことを思い出させてすまない。この人はローイ様だ。俺の父ローレンの兄であり、このサンブルレイド公爵家の長男だ」
アシュリーは再び目を見開く。
(あの人が、サンブルレイドを出て戻らないという、ローレン殿下のお兄様だというの!?)
アシュリーが驚きに口をあんぐりさせていると、ヴィクターは苦笑いをしてアシュリーの手を両手でギュッと握った。
"ドキッ"
アシュリーが胸の鼓動で我にかえると、ヴィクターはアシュリーをジッと見て言う。
「アシュリー、俺は今日、城へ向かう。シャインブレイドの在処を書いたノートの場所を教えてくれ」
「場所は聞いていないのです。私が差し上げたノートに書いてあるとだけ……」
ヴィクターの真面目な顔を見ながら、アシュリーは申し訳なさそうに言った。
「そうなのか……。では、ノートの特徴を教えてくれ」
「私も連れて行って下さい!」
「駄目だ! 医者に熱が下がるまで絶対安静にと言われている」
「熱はだいぶ下がりました! 足手纏いになることはわかっています! けれど、私が陛下に命令されたのです! お願いします!!!」
頭を下げるアシュリーを見ながら、ヴィクターは眉を顰めて言う。
「アシュリーが回復するのを待つことは出来ない。俺が先に行くから、熱が下がったらアシュリーも城へ来れば良い」
「しがみつきますから! 馬を飛ばして下さって結構ですから! お願いですから、私も連れて行って下さい! わたしを置いていかないで下さい!!!」
アシュリーはジッとヴィクターの目を見て懇願した。
ヴィクターの瞳に迷いを感じ、ジッと見つめて訴え続ける。
「私、まあまあ根性があるのですよ?」
アシュリーの言葉に、ヴィクターは目を見開く。
「ははっ。それはよく知っている。……わかった、一緒に行こう」
その後アシュリーは、医師の診察を受け、注意点を聞いた。
微熱まで下がったが風邪が治っていないので、ぶり返さないように無理をせず、水分と栄養をしっかり摂るように言われた。
手足の痛みは、骨には異常はないそうで患部を安静にするように言われる。本当は固定をした方がいいと言われたが、馬に乗るのに邪魔なため断った。
頬の傷はガーゼを換えてくれた。洗浄し薬草をすり潰した塗布薬を塗って。
そして、頬の傷は残るだろうと言われた。
(わっ……酷い傷。そして酷い顔……)
久しぶりに鏡で自分の顔を見たアシュリーは、あまりの衝撃に固まった。
コンプレックスだらけの身体の中で、唯一褒められる整った顔立ちが、崩れている。
左頬は熱を持って腫れ上がり口や目まで変形している。
約10cm大の傷口からは膿が出ており、自分ではわからないが異臭もしそうだ。
ジュクジュクした傷を見ながら、アシュリーは思った。
(どうりで痛いはずだわ……。こんな酷い顔をヴィクター様に見られたなんて……。せっかく以前、可愛い顔をしていると言って下さったのに……)
アシュリーは何だかとても悲しい気持ちになったのだった……
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