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第三章 怪しい雲行き
5:"フリ"
しおりを挟む"ガタン…"
「んっ……」
アシュリーは振動で目を覚ました。
(ここは……痛っ!)
辺りを見渡すために起きあがろうと少し動いた瞬間、頭に激痛が走った。
(頭を打ったのかしら……。それに縛られているみたいで全く動けないわ)
アシュリーはダンゴムシのように丸まって横たわっている。
両脚と、身体の後ろで両手を括られており、口にも布を噛ませられている。
アシュリーが横たわる空間以外は、荷物が山積みになっていて何も周囲の様子はわからない。
(この振動……風の音……草の匂い……きっと馬車の荷台だわ! セリーナ様ではなく私が連れて来られたの? どういうことかしら……?)
馬車はそのまま暫く走ったあとで止まり、少しして荷台のドアが開く音がした。
荷物の隙間から、目が合った。
アシュリーは"ビクッ"とする。
暴行を受けた男の目だったからだ。
「目が覚めたか。おい、女を降ろせ」
男が手下に指示をし、荷物がどけられてアシュリーは外に投げ出された。
そこは森の中だった。
前にもう一台馬車がある。
馬車を運転する男性がそれぞれ一人ずつ、あとはアシュリー達を捕まえた男たちの馬が三頭木に繋がれている。
「俺は勉強したんだ。ボケてる奴から話を聞き出すには、脅すのではなくリラックスして過ごさせて誘導すると良いらしい。だから、お前もババアと同じ馬車に乗せる。変なことを考えるなよ。お前もババアもただじゃおかないからな」
アシュリーが目を見開いていると、男に手足を解かれ、口の布も取り去られ、荷物が乗っている馬車の前にある馬車に乗せられた。
そこには、エリザベスと知らない男が一人乗っている。
窓には布が貼り付けられていて、外の景色は見えない。
アシュリーはエリザベスの隣に押し込まれた。
「陛下! ご無事で何よりです! どこもどうもありませんか!?」
「こんにちは」
エリザベスはそう言ってニコッとするだけだった。
「陛下!?」
(様子がおかしいわ。どういうこと……!?)
アシュリーがエリザベスの変化に戸惑っていると、男の視線がこちらにないことを確認して、エリザベスはアシュリーに向けてこっそりウインクをした。
そこでアシュリーはハッとした。
(ひょっとして、時間稼ぎにわざと物忘れがあるふりをしている……?)
「……どこか痛いところはありますか?」
「痛いところ? どこもないよ」
(衣類も汚れていないし、大丈夫そうね。よかった……)
アシュリーがホッとしていると、横の男が急に口を開いた。
「ところで、シャインブレイドはどこにありましたかね?」
「シャインブレイドは本当に綺麗ですよ」
エリザベスはまとを得ない返事をする。
(なるほど、穏やかな空気の中でシャインブレイドの在処を聞き出そうという魂胆ね)
アシュリーは"キッ"と睨んだ。
(犯人たちが優しいのがいつまで続くかわからないわ。助けが来るまで、出来る限り時間稼ぎをしないと……)
アシュリーは無意識に、痛む右足と右腕を左手でさすりながら思った。
そして左の頬が酷くズキズキし熱を持っているのを感じたのだった。
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